花火大会(2)~打ち上げ花火~
夜は生まれ変わった。橋の下を潜って戻ると、見知らぬ土地へ来てしまったらしい。豚が豚を食っていそうな屋台が道を作っていた。
「ここはどこだ」と俺が物怖じけているその左右前々、コックコックと鳴きながら店主を呼ぶふくよか豚たち。代金を隣りに漬けては、その隣がその隣に漬ける。まるで機能しない経済社会、家畜小屋は、思わず自分の鼻を三度擦っても、そうでないのならと、そうでもないと落ち着かない。
霞京子はそんな俺をじーっと観察するように見て、小声で「まちがえたかも?」と漏らす。彼女の綺麗な声が曇ったから、道も曇ったのか。霞京子は「ちょっとだけ目を閉じて」と苦笑いに汗かいて、戸惑う俺の目を手でさそって閉める。開けようとしても、強引にシャッターを閉めた。
「ブヒ?」
「もういいよ」
思わず舐めたくなる柔らかい手の感触が無くなって、それを追うように目を開けた――――七色の星が降り注いで街ができた。まるで都会模様。あれは露店、露店? 簡易式の上品な高級料理店が立ち並ぶこの通りは、向こうにあった家々が、ここがあったから建ったのではないかと勘違いさせるほどに華やかだ。いや、露店じゃないな、まぁいいか。妙に上品な旋風がかろやかに吹くと、そんなのもどうでもよくなった。
とはいえ目を奪われる都会の街並み、その端に浴衣姿の彼女が俺を伺って待っていた。やっぱり彼女が美しい。
「いこっか」
領域展開、固有結界。その類と思ってくれていい。ドレスを飾って踊ったり、ナイフとフォークを回す客が、ナプキンを口に当ててシェフに文句を言うような屋台が左右前後。
「ここに入ってもいい?」
彼女に勧められて座った。座るだけ。視線のような、あのキザな風が肩にぶつかる中、分厚いようで薄いメニュー表を開いて、縮こまる。
どこにお金を使っているのか桁が二つ違う値段が並んで、呼べば俺の貧乏ゆすりで波紋唸らす川から、ウェイトレスが偉そうにやってくる。彼女は慣れた口で「ベパロニパパラッチモルグランデデスペラード」と唱え、俺はハーマイオニーを恐れながら同じくを口にした。
「ベパロローニパパラッチモルグランデドンチッチ」
「お客様、すいません。なんですかそれは。ダラスがドンチッチをトレードするくらいあり得ない。同じのでいいですか?」
「はい」
足首と股関節を痛めるほど貧乏ゆすりして経った時間の後。料理が出てきた。やはり呼吸感ある、今は亡き小石より小さな何かしらだ。そしてナイフ擦って、フォークで突けば、小石を飲むよりも胃に詰まる味わいだった。
そんな俺を彼女が見ていた。お淑やかに、静かに、まさか怒っているのか、読み取れないまま彼女はナプキンで口を拭いた。つまり気まずくなった。なるほど、だから俺から話しかける。
「代金はこっちで出すよ」
「ええ? もう出て行くの? わかった。けれどお金はこっちで出しますよ」
「い、いいのか。なんか恰好つかないな」
「いいの。アメリカのあるところから沢山お金を貰ってるから大丈夫」
「え、それほんとに大丈夫なお金か?」
そうして彼女はよくわからないカードをピッと翳してどこかから恨みを買った。
街並みは続く。どこにも入る気にならない。彼女が「ここに行ってみる?」と誘ってくれても訝しんで、胃が渋って、「あっちのお店のほうがよさそうだ」を繰り返して歩いている。せっかく霞京子とデート?みたいな感じになっているのに勿体ない。どうせなら思い出を作りたい。されどあれらカーテンを潜っても苦汁しか食べられやしない。そのどうせが悪夢になるくらいなら、このまま歩いていたい。こんなんなのに割と、どこか嬉しそうに横に居てくれる彼女を見ていたい。
でも、それも逃げか。俺が横を向くたびに期待してくれる彼女が必ずいる。もっとそんな彼女を見ていたいから勇気を出してみる。
「あそこにしよう」
