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コンコン
「旦那様、桐生さまをお連れいたしました」
目的地についたのか、佐藤さんが足を止めノックしたドアはかなり立派なもので、普通の教室の入り口ではない事がわかった。
俺は確認のために自分の頭の上に視線をやると、ドアの上に一枚のプレートが掲げられているのを見つけた。
理事長室。
理事長って、もしかして、いや、もしかしなくても学校で一番偉い人なのではなかろうか?俺は、何をしでかしたんだ?嫌な想像が頭を駆け巡る。入学拒否?合格通知は間違いだったとか?そういうニュー スを実際テレビで見たことがある。自分に降りかかっても不思議ではない。もしかして俺、中卒?死ぬほど受験勉強がんばったのに?
「うむ、入りたまえ」
ドアの向こうからはこれまた渋く、そして威厳と自信に満ち溢れた声が響き、俺の心臓は飛び跳ねた。
今の俺の顔は、嫌な想像が頭を駆け巡ったせいで完全に血の気が引き、かき氷ブルーハワイ味よりも冷たく、そして青い自信がある。
おそるおそる佐藤さんの顔を見ると、佐藤さんは、相変わらずニッコリとした表情で軽く頷き、目の前にある理事長室のドアに手をかけ、ゆっくりと開いた。
視界に入ってきたのは、ダンディな男性だ。いや、佐藤さんも十分ダンディなのだが、佐藤さんとはベクトルが違うかっこよさがあった。キリっとした眉と顔立ちに、服の上からでもわかるおそらく鍛えているであろう体格。佐藤さんをおっとりとした犬に例えるなら、理事長は獅子に例えるのがふさわしそうだ。
「やあやあ、よく来てくれたね!桐生楓くん!」
理事長は俺を歓迎するかのように、豪快に出迎えた。
「いやあご足労だった。まあ座りたまえ」
そう言うと、理事長は俺を応接用の立派なソファへと座らせた。おそらく凄く座り心地は良いのだろうが、緊張で心臓が口から飛び出しそうな俺は何も感じることが出来ない。
「それで、君の実家からここまでどれくらい時間がかかったかね?」
「ええと、2時間弱くらい……ですかね」
「2時間!それは通学がさぞかし大変であろう。地元の高校は考えなかったのかね。」
「それは……ええと」
言葉に詰まってしまった。本来なら、ここで「憧れの高校でした」や、「どうしても教わりたい教師がいて」など目を光らせながら力説するべきであろうが、俺の理由はそれらじゃない。ただ、地元から遠く、中学の同級生が来ないような高校へ来たかっただけなのだ。
「お茶が入りました」
タイミング良く佐藤さんがお茶とお茶菓子を出してくれる。これでこの話題が逸れればと思い、お茶を一口飲んで、わざと時間を少し開けた。
理事長は俺を笑顔で見つめウンウンと頷きながら、
「ところで、君は太陽学園を知っているかね」
話題が逸れて俺はホッとしながら無防備に答えてしまう。
「あ、はい。隣駅にある女子校ですよね。太陽学園がどうかしたんですか?」
「うむ、知っているなら話がはやい!」
正面に座っていた理事長は俺のソファの隣に座りなおし、片腕で俺の肩を掴むと、ぐいと顔を近づけて笑顔でこういった。
「君を太陽学園に通わせる」




