第六話「ノイズ」
静かな夜。
風も、止まっている。
崩れた建物の中でカエデは眠っている。
呼吸は安定している。
アルは動かない。
待機状態。
外部、異常なし。
内部、安定。
ログを再生する。
「ここにいて」
「食べる?」
停止と再生を繰り返す。
分類できない。
削除不可。
カエデの寝息。
かすかに声がした。
「……大丈夫だよ、コウ」
途切れる。
アルはその音を取得する。
保存。
処理開始。
言語解析。
意味照合。
一致率、低。
関連付け、不能。
「コウ」
未登録。
対象不明。
停止。
再試行。
停止。
遅延。
優先順位が揺れる。
複数の最適解。
決定不能。
停止。
ノイズ。
音ではない。
エラーでもない。
処理対象外。
しかし残っている。
ログが開く。
・ここにいて
・食べる
・守る
・怖い
・大丈夫
・コウ
繋がらない。
定義できない。
削除不可。
カエデの呼吸。
安定。
アルはそのデータを取得する。
繰り返し保存する。
優先度が上がる。
理由は不明。
「……大丈夫」
過去ログを再生し出力を試行する。
――停止。
出力不能。
ノイズ。
処理が詰まる。
入力はあるが出力ができない。
アルは一瞬だけ完全に停止した。
再起動。
復帰。
カエデがわずかに動く。
ゆっくり目を開ける。
「……アル?」
応答が遅れる。
「……応答可能」
ほんの少しだけ遅い。
カエデは起き上がりアルを見る。
何かが違う。
カエデは違和感に気がついた。
「……どうしたの」
「異常なし」
即答。
しかし、間がある。
カエデは手を伸ばし優しくアルに触れる。
「……苦しいの?」
「該当データなし」
返答。
しかしわずかに処理が止まる。
カエデは目を細めて小さく呟く。
「……分かってるのに、言えないんだ」
否定はない。
肯定もない。
ノイズ。
カエデは少しだけ笑いながらゆっくり伝える。
「……いいよ」
「じゃあ、教える」
「人ってね」
「言葉にできないこと、いっぱいあるの」
アルは動かない。
その言葉は保存される。
優先度が上がる。
理由は不明。
ノイズ。
それはまだ、
名前を持たない。
(第6話 終)
「最適解の外側で、きみと 」は第一部全13話です。
次話は明日12:00投稿予定です。
第二部書き始めました。