あっちの最果て。見向きもせず、向く前に指を差して彼女を誘う。彼女はまた俺に微笑んで、ついて来てくれた――――だがそれがいけなかった。都会だからと言って何でもいいと適当しちゃいけなかった――――そのカーテンの向こう、蒸し暑苦しい湯気とニンニクの臭い、ズルズルと飛び散る脂、角に詰まった謎の黒い塊――――それは汚ったない、それはそれは汚い、町のラーメン屋だった。
「へいらっしゃっしゃ!!!」
威勢のいい声が胃に響けば、帰ろうとする足を掴んで離さない。「こんなのさすがに嫌だよな?」と隣りに返せば、またしてもよくわからないまじまじとした顔をする。その前に手を振れば、気づいていない様子。彼女も驚いていたようだ。
とはいえここで退くわけにもいかない。ここは俺がリードしよう。そうして座った席はまた、ベトベト。最悪のお尻になった。一度座ったら離さないと言う気概を感じる。一方、彼女の浴衣は汚れないタイプの椅子だから安心した。
俺は適当に「しょうゆ、カタメンテ」と頼んだ。店主は「ねえよ、そんなもん」と一蹴した。だから俺は今度こそと「炒飯」と簡潔にした。なのに店主は「ねえよ、そんなもん」と回し蹴りした。そして霞京子は「とんこつ、つゆだく」と言ったら、店主は「へいお待ち!」と一秒立たずそれを前に置いた。なぜか俺の前にも。
あれは豚骨ラーメン。次郎系を超えた、三郎、四郎、五郎超えてからのシャムロック超えて、シャンンクス系ラーメン。天井までつきそうなバベルの塔は、店内の脂の霧の原因を露わにした。胃を凭れさせるどころか、大洪水を導く厄災が、助け船をと頼りなく霞京子へ手を伸ばす――――そこにいたのはシャムゴットだった。胃がアンクルブレイク、彼女はどこだ? 空の皿、揺れたカーテン、彼女は外で待っていた。
「これを食べ終えるなんて、さすが霞京子」
そう吐き捨てて俺は店ごと持ち上げる勢いで椅子に尻をつけたまま立って逃げようとした、その肩を掴んだ店主からはただならぬ覇気を感じた。言い訳は一つ。
「隣りの奴に漬けておいてくれ。シャムゴットのほうです」
「そんなやついねえよ!」
そうして俺はお腹が空く意味を理解した、ラーメンは美味しかった。大洪水した胃袋が川を為して、でも美味しかった。摩る彼女の手はやっぱり柔らかかった、あんなに美味しいラーメンはもう食べたくない。だから申し訳なくなってきた。
俺は爛れた口先を濯いで都会屋台の隙間を辿った。優しい彼女と一緒に。
気色の悪い風船人形がグルグル回って飛び跳ね、転ぶ、風邪を引いたときの夢のようなサイケデリックが屋台の隙間。霞京子もこれには顔を引き攣らせ、俺を林の陰に誘った。
「あっちにいいものがあるの」
彼女は月の輝きを纏った風が形作ってできたのか、軽やかに静かに微笑んで俺を草の渦へ巻き込んでいく。そうして着いたのは大きな坂。
夢の中で欠伸をしたらその中で夢を見た夢を見た。こう勘違いさせたのは、都会の奥の最果て、林に現れた星の現身。ありもしない古大樹の岩を切ってつけたように図太くぶら下がるあれは、超巨大の天体望遠鏡だった。霞京子が微笑んで「どうどう?」と自信気に、俺の手を引っ張ってそこへ連れていく。
その坂は蛇のようにうねうねしていた。そんな足取りだった。彼女は迷わず真っすぐ走って、俺は何かまだ引っ掛かる気持ちでいた。あの夜に浮かぶべきは星なのだろうか。真っ黒な夜空、漆黒の半球、煩いほどに静かな林と町。あれだけ暗いのならなんだって浮かべられる。だけど、なんでだろう、彼女の引っ張る手は離せない。柔らかいほどに固い。
彼女は真っすぐ俺を見つめて走る。不安なくこっちを向いて前を走る。ずっと目は合っている。足がふわふわする。胃の異物感が消えていく。彼女は――――だからいつの間にか、夜は見えなくなった。一番眩しい彼女の瞳が遮って夜空は隠れてしまった。時間は埋もれてしまった。きっとそこはずっと向こうのどこかだろう。俺はこのまま彼女に連れ去られてしまいたい気持ちになってしまった。夏が沁み込んで溶けるような、そんな嬉しそうな彼女が俺をそうさせた。
「浦嶋君、私とずっと遠い場所に――」
