~酒だ!~
時をさかのぼる事三時間前、新選組が屯所としている家八木源之丞――通称八木邸。
「いいから早く酒を持って来いって言ってんだよ!」
「新見、そこら辺にしとけ俺たちはここに厄介になってんだ」
「しかし、芹沢さんの酒が足りません」
「俺なら大丈夫だ、平山!酒を買ってこい!」
「…はい」
「お前はそれくらいしか出来ねーだろ、勝手に力士と喧嘩して負けて帰ってきゃがって、次やらかしたら殺すぞ」
小さく返事をした平山は酒屋まで買いに行く。
「芹沢さん、平山を殺さないんですか」
「おそらく今夜死ぬ」
「土方によって、ですか?」
「あいつは俺を殺そうとしている、そん時の盾にでもなるだろう」
「一緒に沖田もついてくるでしょう、あいつは土方同様近藤に尽くしている、私が沖田と相手をしましょう」
「好きにしろ」
「俺は相手が誰であろうと、逆らう奴は殺すだけだ」
そう言って、口元を緩ませた。
それを見た新見は、思わず息を飲む。
「どうした、俺が怖いか?」
「いいえ、流石だと」
「俺はな、酒を飲むほど俺の刀は強くなる」
新見を見ながら自分の刀をなでる。
それから暫くして平山が戻り、新たに酒盛りを始める。
思いの外酒が進み芹沢の足はおぼつかなくなっていた。
平山は酒を飲まず、想像もしていない時間が刻一刻と過ぎていた。
新見はほろ酔い状態でその時間を待っていた。