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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第一章 覚醒してゆく才能
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008 技の発動

 ギルドに到着すると、さっそく同僚のグラッドが俺に声を掛けてきた。


「よう、クレル。今日は遅い出勤だな。やっぱデキる男は違うよな」


 嫌みったらしく笑いながら俺の肩に手を置くグラッド。

 その様子を見た他の同僚達も笑いを堪えている。

 俺は気にすることなく中央の席に座る。


「皆いつ戻ってきたんだ? 確か緊急招集が掛かって出掛けていると聞いたが」


 テレミウス伯爵の依頼をこなすためにヴィゼンド洞窟に向かった時には、既にギルドには誰もいなかったはずだ。

 皆が戻るまではレグザを相手に『技』の練習をしておこうかと思っていたが、その手間も無くなった。


「今朝だよ。ギルド長から何も聞いていなかったのか? そういえば今日はまだ来ていないな」


 レグザが来ていない?

 まさか、俺の知らない『魔法ディザ・ベル』の副作用でもおきたのだろうか。

 レグザにかけた氷魔法はあのまま解かずにおいた。

 最小限に威力を抑えたから、命に支障は無いはずなのだが――。


「なにか聞いてるか、クレル。ここに残ったのはお前とギルド長だけだし……。まさか飲み過ぎて二日酔いとか言わないよな」


「さあな。確かに昨日会ったときにはブランデーを煽ってたからな。後で様子を見にいってみるよ」


 レグザの家はテレミウス家の屋敷からそう離れてはいない。

 ギルドでの仕事を終えたらその足で寄ってみよう。

 もしかしたら本当に二日酔いで倒れているだけなのかも知れないが。


「じゃあついでにこの雑用も片付けておいてくれよ。俺ら、帰ってきたばかりで疲れてるからさ」


 そう言ったグラッドは俺の目の前に大量の書類を投げ寄こす。

 恐らく緊急招集が掛かったメンバー全員分の報告書だろう。

 これだけ大量の報告書ということは、かなり大掛かりな召集があったのだろう。

 もしかしたらうちのギルド以外にも召集が掛かっていたのかもしれない。


 俺は書類の束を横目にしながら、何も言わずに席を立つ。


「おい、待てよクレル。どうして書類を置いたままどこかに行こうとしてるんだ?」


 再び俺の肩に手を掛けるグラッド。

 一瞬、その腕を凍らせてやろうかと思ったが、他の同僚達が見ている。

 ここで騒ぎを大きくしても俺にメリットは無い。

 俺は軽くグラッドの手を払い、奴の正面に立った。


「もう、こういうのはやめにしないか? 依頼を受けたら報告書を書いて、依頼主に提出するまでがルールだろう。今までは俺が代わりに書いていたけれど、これからは自分でやるべきだ」


「……あ?」


 俺の返答が気に入らなかったのか、見る見るうちに表情が変化するグラッド。

 そして俺を取り囲む同僚達。

 もう何度も目にしてきた光景。

 3年間――。

 俺は3年間も、こいつらにリンチを受け続けてきた。


「お前はいつからそんなに偉くなったんだ?」


 グラッドが俺の胸倉を掴む。

 周りの同僚達はニヤニヤとした顔で事の成りゆきをただ見ているだけ。


「別に偉くなったわけじゃないさ。ただ、以前までの俺とは少しだけ変わっただけだ」


 俺の返答に一瞬沈黙するグラッドと同僚達。

 そして次の瞬間には大爆笑に包まれる。

 俺は溜息を吐き、腰に差した曲刀シミターを抜く。


「はあ? なに抜いてんだよ。俺とやろうってのか?」


 胸倉を掴んでいた手を離し、腰に差したロングソードを抜こうとするグラッド。

 周りの奴らの表情も豹変する。


「裏の訓練場でデュエルをしないか? 負けたほうが1人で報告書を仕上げる。これでどうだ?」


 黒銀の刃を光に反射させ、俺はグラッドに提案する。

 眩しそうに目を細めるグラッド。


「はっ、俺にデュエルを申し込む奴がこの街にまだいたなんてな! それがまさかクレルとは! 笑わせてくれるぜ! なあ、みんな!」


 グラッドの一言により再び爆笑する同僚達。

 俺はそっと曲刀シミターを鞘に仕舞う。

 当然、グラッドは気付いていない。

 すでに光に反射させた氷の微粒子を、奴の眼球から体内に忍ばせたことを――。

 奴の身体を徐々に蝕むように調整した氷魔法――。

 

