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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第一章 覚醒してゆく才能
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003 神の力

 ヴィゼンド洞窟を後にした俺はこれからの事を考えながら草原を歩く。

 この力があれば世界を征服することなど容易いだろう。

 伝説の『魔法ディザ・ベル』の力。

 小さい頃に読んだことのある童話に登場する、唯一無二の『神の力』――。


「くく……くくく……! くははははは!!」


 俺は、力を手にしたんだ。

 焦ることなど無い。

 じわじわと俺の力を世界に知らしめていけば良い。

 じっくりと、味あわせてやる。

 俺が今まで受けてきた苦しみを、怒りを。

 少しずつだ。

 一気に力を見せつけてはつまらない。

 王者の風格を、余裕を見せつけてやるのだ。

 全ての人間に、俺の『凄さ』が心の奥まで浸透するように――。


 大眠兎スリーピィラピッドからは報酬素材である『大眠兎の白紫毛皮』を剥ぎ取った。

 別にもう、律儀に依頼を達成する必要は無くなったのだが、これは云わば『暇潰し』だ。

 世の中に力を見せつけるのはいつだって出来る。

 もう、俺の心には何一つ悩みなどは無い。

 全てを『理解』し、全てを手に入れた。

 後はそれを『形』にしていけば良いだけなのだから――。


「こんなに清々しい気分になったのは何年ぶりだろうか……」


 空を見上げ、深呼吸をする。

 『大翼鴉』が鳴き声を上げながら優雅に飛んでいるのが見える。


凍れフリーズ


 たった一言、そう呟いただけで大翼鴉はそのまま動きを停止する。

 そうだ。

 この力がどこまで有効かを検証するのも面白い。

 頭では理解出来ていても、俺はまだ力を手にしたばかりなのだ。

 上手く使いこなすためには訓練が必要なのかも知れない。

 言ってしまえば膨大な力の『説明書』が頭の中にある状態だ。

 それを上手く噛み砕き、自分なりに使いこなせるようになれば良い。


「空、か……。そこから見える風景とはどんなものなのだろうな」


 人類は未だ空を飛ぶことが出来ていない。

 『技』の力を駆使しても、空中を闊歩できるのは鳥型のモンスターか羽虫型のモンスターか。

 俺もいずれ、優雅に空を飛び回ることが出来るのだろうか。

 脳内にある『説明書』は可能だと答えている。

 これもいずれ検証してみる価値があるだろう。


 遥か中空で凍ったまま停止している大翼鴉に右腕を翳す。

 氷結化した腕の先からいくつもの氷柱つららがバリバリと音を立てながら連なっていく。

 そのまま獲物に到着した氷柱つららは対象を破壊する。

 鴉の内部に突き刺さった氷柱つららから大翼鴉の素材を掴み取る。

 《大翼鴉の結塊臓》。

 赤く輝く心臓は、加工屋に持っていけば希少な宝石となる。

 腕の良い弓撃士アーチャーでもなかなか狩ることが出来ないといわれている『大翼鴉』。

 それをいとも簡単に狩ることが出来る力――。


「ミリアにでもくれてやるか……」


 思えば彼女にプレゼントをしたことなど一度もなかった。

 そんな余裕も金も無かったのだから仕方が無いのだが。

 ギルドに向かう前に街の加工屋に寄ってみよう。

 