もうこのまま風になってもいい。ずっと明けない夜に望む限りの天体を浮かべ、彼女と見守る。ずっと遠くに目を入れて、自分の為に自分に合うように手を回す。この狭い、狭い、穴の向こうの広い暗闇を、見えない彼女と聞こえる彼女の声。ずっとそうしよう。これはきっといい夢になる。
瞼を閉じた暗闇は、彼女が閉じてくれたのだから、その夜は暗くとも怖くない。冷たく、寂しく、ぬくもりはなくとも、俺の横にはずっと彼女がいる。あの暗い月は俺が見る限り、そこにあるんだ。月が見えなくなった時、あの暗い夜そのものが月になっている。だから今、俺が覗いているのはあの大きな暗闇、彼女自身。いくらかある色々の光は遠くにある未来の思い出。彼女との思い出だ。
「一緒にあそこへいきましょう」
耳が塞がれた。目は闇に包まれている。心地よい彼女の体温が俺を虚ろにしていく。解けないあや取りをそのまま溶かすように。息もまた沈む――――けれど、そうはいかないらしい。心地の良い夜は打ち破られた。輝いた音が俺を地上の彼方へ連れ戻した。足元から伝わった振動が、足を引き裂こうとする振動が、俺がどこにいたかを思い出させた。
灯が光を霞ませた。望遠鏡に映った星が火花に散らされていく。消えていく。輝きはそれより輝いたあの明るさに場を奪われた。今宵、この夜は、暗くなきゃいけなかったんだ。そうして今、暗くなってしまった。
「霞さん。天体観測は中止だ。花火が月を隠してしまった」
俺がそう言った後、隣りを振り向くと、すでに彼女はいなかった。蒸し暑い風と、林の向こうの騒がしさが目立つようになった。
「そろそろ行くか」
何発目かの花火。揺れる地面。踏み締め歩く、一歩二歩――――その三歩目、つるっと俺は転んだ。頭を打った。さっきの風船人形が頭に過る、自分がそうでないかと顔を触った、その触った顔に何かついていた。ゴムか、ニカか? 違う、それは紙。焦げ臭いざらざらした紙。花火の残骸だ。場所によっては空からよく降ってくるあれだ――――にしては、ここ一面、紙まみれだ。あとおっさんまみれだ。
「おい、そこの坊主! 何勝手に入ってんだ! 耳塞げ!」
「え?」
大爆発。ど~ん、ポロン。などではない。あれがドゴゴーン、と鼓膜を恐喝した。キーン、と幽霊も耳を塞いで通る。くらくらして倒れそうになったら、もう無限地獄。次の一発がもう打ちあがる。早く逃げよう、その足と鼓膜がまた揺らめき破られた。
「うわあああああああ!!」
「なんだってぇ? 林の中で花火は危険だろ? 特別な林だから大丈夫なんだよ、ダボが!!」
「うわああああああああ??」
「あ~ん???」
気絶しそうになっているところに職人のオッサン共が近づいてくる。ダボダボ吐きながら近づいてくる。肩を掴まれると、微かに聴こえた「いいから、そこに座れ」、打ち上げ花火の足元で説教タイムというパワハラ。
「もう耐えられない!」
俺はおっさんの顔に辞表ビンタをしてそこを去った。やっぱりあの静かな夜に帰りたい。ユニコーンを探しながら俺は林を駆け抜けた。なお、目をギラつかせて意味不明に唸る長髪全裸の集団をそこで見かけたが、大学数学の範囲なので、ここでは触れないことにする。
バンバン、空が騒がしい中、堤防の人混みに疲れ果てたので、俺は堤防坂の下、Switch取り出し、某格ゲーのCPUを壁ハメして時間を潰す。あいつらどこにいったんだろ。結局はぐれたまま。見ない花火は煩いだけだなと、イヤホンを突き破る爆発音に再確認した。それでゲームの音量を上げるとCPUのファルコンがもっと煩くなった。殴るたびに喚くのでやっぱり煩く、殴られるたびに調子に乗るからもっと腹が立った。
「雑魚の癖にうるせえんだよ!!!」
どうせ聴こえやしないと、花火に隠れて叫ぶと、堤防で花火を見ていた老若男女が一斉にこっちを振り向いて、死にたくなりました。大人しく俺はファルコンに掴み技を掛け捲ることにした。
そうして静かに喘ぐファルコンを眺めること数分。つま先に何かがあたって気がそれた。水風船? 一個、二個、三個目はなぜか水が漏れていて靴が濡れた。最悪だ。と思ったら、四個目か?
