024 遠征当日
2日後。
予定通り俺は巨龍種を討伐するため、技能開発科の生徒らを集め出発の準備をした。
心配そうに俺を見送るミリアだったが、彼女はシイラに任せておけば問題ない。
テレミウス伯爵からは、この遠征で武勲を挙げることが出来れば、今後伯爵家のパーティに俺を息子として同行させると告げられた。
当初の予定ではテレミウス家を乗っ取るつもりでいたが、ミリアのこともある。
表向きは義父であるテレミウスと仲の良い親子を演じておきたい。
『魔法』の力を手に入れてからというもの、俺の心には余裕が生まれ始めていた。
今まで一体、何をそんなに憎んでいたのか。
親の敵だの、見返してやるだのと考えていたことが随分と過去の出来事のように感じた。
「それでは行って参ります。シイラさん」
「……お気を付けて。クレル様」
シイラと他のメイドに挨拶をした俺は荷物を持ち訓練校へと向かう。
時刻は正午前。
ミリアやレイノは既に登校し、今は午前の授業の最中だろう。
俺はひとり、暖かな日差しを浴びながら中央通りを歩く。
まずは生徒らを連れ、隣町へと向かう。
そこにギルド本部へと直行する馬乗りと馬車を手配してある。
片道およそ半日の旅。
ギルド本部が置かれた要塞都市バトランドに到着したら、そこで指示を仰ぐ。
レグザから聞いている前情報では、やはり《王立騎士団》も動くようだった。
希少価値の高い《龍玉石》が大量に採掘される鉱山での巨龍種の異常繁殖。
原因は未だ不明とのことだが、金に関わる問題に国も黙ってはいないようだった。
訓練校に到着し、俺はそのまま旧校舎へと向かう。
技能開発科の教室に到着し扉を開く。
「あ、先生! おはようございまーす!」
リリィが元気良く挨拶をする。
「おっそいわよ、クレル先生。もうそろそろ出発の時間じゃない」
不貞腐れたようにゼシカが後に続く。
「……」
「……」
アーリアとジルは俺と目を合わそうともしない。
しかしちゃんと出席をしているということは、課外授業には参加するつもりなのだろう。
「……で、どうしてここにフィメル先生がいらっしゃるのですか」
教卓の陰に身を屈めているフィメル。
これでも隠れているつもりなのだろうか。
未だにこいつが腕利きの策略師だということが信じられない。
「お、おはようございます! あの、これは、その……」
「はい先生! フィメル先生も課外授業に参加したいって言ってました!」
「あ、ちょっとリリィちゃん!」
慌ててリリィの口を塞ごうとするフィメル。
俺は大きく溜息を吐き、諭すように話す。
「フィメル先生。貴女はご自身の授業があるでしょう。生徒達はどうするおつもりですか」
「フィメル先生のクラスの生徒は、みんな授業をボイコットして何処かに行っちゃったんだって。まあ、いわゆる学級崩壊ってやつ?」
「ちょっとゼシカちゃん! それは内緒にしておいてってさっき……きゃっ!」
今度はゼシカの口を塞ごうとしたフィメルだが、勢い余って転んでしまう。
俺は頭を抱え、リリィとゼシカを交互に睨む。
「目が怖いです先生……」
「そんな目で見られても知らないわよ。追い出す訳にもいかないし、ねえ? アーリア、ジル」
ゼシカの問い掛けにわずかに反応する2人。
しかし俺と目が合った瞬間にまたそっぽを向いてしまう。
「あれ? なにその反応……。珍しく登校してきたと思ったら、急に無口になっちゃって。訳わかんない」
納得のいかない表情でそう答えるゼシカ。
それを不思議そうに眺めているリリィ。
「とにかく。フィメル先生はご自身の教室にお戻り下さい」
「で、でも……! 私も一緒に……クレル先生と……その……」
床に倒れたままモジモジしだすフィメル。
どこからどう見ても教師には見えない。
「私もフィメル先生が一緒だったら楽しいと思います!」
「リリィちゃん……!」
リリィの助け舟に目を輝かせるフィメル。
「まあ、これでも戦術科の教師だもんね。モンスターとの戦闘の時とかに、状況判断に迷ったら頼れるだろうし。それに女性の教師がいたほうが、私達にとってもありがたいし」
「ゼシカちゃん……!」
今にも泣きそうな顔でゼシカに擦り寄るフィメル。
「……アーリアとジルはどうだ?」
俺に名前を呼ばれ、びくりと肩を揺らす2人。
その反応に笑い出しそうになるのをなんとか堪える。
「べ、別に……私はどちらでも構わない」
「……僕も特に意見は無い」
目を逸らし、そう答えた2人。
その反応を興味深そうに眺めているリリィ。
「(ねえねえ、ゼシカちゃん! あの2人って先生となんかあったのかな?)」
「(えー? そう? 別に体調が悪いとか、そんなんじゃないの?)」
「(もう! ゼシカちゃん鈍すぎ! ……おっぱい大きい子は鈍いって本当の事だったんだね)」
「聞こえてるわよ! この脳内お花畑女!」
「ひどい! それひどい! ゼシカちゃん、わたし立ち直れない!」
立ち上がり、口論が始まったリリィとゼシカ。
「……もういい黙れ。お前らの声は頭蓋骨に響く……」
こめかみを押さえ、俺は倒れたままのフィメルに手を差し伸べる。
「良いでしょう。理事長のほうには俺から話をしてみます。立てますか?」
「ほ、本当ですか! クレル先生……きゃっ!」
俺の手を掴もうとして手を滑らせたフィメル。
ここまで来ると、もうなんと言っていいのか分からない。
俺は痛むこめかみを押さえたまま、大きく溜息を吐く。
俺を含め、ギルド本部へと向かうのは全部で6名。
ここで功績を残せば、俺の未来は一気に広がりをみせるだろう。
そして俺は世界に名を残す。
俺の名は永遠に人々の心に刻まれ、人類すべてが俺に跪く。
そのあとはどうする?
女共に子を産ませ、神の力を世に広めるか。
一人で世界を掌握するのは骨が折れる。
俺の分身を誕生させ、世界を分かち、統治しよう。
『魔法』の力を子に継承させることは可能だろうか?
俺の脳内にある『説明書』は可能だと答えている。
やはり神の力に不可能は無い。
ならばいずれ『技』の力を禁忌とし、『魔法』の力を善としよう。
この世のあらゆる『技』を駆逐してやる。
魔法さえあれば、『技』の力など皆無に等しい。
俺がそれを証明してやろう。
この世の理を根底から覆してやる――。
俺の心に冷たい野望の炎が舞い上がった。