 行きとは違いゆっくりと時間を掛けて街まで戻ってくる。

 すでに日は暮れ、ほとんどの店は閉まっていた。


 俺はそのまま加工屋の店の門を叩く。

 何度叩いても返事が無いが、しばらくすると主人のブッカが怪訝な表情で顔を出した。


「まったく、誰だこんな時間に……。なんでぇ、クレルか。なんか用か」


 明らかに不機嫌そうに答えるブッカ。

 今朝までの俺だったらここで頭にきてしまうところなのだが、今は違う。


「悪いな。ちょっと仕事を頼みたくて寄ってみたんだが」


「仕事だぁ? そんなの明日にしろよ。お前の目は節穴か? この『CLOSE』の札が見えないのか」


 店の門に立てかけてある札を叩き、店内に戻っていこうとするブッカ。

 閉じられそうになった扉の隙間に、俺は足を挟む。


「これを今すぐ加工して欲しい。お前も滅多にお目に掛かったことは無いだろう?」


 懐から《大翼鴉の結塊臓》を取り出しブッカに手渡す。

 それをまじまじと眺めていたブッカは真剣な表情で俺に尋ねた。


「……お前、これをどこで?」


「まあ、上がらせてくれ。そうしたら説明してやる」


「……ふん、良いだろう。上がれ」


 遂に観念したブッカは扉を開け、俺を中に招き入れる。

 商品が乱雑に並べられている店内を潜り、俺は奥の部屋へと案内される。

 部屋の奥のテーブルにはウイスキーの瓶が置かれていた。

 酒を飲んでいたのか。

 それを邪魔されてこんなに不機嫌だったんだな。

 俺は適当な椅子に腰を掛ける。


「本物なんだろうな、これは」


「お前は加工屋だろう? 本物かどうか見て分からないのか」


 俺の言葉にムッとしたブッカはウイスキーの瓶を煽り、再び結塊臓をまじまじと眺めている。


「……ふむ。まあ、本物だったとしても今日はもう店じまいだからな。預けてもらえれば、数日のうちに加工してやるさ。加工料は25000Gといったところか」


 結塊臓をテーブルに置き、ニヤニヤとした顔を俺に向けそう言うブッカ。

 俺にそこまでの金が無いことを分かっていて吹っかけてきている。


(やはりこいつもクズか……)


 俺は思案する。

 ここで殺してしまってもいいが、それでは面白くない。

 俺は脳内の『説明書』をイメージする。

 その中にブッカに加工させるひとつの方法が記載されてあった。


(試してみるか……)


 俺は人差し指を立て、ブッカの額に向ける。

 既に酔いが回っているブッカは焦点が定まっていない。

 そのまま奴の額に人差し指を当てる。

 そして『魔法ディザ・ベル』を発動する。


「……?」


 指先から少量放たれた氷の微粒子はブッカの額の毛穴から内部に侵入する。

 そして血管の中に入り込み、血液の中を泳ぎ出す。

 俺の脳内ではブッカの汚れきった血管内が鮮明に映し出されている。

 アルコールで汚れた血液を遡り、奴の脳へと進入する。


「いいから加工しろ。加工料は請求しない。いいな」


「……あ、ああ。分かった」


 俺の命令通り、ブッカは結塊臓を持ち出し加工場へと向かっていった。

 どうやら成功したようだ。

 人の脳に氷の微粒子を送り込み、直接命令を下す――。

 これで無闇に殺さなくても、俺の支配下に置くことが出来る。


「くく……。あの人の意見を聞かないブッカが……。くくく……」


 笑いを堪え切れなくなり、ついほくそ笑んでしまう。

 部屋の向こうでは、さっそくブッカが加工を始めている音が聞こえてくる。

 出来上がるまでこの部屋で待たせてもらおうか。

 俺は勝手に部屋の中を物色し、隠してあったワインを見つけグラスに注ぐ。

 これは年代物のワインだ。

 酒好きのブッカが隠しているくらいなのだ。

 恐らくかなり高価な酒なのだろう。


 俺は一気にグラスを傾ける。

 上品な香りが鼻に抜け、次第に胃壁が熱くなってくる。

 ワインを飲むのも久しぶりだ。

 居候の俺にはそんな嗜みも許されてはいなかったから。


(家に戻ったらメイドを洗脳して俺専用のワインを用意させるか……)


 二杯目を喉に流し、そう思案する。

 これからは俺があの屋敷の主だ。

 テレミウス伯爵はどう思うだろうか。

 出張から戻ってきたら、屋敷の様子が様変わりしていたら――。


 少しずつ。

 少しずつだ。

 周りの人間には、あたかも俺が成長し、次第に能力を開花させたと思わせたい。

 そして周りの信頼を十二分に得た後、俺は『全て』を支配する。

 これは俺の英雄譚だ。

 歴史に俺の名が刻まれるまで、俺は演技を続けよう。


 

 何故なら、『神』になった俺の命は、永遠なのだから――。  



















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