第十一話『意外にゃモノとのご対面にゃん!』のその①
第十一話『意外にゃモノとのご対面にゃん!』のその①
ついに入った最後の部屋は白一色の空間にゃ。部屋の真ん中にはどういうわけか、これまた白く塗られた木造りの階段が一本、床から天井まで伸びていてにゃ。その先には、といえば、淡い赤色の光がわずかに漏れてくる四角いお口が、ぽっかり、と開いているのにゃん。
「みんにゃ、行くにゃよぉ」
これまで通り、ウチとミクリにゃんが先頭に立って階段を昇っていくのにゃ。上がってみれば、やっぱり、ここも白一色、といいたいところにゃのにゃけれどもぉ……。実はにゃ。部屋全体が下でも見えた赤色に染まっているのにゃん。もっともぉ、こっちのほうが光源に近いせいにゃろうにゃあ。色は濃く、輝きも強まっているのにゃん。
(ネコには落ち着きにくい場所にゃん)
部屋はとぉっても狭くてにゃ。見上げれば、天井(といっていいのかどうか疑問にゃのにゃけれども、とにかく部屋のてっぺん)が、三角のようにゃとんがった形状。にゃもんで、きっと館の真ん中に位置する屋根裏部屋にゃん。
「にゃあ。『パンドラの箱』って、これじゃにゃいの?」
ウチの言葉にミクリにゃんも頷く。
「じゃないかな。他にはなにもないみたいだし」
ウチらの数歩先、部屋のど真ん中に、目的の箱と思しきもんが一つ。ここが部屋中を照らしている光源。光の元にゃん。『光沢映える赤い立方体』という形を成してはいるもののにゃ。どんにゃ素材で造られているのか、皆目見当もつかにゃい。それが飾り物かにゃにかのように、石造りと思われる六角柱の置き台……ウチが二つ足で立った時よりもほんのちょっと背が高いのにゃ……の上に、ぽつん、と載せられていたのにゃ。この置き台も光に照らされているのにゃけれども、それがにゃければ、『黒地に白い粒々が混じっている』といった、部屋の色とは対照的にゃ目立った色合いと思うのにゃん。
「いよいよ『ホワイト』ってぇのと、ご対面だねぇ。
さぁてと。鬼が出るか蛇が出るかぁ」
《ねぇ、ミアンちゃん。ワタシじゃダメかしら。鬼神にも大霊蛇にもなれるのだけれど》
《ダメにゃん》
ミクリにゃんは前屈みににゃる。
「じゃあ、やっちゃうよぉ!」
(助走にゃしで一気に飛びかかるつもりにゃん)
ウチの予想はみんごと的中したのにゃん。床を蹴って跳躍したミクリにゃんは、『パンドラ』の真上に達すると、右前足に造った拳を後ろへと引いた姿勢で回転しにゃがら真っ逆さまに降下していく。
「だからぁ……大変なんだってばぁ!」
(あのにゃあ。選りにも選ってこんにゃところで)
ウチと『同時のクロスカウンターパンチ』を放つ際に、いつも発する言葉にゃ。意気盛んにゃのは結構にゃのにゃけれども、決めゼリフにゃら他にして欲しいと思う次第にゃ。
《ミアンちゃんの決めゼリフは、ずばり、『ウチはネコにゃもん』。これさえいえば、どんな結果になろうとも、『なら、しょうがないか』と納得してもらえる、じゃない?》
《にゃといいんにゃけどぉ……、にゃかにゃかそう上手くはにゃあ》
ミクリにゃんが繰り出した拳に青白き霊波が纏う。この光が『パンドラの箱』の上面に触れるや否や、異変は始まったのにゃ。
ぱかっ。
まずは、箱の上面が開いて外側へと倒れてにゃ。
ぱたっ。
四つの側面のうちの一つと折り畳まれたようにゃ格好に。
ぱたっ。ぱたっ。ぱたっ。ぱたっ。
続けて側面全部が、外側へと倒れたのにゃん。
「やったのにゃん!」