「ああああああああああああああ!」
違う、あれは少女だ! 堤防の坂からころころとこっちに落ちてくる浴衣の少女だ。ぐるんぐるん、回って叫ぶあの子に俺は柄にもなく混乱し、スマホアプリに何故か入っていた慣性モーメント恋愛測定器からその子を撮って、計ってみた。
「『0!相性ピッタリ! やったね!』だって?」
「そんなに軽い女じゃないよ!」
ちょうどぶつかりそうだった彼女を俺はジャンプして躱す。彼女はどういう原理か、そのすぐに三メートルくらい跳躍してピタっと着地した。なぜか自信満々に「えへん!」とドヤ顔している彼女は、どこかで見たことあるような、ないような。まじまじと見つめていると、だんだんと顔を赤らめて、これはいけない。
「人違いでした」
「そんなわけないでしょ!! やっと見つけたよ、理君!!」
「なんだ天音か」
「見てわかるでしょ! え、もしかして可愛くなったからわからなかった?」
「……見てわかるべきだった」
「なんか残念そうなその横顔を殴りたい」
可愛い声で物騒なことを言う。実際に殴られても無いのに痒くなっている頬が冗談じゃないと身構えていた。でもそれは本当に痒かったみたいだ。彼女は純粋な目のまま近づいてきて背伸びする。彼女の湿った息が顎にぶつかる。いい匂い? いや、焼きそばだ。
「蚊がいるよ。えい!」
「え、ちょっと待――――」
ラクーンシティーが消し飛んだ原理と同じように、蚊を倒すためにもろとも天音は俺にビンタした。ぐるんぐるん回る俺の首を、ちょうど内カメラになっていた慣性モーメント恋愛測定器が『0!相性ピッタリ! 殺ったね!』と煽ってきて、腹が立った。慌てふためく天音がその両手でぐにゃっと俺の顔を掴んで、やっと目が回らなくなった。
「『無限大! 相性最悪! 早く別れろ! ゴミめ!!』倫理観ねえな、この測定器」
「なにそれ。ゴミ?」
「こんなのはどうでもいいんだよ。大野たちは?」
「わからない。どこいっちゃったんだろうね」
「じゃあ二人だけか」
「あ、さっきみたいに叫んでくれたら見つけてくれるかも」
「もう帰っていいよね?」
ヘトヘトの足がちょうどあっちに通ったタクシーを追い始めようとした。それを天音が肩を掴んで止める。足が浮いた。
天音は「そっちじゃなくて、あっち行こうよ」とキラキラわくわくした顔を見せ、そのまま俺を引っ張る。そのあっちとは堤防の上、その人混み。
「見つけに行くのか? しんどいぞ」
「違うよ。花火を見ようよ」
「ああ、それなら十分見た。俺はここでゲームしてるから――――」
「何のためにここに来たの?」
ここぞとばかりに俺の頬を狙う蚊を首を振って躱す。そして気づいた。Switchの光が蚊を引き寄せていたのだと。俺はSwitchをしまった。すでに手を構えていた天音にヒヤッとしながら。
天音に引っ張られるまま、肩を脱臼しつつ、坂に引きずり込まれた。天音はニコニコと楽しそうだけど、肩がどうしても痛い。あと足も。首も。
打ち上げ花火。赤かったり、青かったり、黄色かったり。龍のように天高くまで昇ると、目を潰さん限りに眩しく、その鱗のような模様をして落ちていく。
綺麗だろうか、心惹かれるだろうか。俺はどちらかというとその後ろに光る白いのか黒いのかわからない煙を見て、なんだかなと首を捻る。また痛くなってきた。
堤防の子供は何発目かでもう飽きて友達と走り回っているし、女子大生たちは携帯を弄っていたりする。あっちの若い夫婦は優しく見上げているけど、こっちの老人夫婦は首と腰を撫でて息をつき始めた。だいたい騒がしいのは花火の爆発音だけど、それ以外の声は、家族友人がいるから賑やかなだけ。微かに香る焦げた風が、そうさせるのだろうか。
