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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第一章 覚醒してゆく才能
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007 新たな主

 再び長い中央階段を降り、リビングルームへと向かう。

 キッチンではシイラが夕飯の下ごしらえをしていた。

 あの様子ではテレミウス伯爵が戻ってくるのは今夜なのだろう。

 こんなに早くから夕飯の準備をする理由はそれしか考えられない。


 俺の足音で後ろを振り返るシイラ。

 当然怪訝な表情で俺を見る。


「……まだお出掛けになられていなかったのですか」


 はぁ、と軽く溜息を吐き、そのまま再び下ごしらえを始めてしまうシイラ。

 あの目――。

 完全に俺を小馬鹿にしたような目。

 思えばシイラは初めて出会ったときからそうだった。

 俺がこの屋敷に引き取られた3年前と時を同じくして、シイラは見習いとしてテレミウス家で仕えるようになったのだ。


「シイラさん。少しお話をしませんか」


 俺の声掛けにより手を止めるシイラ。

 そして明らかに不機嫌そうにフキンで手を拭き振り返る。


「……クレル様。こんなことは言いたくはありませんが、あまりサボってばかりいるとご主人様に言いつけますよ」


 人を見下したような表情で俺に言い放つシイラ。

 こいつの心の中を調べるまでもない。

 俺は無言のままシイラに近づく。

 その異様な雰囲気に、明らかに警戒するシイラ。

 俺は右腕を挙げ、人差し指を伸ばす。


「……何をするつもりですか。おふざけになっていないで、早くギルドに――」


黙れ・・


「っ――!」


 俺の指先から放たれた氷の微粒子がシイラの体内を駆け巡る。

 一体何が起きているのか理解出来ない様子のシイラ。


「くくく……。声が出せないか」


 俺はそのままシイラの綺麗な銀髪に触れる。

 咄嗟に俺の腕を振り払おうとするシイラ。


動くな・・・


「んっ――!?」


 今度は俺の命令により身体が硬直してしまう。

 俺はそっとシイラの腕を取り、細い指先にキスをする。

 先程まで料理をしていたからだろう。

 唇を伝って冷たい指の温度を感じる。


「シイラ……。君はこんなに美人なのに、どうして他人に優しく出来ないんだ?」


「あ……う……」


 言葉も話せず身動きも取れない彼女は、目を見開いたまま恐怖の表情に変わる。

 いいぞ、その目だ。

 存分に恐怖を味わえ。

 心の奥底まで、俺を畏怖しろ。


(氷の微粒子はこれくらいで調整すれば、相手の意識を保ったまま命令出来るのか……。くくく……ならば色々と楽しめそうだな……)