開かれたパンドラの箱。真っ白にゃ身体が現われたのにゃん。
「あれが……ホワイトにゃん?」
全身が真っ白にゃミーにゃん。たにゃ、こちらはまるで彫像のように身動き一つしにゃいのにゃ。
《実はワタシでした、なんてダメかしら?》
《にゃんの脈絡もにゃく、突然、意外にゃキャラが登場。
物語的には、『あり』らしいのにゃけれども、ここでは、『にゃし』にゃん》
「にゃあるほど。ヤカンにゃんのいった通りにゃ」
呟くウチのそばに、
「どうだい? 一発で決めたよ」
ミクリにゃんが自慢げな様子で戻ってきたのにゃ。
「なんかこれもミーナ君のそっくりさんだねぇ」
続いて口にした感想に応じる答えが直ぐに聞こえてきたのにゃ。
「その通りなのわん」
ぱたぱたぱた。ぱたぱたぱた。
この場に居る誰もがご存じの(ブラック色をした)ヤカンにゃん。どこからともにゃく飛んできた、と思ったら、真っ白にゃそっくりさんとウチらとの間に割って入ってきたのにゃ。宙に身を浮かべたその顔には、心にゃしか安堵の表情が伺えるのにゃん。
「これこそがもうひとりのアタシ、『ホワイト』よ。
ふぅ。一時はどうなるかと思ったけど、案ずるより産むが易しね。思いの他、早く自由になれるわん」
ぱたぱたぱた。ぱたぱたぱた。
ヤカンにゃんは愛おしげにゃ様子で、ホワイトの周りを飛び回っている。五、六周ぐらいしたあとにゃろうか。一緒に肩を並べたのにゃ。
「有難う。あなた方のおかげでアタシの願いもやっと叶うわん」
「叶うって、もう封印は解かれたのにゃろう?」
「ふふっ。違うわん。アタシの本当の願いはね……。
ずばり、強い力を手にすること。アタシみたいな寄生魔からすれば、強い力を持つ個体を宿主にすることに他ならないわん」
ウチはヤカンにゃんが最初に喋ったことを想い出したのにゃ。
「そりゃあまぁ妖魔にゃから、そうにゃのにゃろうけれども」
「全くぅ。今想い出しても腹が立つわん。こいつさえ邪魔しなければ、今頃なんか、もうとっくに手に入れていたはずなのに」
「こいつって誰にゃん?」
「アタシとくっついた奴。あなたたちが救おうとしている仲間に決まっているじゃない」
「ミーにゃんが?」
「どういうことだ? 詳しく聴かせてもらおうか」
口を挟んできたのはミロネにゃん。他の友にゃちも、一言も聴き漏らすまいとするように身を乗り出しているのにゃん。
「あなた方も見ていたはずよ。問答無用、みたいな感じで、ミーナが妖魔館に強い力をぶっ放したのを。こちらの霊力があとほんのわずか足りなかったら、あの一撃で吹っ飛ばされ、塵と化していたのわん」
妖力爆風波にゃん。ということはにゃ。もし、あん時、渾身の力で放っていたら、妖魔館はミーにゃんの思い通りに片づけられて、めでたし、めでたし、とにゃったのにゃん。そしたら、ウチらもこんにゃに手間をかけにゃくても良かったのにぃ……はあぁ。にゃかにゃかネコのいいように、ことは運ばにゃいもんにゃ。
《誰かひとりの思い通りにこの世を動かすというのはね。意志決定の方法としては、とぉっても単純で決めやすいのだけれど、その反面、とぉっても危険なのよ。間違った方向へと動かして、ありとあらゆる命に被害をもたらさないともかぎらない。やっぱり、幅広い分野から、それぞれの立場の者たちが意見を出し合って、多数決で決めるのが一番だと思うの。……とはいっても、命ある者にアヤマチはついて回る。どんなやり方をしたって間違うことはあると思うわ。大事なのは、アヤマチと気づいたら、ただちに認めて速やかに軌道修正がなされるかどうかよ。その勇気と知恵があるかないか、決断が早いか遅いかで、より良い未来を築く速さが決まってくるのじゃないかしら。