 俺は誰にも見えないようにニヤリと笑う。





 ギルドの裏手にある整備された訓練場。

 俺がレグザの大斧で気絶させられたのはつい先日の事だ。

 あの時もこいつらはただ笑って眺めていただけだった。

 俺が一方的にやられるのを、酒を飲みながら見るのが奴らの日課だった。

 しかしもう、そんな日々は戻ってこない。

 

 ロングソードを構え、余裕の表情で同僚達に手を振るグラッド。

 確かにグラッドはこのギルドでも、レグザを除けば1位2位に位置するほどの実力者だ。

 噂では次期ギルド長の話があがっているのだとか。

 本部からの通達があったのか、レグザが推薦したのかは定かではないが、俺はその話を聞くたびに嫉妬した。


「なあ、クレル。その変わった刀を手に入れたから、ちょっとだけ調子に乗っちゃったんだよな? まさか本当に俺に勝てるとか思っていないよな?」


 くるくるとロングソードを回しながら俺の周りをゆっくりと歩くグラッド。

 どのタイミングで俺が攻撃を仕掛けても、絶対に弾き返せる自信があるのだろう。

 俺は静かに鞘から曲刀シミターを抜く。


「……マジでやるつもりか。どうかしちまったんじゃないのかクレル。死んでも知らねぇぞ」


 目の色を変えたグラッドはロングソードを構え念じる。

 峰に刻まれた紋章が光り輝き、そのまま地面を蹴ったグラッド。

 奴の得意とする突進系の『技』。

 俺はその場でバックジャンプをする。

 そして曲刀シミターを構え、念じた。


 黒銀の刃に刻まれた紋章が光り輝く。

 それと同時に氷の微粒子を紋章に潜り込ませる。

 一際大きく輝く紋章。


「まさか……!」


 ロングソードを突き出したまま表情が一変するグラッド。

 俺が『技』を発動するとは思いもしなかったのだろう。

 しかし、これは『技』ではない。

 『魔法ディザ・ベル』だ。

 俺だけに与えられた『神の力』――。


「《常闇ラクーザ》」


 逆手に持った曲刀シミターをそのまま地面へと突き刺す。


「なっ……!?」


 突如地面から突き出された曲刀シミターがグラッドの右脇腹を掠める。

 今の一瞬の殺気で身体を反転させて致命傷から逃れたのだろう。

 流石は次期ギルド長を推薦されただけの事はある。

 俺はそのままもう一度念じ、紋章を輝かせる。


「ちぃっ……! させるか!」


 反転した反動を利用し、そのまま左足で地面を蹴ったグラッドは、横回転をしながらこちらに突っ込んでくる。

 機敏な動き。

 応用性。

 ――やはりこうでなくては。

 弱い者をいたぶっても何も面白くはない。

 強い相手だからこそ、捩じ伏せた時の達成感がまた格別なのだ。


「《スピニング・ディザスター》!」


 そのまま回転斬りを放つグラッド。


「《友引ディアル》」


 目の前の空間を曲刀シミターでスッと撫でる。

 切り裂かれた空間から赤い手が伸びる。

 ギギギギと奇怪な音を立て、無理矢理空間をこじ開ける赤い手――。


ガキン――!


 という音と共に、グラッドの放ったロングソードが化物の歯により受け止められた。


「くっ……! 何なんだ! その奇妙な『技』は……!」


 体制を立て直そうと、もう一度地面を蹴ったグラッド。

 ――何度向かってきても無駄だというのに。


「……なあ、グラッドの奴、さっきから何をやっているんだ?」


 観戦している同僚の内の1人がそう言っているのが聞こえる。


「ああ、確かに。クレルの奴は普通に曲刀シミターを振るっているだけなのに、グラッドの奴は何故か押されいて……?」


 もう一人の同僚も首を傾げながらそう呟いている。


 ――そう。

 こいつらには何も・・見えていない・・・・・・

 俺が曲刀シミターを振り、紋章が光輝く部分しか目視が出来ないのだ。

 グラッドは先程掛けた『魔法ディザ・ベル』により幻覚を見ているに過ぎない。

 地面から突き出た刃も、空間を引き裂いて現れた怪物も。

 全ては『偽り』の産物――。

 奴は俺の作り出した幻覚と闘っているのだ。


「くっ……! どうなっている……!? 何故、俺の攻撃が効かない……!」


 闇雲にロングソードを振るうグラッド。

 しばらくはこいつで遊んでやろう。

 終わらない悪夢と戯れるがいい。

 俺が受けた苦しみを、嫌というほどその身に刻み込んでやる――。


(くくく……! くはははは……!)


 俺は心で笑う。

 グラッドで飽きたら、次はお前らだ。

 一人一人、じっくりといたぶってやろう。



 永遠に忘れなれない恐怖を、お前らに――。

 






 













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