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俺はもうすぐ通うことになる月光学園に着くと、少しだけ緊張しながら、正門を通り部外者受付へ向かう。
「すみません、昨日電話で来るように言われている桐生ですけど……」
おそるおそる受付のおじさんに話しかけると、事務作業をしていたおじさんは顔をあげ、ああ、聞いていますよ。こちらをどうぞ、と首にかける入館証明書を手渡してきた。これをつけて校内を歩くのだろう。今の世の中は物騒だからな、不審者でない証拠を身につけるのだ。
「あ、どうも」
入館証明書を受け取り首にかけると、受付のおじさんがどこかへ電話をしだした。おそらく佐藤さんへ俺が来たと伝えているのだろう。電話はすぐ終わり、おじさんは笑顔とともに少々ここでお待ちください。と伝え、自分の作業に戻っていった。
ほんの2、3分たった頃。
「お待たせいたしました。桐生楓さまですね」
そう言って現れたのは、ザ・セバスチャン。
誰が見ても見た目がそれと言わざるを得ない風貌。黒のスーツに身を包み白の手袋を装着、髪はロマンスグレーで一切の乱れもなく、立派な口ひげをたくわえている。出来ることなら俺もこう老いたいと思わせるような上品な風貌だった。
「さ、参りましょう」
セバスチャン、もとい佐藤さんに連れられ、俺は歩き出す。
「あのぅ、今日は……俺、昨日忘れ物でもしたんですか?」
「いいえ?」
道すがら、恐る恐る佐藤さんにに尋ねると、俺の緊張をほぐそうとするかのように佐藤さんはニコリと微笑んだ。
「じゃあ…どうして」
再び尋ねる俺に、佐藤さんは笑顔を向けた。
「それはもうすぐわかりますよ、ただ、私から申し上げられる事は…そうですね」
佐藤さんは立派な口ひげを撫でながらこちらに向き直り、一言
「きっと、楽しい学園生活になりますよ」
そういって、お茶目にウインクをしてみせた。