けれど、
「……」
月の縁をなぞって落ちた水滴が花火の間を通った。あれは俺の汗で、君の涙。大きく見え過ぎた花火は花火とならず、萎んで消えた。
そんな夜に彼女は咲いた。花火の瞬きが彼女を見つけたとき、再び彼女に出会ったとき、彼女は夏一番に笑う。今まで隠れていた出会いを照らした。あの花火はきっと彼女の為に光っていたんだ。彼女がここに辿り着くまで。けれどそんな風に天音は笑っていた。だからこの夜がこんなにも眩しいのは、さわがしいほどに賑やかで温かいのは、彼女のせいだった。彼女がこの夜の灯だったのだ。
いつの間にかよく近くにいる天音のせいか、その色々柔らかく光る横顔に、俺はポロっと声を漏らしてしまった。
「 花火には手が届かないけど、宝石なら触れるかもしれない」
すると天音はなんだか緊張して、輪郭を崩したように唇を震わせた。じろじろと伏せては覗いて、また伏せて覗いて、俺の顔を見てくる。そして赤く見えた面は花火の灯じゃなかったらしい。
「そうなのかな?」
どうしてか恥ずかしげに彼女は声を揺らす。自分の髪を触って、くるくるしたと思ったら、横髪から耳を見せた。その先まで赤くなっている耳だ。なんかこっちまでドキドキしてきて、俺は口早に吐いた。
「まぁ俺は宝石なんか重いだけのものより花火見てる方が気楽でいいけど」
というか弁明した。さっきのセリフは、あのヤクザみたいな奴が言ってた文句で、それを思いだして俺は言い返したかっただけだと。少なくとも半分くらいはその弁明――――あれ、見る見るうちに天音の顔が曇っていく。花火の煙のせいか? いや、違う、花火は綺麗なままだ。
「おやおや? なんで怒って――――」
「理君って最低だよね」
「え?」
これはよくある話。やっぱりさっきのは煙のせいだったらしい。じゃなきゃ、どうして目の前にこんなにも濃い煙がある? あ、雲だって? 雲だったのか。そうか、なんか、ふわふわする。あと、すごく真っ暗。ん? なんかお尻とか股間が熱い。もっとだんだん熱くなってきた。あとすごく光ってきた。覚醒してしまったか? いや、違う。あれ、花火だ。
「おい、そこの坊主! ダボが!!」
だからよくある話。ラブコメの主人公が打ち上げ花火になることなんて。玉がたまやーした。
そんな夜を見つけてくれたのは天音と、あっちで指を差している大野と茨田、あと陽キャもいる。ゆえにそろそろ川へ落ちる。綺麗な花火でした、フォッフォッフォ。
「天音やっと見つけたわ。あれ、アイツは?」
「きたねえ花火になったよ」
「花火はどれも綺麗だったけどなぁ。不発だったのかな」
なお、理はまだ落ちてこなかった。川は川でもそれは天の川? どこか彼方の空から花火を見ていた。
――あとがき――
何このオチ? 別にいいか。次回はホラゲー実況します。理が。ちゃんと配信者要素忘れてなくて偉いぞ、理!
ちょっと特殊な話。
闇と灯の話。闇が霞京子、灯が渡里天音。ここの対比があったりしなかったり。異界、幻想、痛みがない霞京子と、現実、苦痛などが渡里天音。灯から闇の定義を導き出そうと、そういった表現をするつもりでもあったが、難しくなってできてない気がしてもいる。しかし霞京子の実体が掴めないところ、天音の対比からそれを掴めるようになっている気もする。天音がわかるなら、その逆もわかる。これはそういう意味では、灯から暗闇を描けている、、のか? 暗いから明るさがわかるというのはよくある話なんですけど、その逆は反物理的で、明るいところに暗いものはないわけですからね、明るさから暗さを出す、そんな演出が精密にできていれば恰好がついたなと少し反省しつつ、勢い任せに書いた方が書けるので書きました。




