【セクション5】回ノ想
不定期更新、失礼します。
セクション5までやってきました。ここから執筆速度を上げていきたいところですが現実はそうもいかず。。。
読んでくださる皆様は「まあ、こんなもんだろう」と惰性を許していただけると。
野村健二は、勢いよく空になったビールジョッキをテーブルに叩きつける。
周りにいた数人の視線が集まって次には霧散する。
対面に座っていた帷は、飛び散ったビールと水滴の混じった水を近くにあったおしぼりで拭き取った。
「警察官を一年もやっていれば、世間には憚られる事案も当然取り扱うわけよ。まあ俺はたまたまタイミングが悪くてまだ、担当したことはないけどな」
まだ、という単語を強調しながら気の大きくなった野村はいう。
「最近は、例の連続自殺事件が署内でも持ちきりになっているという話だ。帷はニュースとか見るか?」
「人並みには見ているかな。そのニュースも見た覚えがあるよ」
適当に言い繕う。ニュース自体は見るように意識しているため、見た覚えがあるのかも知れないが記憶にはない。
慰労会という名の呑み会が始まって1時間。仲の良い女友達(過去に身体の関係がある)から頼まれて断りきれなかったのが、現状に起因する。
目の前にいる野村とは面識があり、大学の頃はそれなりに付き合いもあった。野村は、素面なら場を盛り上げる面白い奴という印象で、酒が入ると途端に悪癖が現れる。酒癖が悪いことでは有名だった。
現状、この男の相手をさせられていた帷はうんざりした気持ちでいたが、野村の口から興味深い言葉が出たことで少し身を乗り出す。
「どんな事件なんだ? 詳しく教えてくれよ」
「おっ、そうか! やっぱり興味あるよな!」
目を輝かせて気分を良くした野村は、まるで自分がその事件を担当しているような口振りで話し出す。
「その例の連続自殺事件は、俺たち警察が動き始めるずっと前から始まっていたのかも知れないっていわれていて、この連続自殺事件に関係すると思われる被害者の数は、今現在把握しているだけで4人! 今後の調査次第ではもっと多くなるだろうって見解らしいぜ」
不穏な単語が次々出てきたが、それ以上に帷の中には好奇心の方が大きく膨れ上がっていく。ここは気分を乗せた方が相手の口も今以上に軽くなるだろうと考える。
「ちょっと聞いてもいいかな? ホームズ」
「なんだい? ワトソン君」
鼻を高くして得意になって返事をする野村。
「事件とか被害者とか、何やら物騒な単語が出てきわけだけど‥‥‥何か我々一般市民には公表されていない裏があるわけなのかい?」
「なかなか鋭い指摘をありがとう、ワトソン君」
さながら中世ヨーロッパの名探偵気取りである。そして一呼吸の間があった。
野村は周囲の様子を確認する。
次に身を大きく乗り出して、声を顰めていった。
「守秘義務ってのがあるから、あまり大きな声ではいえないけど。実は一連の自殺には事件性があって、本当は連続殺害事件なんじゃないかって話も持ち上がっているわけなのよ、上層部の連中もこの件には頭を抱えているみたいで捜査の方向性も未だに定まっていないって話なわけ」
一介の交番勤務にも浸透しているような話。しかし世間では自殺としてニュースに流れている。
「ずいぶんと穏やかな話じゃないな、事件性があるというのならそれなりに怪しい容疑者でもいるわけなの?」
「さあ、どうだろうな?」
「さあ、どうだろうなって。ここまできて勿体ぶるなよ、名探偵」
「い、いや‥‥‥その‥‥‥」
目と鼻の先にあるテカリ顔が口ごもる。帷は理解する。
捜査にも参加していない一介の交番勤務にはそこまでは知り得なくて当然か。
瞬間的に、次には話題を逸らす。
「まあでも、容疑者なんていれば話にあったように、警察の上層部も頭を抱えたりはしないか」
勝手に解釈した体を装うと、曇った顔が安堵の色に変わる。
「あ、ああ‥‥‥そういうこと! 捜査が難航しているんだ。でも俺たち警察だってバカじゃないんだぜ、それなりの根拠があるからそういう話も出てくるってわけよ」
「へぇー、それなら是非その根拠をご提示願いたいものだね」
「お、おう! もちろんだともさ、ワトソン君」
名誉挽回のチャンスとばかりに、捲し立てるように説明を始める。
「まず、これまでに判明している自殺した人間には、3つの共通点があったわけな。1つ目は、全員性別が男だってこと。ここから浮かび上がるのは痴情の持つれとかそんな所だろうな。今は自殺した人間の近辺調査および人間関係を洗っているってそんな感じだろ。2つ目は自殺した人間の中に、その自殺する理由・動機がないってことだ。人間が自殺する理由で多いのはなにか分かるか?」
「心の悩みや鬱、健康上の問題か?」
帷は今朝、テレビでやっていた電車の人身事故にその問いを直結させた。
電車で通勤をしている者としては鮮明に覚えているため、反射的に答える。
「他にはなにがある?」
「他には? ‥‥‥借金とか経済面の問題か?」
「他には?」
「トラブルや家庭環境、生活面の問題とか」
腕を組みながらうんうん、とワザとらしく大袈裟に頷く野村。
「まあ大体そんなもんだろうな、でもこれらの理由が見当たらないってわけなのよ」
「自殺した4人に?」
「そうそう」
しかしこれだけの共通点があったところで、自殺事件が偽装された殺人だと警察が考えるはずもない。最後の根拠が本命だろうか、と帷は考えた。
「3つ目の共通点は?」
「そうだよな! 当然気になってくるよな?」
待ってましたと言わんばかりの態度になって食いつく野村。
「これはマジで俺から聞いたとか、警察関係者からの情報だとかいわないで欲しいんだけど、特にSNSとかに流すとかは絶対ナシな」
「分かった、誓うよ、絶対に他言はしないから」
「よし。最後の共通点は、自殺した人間すべてが他人の家で亡くなっているってことだ。そしてその家の住人には、必ず非通知の着信が入っている」
「それって‥‥‥」
「ああ、かなりきな臭い話だろ? 自殺した遺体を自宅で発見する前に、その非通知の着信が入っているらしい」
言い方から、その着信の内容までは把握していないようだった。
「たしかに総合すれば、連続殺人事件のようにも思えなくもないよな」
「だろ? まあこの話がどこまで本当かはわからないけどよ、少なくとも俺はただの自殺じゃないと踏んでいるぜ」
そういった後、野村は立ち上がって千鳥足でトイレへと向かった。




