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「ブラドさんも気苦労がたえませんね
あれ?でもブラドさんって睡眠必要なタイプのモンスターでしたっけ?」
「んー、年取るといろいろ大変なもんらしいよ
佐々倉さんも65で再雇用になってからいきなり体にガタがではじめたって」
「佐々倉さんがどなたかわかりませんが、ブラドさんは65どころじゃ、、
「ブブ、スピー」
はぁ、チョコは不眠とか関係なさそうですね」
「スピー、スピー」
チョコはいびきをかきながら、だらしなくソファーの上で腹を出して寝ている
王都に行く準備や、結婚式関係の出荷なぞまるで別世界のことのようである
「そだ!チョコもいるやつがあるわ
発注!発注!」
ミカリは何やら赤い小さなものを発注で取り寄せ何やら書き込むと、それをグッスリと眠るチョコの首にとりつけた
「よし、これで迷子にならずにちゃんと帰ってこれるよ」
ガシャン、、、
ゴブが突然刺繍枠を取り落としてヨロヨロと立ち上がった
「ミ、ミカリ様それは、、」
ミカリがチョコに取り付けたのはドッグダグというより迷子札
反射材の裏に名前と連絡先を記入してペットの首から下げるタイプのものである
「迷子札だよ?
もし王都で迷子になっても、ほら、裏に『マツダ チョコ / M's cute』って書いてあれば安心でしょ?」
「チョコは、チョコはミカリ様のお名前の一部を頂けるまでに至ったのですね
ああ、、、私も今一層の精進を、あくなき探究を重ねなければなりません」
「どうしたゴブ?
これ欲しいの?」
「!そんな、私ごときがもったいない!」
たまにゴブってこうだよね?
なんとなーくゴブがチョコと同じ迷子札を欲しいのはわかる
なんでこんな物ほしがるかわかんないけど、たまにこんなふうにチョコをめっちゃうらやましがる
しかも、普段しっかりとしてそうに見えてこういうことを自分から言い出せないの
聞いたことないからわかんないけど、すっごい厳しい親だったのかも
ゴブは犬じゃないし、ちゃんと自分で自分の名前言えるから迷子札はいらないよ
そう言ってあげるのは簡単だけど、ミカリちゃんはかわいいだけじゃないハイパーできる上司
「ゴブのもちゃんと書いてあげるね、ゴブのはこっちのブルーのにしよっか?」
「ーー!!!!
ミ、ミカリ様
私、もっと、もっと、ミカリ様に身も心も、より深淵なる忠誠をミカリ様にささげます」
お気持ちだけもらっとくことにしよっかなー
そのハンカチの刺繍もそこそこかわいいけど、それ何十枚目でしょ?
私1日に10枚も20枚もハンカチ使わないし
とりあえず、自分の滝のごとく流れる涙を拭いておいてもらえるとうれしいな
「ええ!ミカリ様、ファミリーネーム下賜するんですか!
うちは確かに少数精鋭で、しかもみんなミカリ様よりよっぽどランク高いから影響なんてゼロに等しいですけどぉ
私なんていまだメイドなんですよ!
うわぁーん、ミカリ様私も名前欲しいですー」
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翌朝
ミカリがダイニングでブラドお手製の朝食、-ちなみに今朝のメニューは豆ごはんとはまぐりのお吸い物、菜の花のおひたしなどが清水焼きの器に少しずつ盛られ並んでいる-を食べはじめた頃、ブラドはゴブに例の琥珀色の液体が入った小瓶を数本渡していた
「こちらがミカリ様が眠りの付与されたものを一滴たらしたカモミールティーです
取り扱いには十分に注意を
一口飲めばどのランクのモンスターも家畜も5時間は何をしても目覚めません
ちなみに10倍希釈を摂取した被験者はまだ、、」
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久しぶりの某所
「おい、100年ぶりに新人ダンジョンマスターがスタンピード申請出したってほんとか?
いやー、今期は間違えてダンジョンマスター召喚したり、チュートリアルがいつまでたっても終わらないダンジョンがあったりでとんでもないことになるかと思ったけど、なかなか見所あるシーズンじゃないかよ」
「同じダンジョンです」
「へっ?」
「適合者ではないマスターが召喚されたダンジョンで、未だアシスタントがネイムドされてなくってチュートリアルが終了していないダンジョンです
そこからスタンピード申請が出ました」
「はぁ?!
まじかよ!
まさか、そんな頭のおかしいダンジョンのスタンピード許可おりてないだろうな?」
「認可はでました
パメラ課長が即日でサインしました
軽い外出程度で2、3日の予定って聞いてるから大丈夫だって」
「パメラ課長が?
あの女、最近高難度の若返りの術を手にいれたからって調子乗りすぎじゃねーか
ありゃ1000年以上もどしてるぞ、禁忌スレスレだろ
新人ダンジョンに肩入れしてる場合じゃねーだろ」
「あのぉ、その若返りの術もそこのダンジョンマスターがかけたらしいですよ」
「そんな恐ろしいダンジョンマスターを野に放っていいわけないだろー
なんかあったら始末つけるのはこっちだぜー」
どの世界も中間管理職は大変そうである