 レグザに命令したときのように意識まで操ることも出来るのだが、それでは俺に対する恐怖を植えつけられない。

 彼女の意識は覚醒したまま、じわりじわりと恐怖を植えつけていく。

 心の底まで俺を畏怖し、俺を尊敬させるために――。

 この屋敷の新たな主が誰なのかを分からせるために――。


「……おや? シイラ。震えているのか?」


 膝をガクガクと震わせていることに気付き彼女の膝に触れる。


「!」


 俺の手が触れた瞬間、シイラは更に目を見開き恥辱に顔を赤面させる。

 彼女のこんな表情を見るのは初めてだ。

 3年も一緒に生活をしていて、俺は彼女の冷たい眼差ししか見たことがない。

 俺はそのまま彼女の太股に手を伸ばす。


「う……!」


 ビクンと身体を動かし反応するシイラ。

 その様子に満足した俺は手を離し椅子に座る。


「いいか。良く聞け、シイラ。今日からこの屋敷の新しい主はこの俺だ」


 足を組み、顎に手を置き言い放つ。

 俺の心の中に優越感が満ちていく。

 しかし、シイラはあからさまに表情が変化していった。

 いつもの、俺を馬鹿にした表情へと――。


 まだ分からないのか。

 俺にそのような表情を向ける意味が、どういうことなのかを。

 俺は溜息を吐き、再び立ち上がる。

 そして指を彼女の額に当てる。


脱げ・・


 俺の命令が彼女の脳に届く。

 絶対に逆らうことの出来ない『魔法ディザ・ベル』の力。


「い……や……」


「嫌? 今、嫌と言ったか? ならば何故お前は脱ごうとしている?」


 再び席に座った俺はシイラの行為をニヤニヤと眺めることに徹する。

 氷の微粒子の量が未だに上手く調整出来ていないのか、『黙れ』と命令しても多少は口を利くことが出来るようだ。

 まだまだ検証を続けなければならない。

 この『神の力』を――。


 メイド服のエプロンを脱ぎ。

 上着を脱ぎ。

 スカートを脱ぎ。

 ついに下着姿となったシイラ。


 彼女の意識はそのまま残してある。

 今、彼女は一体どんな気持ちなのだろう。

 見下していた男に裸を見られる屈辱、恐怖――。

 顔を赤面させ、瞳には涙を溜めている。


 しかし、何の罪悪感も感じない。

 俺の心には今までに感じたことも無いほどの優越感が溢れているだけだ。

 『支配』とは、これほどまでに俺の心を満たしてくれるのか。

 笑いが止まらない。

 あのシイラが。

 俺を厄介者のゴミクズのように扱っていたシイラが――。


「ゆ……るし……」


「何だシイラ。泣いているのか? なぜ泣く必要がある? 俺は新たな主人だぞ」


 彼女の健康的な肌を舐めるように見ながら俺はそう答える。

 思っていたよりも胸はあるみたいだ。

 普段のメイド姿では想像も出来ないくらい均等の取れた身体。

 確かシイラの実家であるレイノルム家は、女として生まれた時点で生涯1人の男しか愛することを許されていない厳格な家柄だ。

 要は結婚するまでは誰にも裸を見せることはない。

 つまり――。


 彼女が下着に手を掛ける。

 俺は彼女の懇願を無視し、ただその行為を眺めるだけ。

 絶望しろ。

 恐怖しろ。

 脳裏に、この俺を焼きつけろ――。


 俺はその後、数十分の間、彼女の行為を眺めて過ごしたのだった。





 屋敷を出た俺はそのままギルドへと向かう。

 シイラの行為の後、俺が彼女に課した命令は2つ。


 『屋敷から逃げるな』。

 『誰にもこのことを話すな』。


 俺はあえて彼女の記憶を封じなかった。

 それではせっかく植えつけた恐怖が意味の無いものになってしまう。

 彼女は俺の玩具おもちゃだ。

 そうでなくてはつまらない。


 昼下がりの外の空気を胸いっぱいに吸う。

 中央通りは今日も行商で溢れかえっていた。

 ギルドに向かう途中で何か武器を新調しておこうか。

 非力だった俺は今まで細剣レイピアしか扱ったことがなかった。

 当然『技』を発動させることもなく、ただ腕力に頼った扱いしか出来なかったのだが。


「らっしゃい、らっしゃい~! お、そこのお兄さん、新しい武器をお探しかい?」


 適当な露天商で並べられている武器を手にとり具合を確かめる。

 何がいい?

 生まれ変わった俺が手にする、新しい得物は――。


「ちょうどいいねぇ、お兄さん。今日は珍しい武器が手に入ってね。ほら、これさ」


 行商のおやじが手渡してきた一つの剣。

 長さは細剣レイピアよりも少々長く、重い。

 以前の俺だったら絶対に振り回すことなど出来ないだろう。


「これは……?」


「お、気に入ったかい? それは東の国の品物だよ。まあ、ぶっちゃけ流れてきた盗品なんだが、どこぞの有名な盗賊団の頭が使っていたってぇ代物だ。ええと、なんつったっけな……。確か曲刀シミター……だったかな」


 黒銀色の歪な形をした刀身。

 細剣レイピアとは違い、『突く』よりも『斬る』ことを目的とした構造。

 歪な形なのは、傷の塞がりを遅らせるためなのだろうか。

 例の如く紋章はしっかりと刀身に刻まれている。


 俺は軽く念じる。

 紋章に一瞬だけ光が宿る。

 そのまま俺は氷の結晶を紋章の内部に潜り込ませた。

 すると日の光に反射した氷の結晶は紋章内部に輝きを灯す。


「おお! これはまた綺麗な『技』の輝きですな、お兄さん! どうです? 今なら80,000Gとお安くしておきますぜ」


 もみ手で商売を始めた行商のおやじ。

 恐らく、そこまで高額品ではないはず。

 元が盗品ということは、出元が判明すれば持ち主に返却しなくてはいけない恐れもある。

 せいぜい30,000Gといったところか。


 俺は例の如く人差し指を立て、行商のおやじに命令する。


「高いな。これは元々盗品だろう? ならばテレミウス家の人間である俺が責任を持って、持ち主に返しておこう」


 そう言い残し、曲刀シミターを頂いていく。

 しきりに首を傾げるも、他の客に対し再び商売を始めた行商のおやじ。


(紋章への光の伝達も上手くいった……。あとはこれが未だに発見されたことが無い新種の『技』だと広まれば……)


 そうなればきっと、この街の人間は俺を見る目を変えるだろう。

 まずはギルドに行き、同僚達の前で披露してやろう。

 俺の新しい力と、新種の『技』を――。


「くくく……。楽しくなってきたな……」


 

 俺の押し殺した笑い声が中央広場に響いた。



















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