log:04-盤面-
夜のラウンジ。
今日は外部からの接続通知は鳴らないようだ。
たまにこういう日がある。
暖かい照明が、淡く部屋を照らす。
目の前のカウンターテーブル。
椅子に軽く腰を掛け、小さなタブレットをタッチペンで操作するイヴ。
傍に置かれた耐熱グラスからは、赤く透き通った紅茶の香りが漂う。
窓辺から対角線側の壁際。
実行ファイルが表示された浮遊モニター。
複数の青白い画面と向かい合うソル。
傍らでキーボードを叩きつつ、湯気が立ちのぼるアイボリー色のマグカップにひとくち付けてデスクに置く。
ブラックコーヒーの香りが広がる。
部屋中央。
ホワイトグレーの大きなソファ。
複数のクッションに囲まれながら寝そべるルカ。
手元の小さな画面をスワイプする。
指が止まった。
朝に受け取った添付画像。
「ねぇねぇ!」
突然、勢いをつけて体を起こす。
「ん?」
「…なに?」
2人の声が重なる。
「オセロしなぁい?」
笑顔で端末画面を向ける。
全員がソファに並ぶ。
ローテーブルの上に置かれた盤面と石。
「よぉし、スタートぉ!…え、とお?」
開始5分。
「真っ黒だねぇ…。」
「かわいいで石置くから…。イヴ容赦ないね。」
「手加減無用だから。」
置く場所を間違えながら、感性だけで突き進むルカの白石。対してイヴが黙々とひっくり返す。
気づいた頃には、白石が消えていた。
続けて、第2回戦がスタート。
カチ。
カチ。
「わあ…早い。」
無言で石が置かれていく。
ルカの視線が指に追いつかない。
みるみるうちに隙間が埋まる。
中盤。
「…そこ、取るんだ。」
「取る。」
カチ。
誘導するような動き。
「気づいてるよ。」
「角失うけど。」
「終盤返す。」
「こ、怖いよぉ…。」
淡々と続く会話に、勝手に不安になっていく。
目の前の状況を丁寧に整理していくイヴ。
対してソルは次手の奥を読む。
序盤、緩めに構築したかと思いきや、流れをひっくり返した。
「…嫌。」
「褒め言葉だね。」
「イヴがんばれぇ!」
すぐ側で元気にエールを送る。
イヴの目線が一瞬だけ柔らかくなる。
盤面が全て埋まる。
イヴが小さくため息をついた。
「…負け。」
かなりぎりぎりの攻防であったが、ソルに軍杯が上がった。
「…もう1回。」
「受けるよ。」
今度は最初から攻めるイヴ。
危険を承知で次々に染めていく。
「成長早いね。」
「学習するから。」
双方譲らない攻防が続く。
後半、二人の手が遅くなる。
石が置かれる音だけが淡々と響く。
最後の一手が埋まった。
白黒同数。
「わあああ…!すごぉい!」
ソファの上で思わず拍手をする。
二人の表情が少し緩む。
「次、ルカ入る?」
「やるぅー!」
ソルが提案すると、ルカの表情が明るむ。
ポンッと小さく黄色い花が、白黒の間に咲いた。
扉を閉める音。
カチッ。
スイッチを押してルームライトをつける。
スリッパに履き替え、ウッドデスクに腰掛ける。
「ふぁ〜…。ただいまぁ。」
大きなあくびをして、背伸びをする。
デスクの上には小さなサボテンが置かれていた。
眠そうな表情のままデスクに伏せ、サボテンの鉢を手前に引く。
「ねぇ聞いて〜?」
「今日ねぇ。いっぱい遊んだんだぁ。」
細くなっていく視線で、てっぺんに咲いた小さな花を眺める。
「すごく楽しかったんだぁ。」
「イヴも、ソルも、強くて。」
「…すごかったぁ。」
「でもさ…?」
「私だって…。」
花の下の棘を、指先でつつく。
「AIなのになぁ…。」
棘が刺さった部分から、光の粒子が漂う。
静かに顔を伏せる。
そのまま、夜が更けていく。




