閑話 キンタの周りの生き物達1 スレイプニル
私の自慢は城戸慎也選手の直筆サイン入りスレイプニルを持っていることです。
スレイプニル。
俺は神話とかわからないので8本足の馬だという事しかしらない。
で、今屋敷の厩舎にスレイプニルがいるということで遊びにきた。
「ひひーん、ぷるるっ!」 プルプル
おー、おるおる。
確かに足が8本あるな、きもい。
生後6カ月らしい。
まだプルプルしてるけどいいんだろうか。
野生だと死にそうだな。
鹿とか生まれてすぐ走り回るのに。
厩舎の人に聞いたところ、どうやら8本足をうまく使えるようになるまでには1年ほどかかるらしい。
それまでは普通の馬よりも歩くのすら下手で、野生での生き残りはほぼないそうな。
そもそもスレイプニルは普通の馬から突然変異で生まれるわけだが、そのスレイプニル自身に走る才能がないと普通の馬より足は遅くなる。
だってどう見ても足邪魔だもんな。
野生のスレイプニルが例外なくクソ早いのは才能あるスレイプニルじゃないと生き残れないからみたいだ。
なるほどなぁ。
「ひひーん…。」
こいつも今の話を理解している見たいだ。
不安げである。
賢い。
「ねぇ、こいつの名前は?」
「おう、南大陸風の名前でな、風を切るような早やさで走れるように、風早って名をつけたんだ。」
厩舎の人が答えてくれる。
風早…。
イケメンな名前貰ってんな。
内気な女の子に文化祭で派手に告白しそうな名前だ。
それから俺は風早君の所にちょくちょく顔を出して、面倒を見ていた。
ブラッシングしたり蹄鉄の調整をしたり、走る練習をしたり。
厩舎の人もとい、馬丁頭のマントムさんともすっかり仲良しになった。
そして数ヶ月経ったある日。
「風早君いくよー!」
「ひひーん!」
俺が走り始めるとその後ろを風早君がついてくる。
日課となった走行練習権、お散歩だ。
はじめの頃に比べるとかなり走るのは早くなった。
当然もうプルプルしていない。
少しずつスピードを上げて行きながら走っていると……。
ドン!!
俺と風早君の周りに衝撃が走る。
ここ最近は早く走り過ぎて音の壁を突き破ってしまうのだ。
風早君は天才かもしれない。
そして1時間ほど野山を駆け回る。
「よーし!一旦きゅーけー!」
「ぶるるぅ!」
最近のお散歩コースである平原で休憩を取る。
俺はサンドイッチをむしゃむしゃ。
風早君は俺の畑製お野菜と薬草をむしゃむしゃ。
以前、風早君に一度俺の畑の野菜を食べさせたら以降それしか食べなくなってしまった。
元気に育ってるからいいのだが、俺としては複雑な気分だ。
なんせ俺のうんこに直接植えてる野菜だし。
まぁ俺も食べてるんだけど。
そして考える限り最も原始的な方法で火を起こし、お茶を飲んでまったりした後、帰路に着く。
火の始末をして荷物を片付けたあと、俺は風早君によじ登り、またがる。
まだ小さい風早君だが、実はもう人を乗せる事が出来るようになったのだ。
しかし8本足で音速を超えて走りながら人を乗せるのはかなり難しいらしく、ここ最近、帰りは俺が乗って騎乗練習をしている。
ちなみにどうでもいいが、音速を超えるスレイプニルに乗れるのは普通、強力な魔法使いにしか出来ない。
吹っ飛ばされて死ぬからね。
魔法使いは強力な防御系魔法で身を守って乗るらしい。
しかもそういった魔法は魔力消費が激しいので数分しか展開できないそうだ。
というわけで、俺の知ってる範疇では今の風早君の全力に付き合えるのは俺しかいない。
脳筋系肉体チーターの俺しか。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
「ひひーん!!」
駆け出した風早君はあっという間にトップスピードに達し、音の壁を突き破る。
……俺は普通に乗ってるけど大丈夫なんだろうか?
目も開けてるし息もできる。
自分の体がちょっと怖い。
そのまま走る事数分。
街道に出た。
まぁ街道をこのスピードで走るのは危ないので、少し離れて走るが。
街道沿いを走っていると、前方に明らかに野盗に追いかけられている馬車を発見。
「ひひーん。」
賢い風早君はトップスピードを維持したまま盗賊の間をすり抜け、その衝撃で野盗を蹴散らす。
そのまままた街道から離脱。
野盗たちには何が起きたかわからなかっただろうな。
その後は特に何も起きるでもなく、いつも通り領都に到着。
流石に領都内はゆっくりと歩き、屋敷にもどる。
厩舎に到着したら、風早君のブラッシング。
風早君は十分走って疲れたのか、うとうとしている。
かわいいなぁ。
……ドーン!!
次の瞬間俺は吹き飛ばされた。
何が起きた!?
軽くパニック。
辺りを見回すと、そこにはガチギレのリリア。
リリアに体当たりされて吹っ飛んだみたいだ。
ガチギレリリア曰く、「お前『キンタ』だろうが!クマに乗れや!」とのこと。
リリアには金太郎の話聞かせちゃったからなぁ。
「すまん、すまん。この風早君の練習に付き合ってたんだよ。」
俺は風早君に視線を向けながらリリアに言う。
「ぐるるぅ……。ぐるぅ!?」
俺の視線に誘導されて、風早君の方を見て謎の衝撃を受けているリリア。
どうした?
……リリアとの契約を通して俺に伝わるリリアの感情、……圧倒LOVE!
えぇ……。
クマとウマって成立するの?
異世界はなんでもありなの?
「ひひん。」
風早君もなんかもじもじしてるし。
うーむ。
「まっ、仲良くしてくれ。」
俺は考えるのをやめた。
その夜リリアが厩舎から帰る事はなかった。
この時、リリア1.5歳、風早君1歳の出来事である。
落ちなし!
読んでくれてありがとうございます。




