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女子高生は着せ替えられたい  作者: きょうりゅう
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 何を言っているか正直全く、これっぽっちも理解が出来なかった。俺は日本語が不自由になってしまったのだろうか。あるいは失礼を承知で理事長に日本語が間違っていると伝えるべきか。


 迷って迷って喉から絞り出した言葉が、


「えっと…」


 だった。


 理事長はわざとらしくぶんぶんと豪快に首を振りながら続ける。


「分かる!君が理解出来ないのはよお〜〜〜く分かるよ!ならばもう一度言おう!君には、女子校である、太陽学園の生徒になってもらう」


 思考が停止して実際は5秒くらいだろうが、俺には1時間が経ったように感じられた。

 そして、脳内でやっと理事長が発している日本語の翻訳が完了したとき、やっと声、というか奇声を発する事が出来た。


「えっええええええええええええええええ」


「はっはっは!今日一番の大きな声だね!元気元気!」


「いやいやいや何言ってるんですか太陽学園って理事長も知ってると思いますが女子校ですよね!?それでもってここは男子校で俺はここに入学するってことか男で男ってことはすなわち女子校である太陽学園には通うことが出来るはずもなく」


 俺が発する言葉はすらすらと脳を通らずにそのまま口からどんどん溢れ出てきてしまい、早口で何を言っているか自分でもわからないが、理事長はウンウンと笑顔で聞いていた。


 俺は一通り口から出てくる言葉を出し終え息を切らすと、理事長が優しく俺の背中を叩いてくれた。


「そうだね、君の言ってることは正しい。理解に苦しむのももっともな事だ。では落ち着いたら、次は私の話を聞いてくれるかな」


 そう言って俺にお茶を勧めて一息つかせると、理事長は俺に語りかけた。


「月光学園と太陽学園は設立がほぼ同時期でね。勉学の成績も運動の成績もほぼほぼ互角だったのだよ。それが私が理事長に就任する前から何十年と続いてきた。私が理事長になってからもその成績を維持、いや、むしろ太陽学園をあわよくば出し抜こうとさえ考えていた。しかし、ここ何年かの我が校の成績があまり良くなくてね。私も他の教員達も他校のデータを分析したり、新しいカリキュラムを導入したりと出来る限りの手は尽くしたが、改善が見られなかった。しかしそんな我が校を尻目に、太陽学園の成績はどんどん上がっているのだよ。私は我が校と太陽学園は常に負けてはならないライバル関係だと思っている。だからこれは、とても由々しき事態なのだよ。わかるかね」


 わかるような、わからないような。


「はい、それで、俺……僕がその女子校に通うのとどう関係が?」


「わからないかね」


「はい」


「君が、太陽学園に入学し、太陽学園の授業を受け、私に報告するのだ」


「それってつまり、スパイってことですか」


「まあ、偵察だな。彼女たちはどんな授業をどれくらいの時間受けているのか。何を食べてどう成長しているのか。放課後はどう過ごしているのか。我が校にも吸収できるものがあれば吸収し、太陽学園に追いつきたいと考えている。」


 理事長は説明をしている間に先ほどまで見せていた笑顔は消え、真面目な表情になっている。だからこれは、決して冗談ではないのだろうと俺は悟った。でも。俺は説明中ずっと疑問に思っていた事を訪ねてみた。


「なんで、僕なんですか?」


「君は、昨日身体測定を受けた事を覚えているかね。あのデータを参考にさせてもらったよ。女性として高すぎない身長。あまりついていない筋肉。低すぎない声。女性でも通用する名前。その他もろもろを検討した結果、君が一番適任だった」


 確かに俺は今まで運動もしてこず、ゲームやアニメ鑑賞ばかりしてきたので正直体はかなりヒョロく、色白だ。髪型を変え、服装も女性物を着ると後ろ姿なら確かに女性に見える体格かもしれない。


「大丈夫、心配はいらないぞ、桐生くん。太陽学園で出席日数や授業の成績はそのままうちの学校の成績に反映するから、君はただ太陽学園へ通い月に一回、日誌を提出してくれればいい。実は我が校から協力してくれる大人も既に太陽学園の教員として配置しているから、何か相談や助けが欲しかったらすぐに相談もできるぞ。だから君は安心して通学してくれたまえ。」


「で、でも」


 そう言いかけた俺の言葉を遮り、理事長は咳払いをすると、笑顔で、そして本日一番の威圧のある声で一言こう言った。


「桐生くん。これは打診ではなく、決定事項なのだよ。」



***

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