ねぇ、ミアンちゃんはどう思う?》
《すうぅっ。すうぅっ》
《あら。おネムっちゃっていたわ。……ごめんなさい、ミアンちゃん。そうよね。ここはお気楽話の場であって、見当違いの話を力説する場ではないものね》
ヤカンにゃんの愚痴はまにゃ続くのにゃん。
「それだけならまだしも、お次は光弾となってこちらへと突っ込んできたのわん。最初の攻撃で無力同然となったアタシはもう、防ぐことも避けることも出来ずに……二体結合なんていう悲惨な目に遭ってしまったのわん」
「そこんところはミッションを始める前に聴いたのにゃん」
「問題はこのあとよ。それが元でアタシがアタシじゃなくなったのわん。一番の災難はブラックのアタシがホワイトのアタシと一つになれなくなったってこと。パンドラの箱の外と中を行き来出来なくなったばかりか、置いてある部屋の外にまで追いやられて、箱に辿り着くことすら叶わなくなったの。
ねぇ。こんなのってある? 自分の宿主(=妖魔館)を思うように扱えない、情けない寄生魔なんてどっこにも居ないわん」
(ウチの目の前に居るのにゃん)
にゃあんてツッコミは気分を害するにゃけにゃろうにゃあ。まっ。事態を悪化させにゃいためにも、ここはやめとくのにゃん。
「ちょいと待つのにゃ。妖魔館を宿主にしているのはカイラにゃんじゃにゃいの?」
「んだから、まだ判らないの? アタシがカイラなんだってばぁ」
「にゃんと! にゃら、ヤカンにゃんは?」
「……ええいっ! もういいや。ぜぇんぶ、ばらしちゃえぃっ!
とうの昔にアタシが倒してね。奴の記憶と霊力を根こそぎ奪ってやったのわん。
うっひょおぉっ! やっちゃったわぁん。ついに真相をぶちまけちゃったぁ。
ならついでに、たった今その力を、アタシの本当の願いを、お目にかけてやるのわん」
いつににゃく、はしゃぎ気味にゃブラックにゃん。言葉が終わると同時にホワイトにゃんと重にゃってひとりに。
途端に、
ぴにゃんにゃんにゃんにゃん!
強烈にゃ光を発したと思ったら、三角屋根を、ずぼっ、と突き抜けたのにゃん。それほど高くにゃいもんでウチらもみんにゃ、開いた穴から飛び出してにゃ。屋根から屋根へと、ぴょんぴょん、跳ねて、館の入り口を後ろに飛び下りてみたにゃらば……、少し遅れて、先に抜け出した謎の光もまた、ウチの目の辺りくらいにまで下がってきたのにゃん。
「ふわんにゃ! にゃあんと強い光にゃん!」
「本当……あれっ。でもこの光って」
「光?」
ミクリにゃんの言葉に引っかかるものを感じたのにゃ。にゃもんでウチは眩しいにゃがらも視線を向けてみたところ、にゃにやらデジャヴ(既視感)を覚えてしまったのにゃん。
(これって……そうにゃん! にゃあまん様を呼び出すのとおんにゃじ光にゃあ!)
1677万色。言い伝えに依れば、それにゃけの色を持つ光らしいのにゃん。
(まさか、にゃのにゃん!)
「あんたの願いとは、ひょっとして、『にゃあまん様』にゃの?」
《違うわ、ミアンちゃん。そこは、『にゃあまん様』ではなくて『ワタシ』よ。
折角ここまで引っ張った物語じゃない。ここは一つ勇気を奮って後世の方々に、『まさに逆転の発想』とまでいわれるくらいのことをしなきゃ》
《にゃんで、あんたにゃと『逆転の発想』とにゃるのにゃん?》
《うふっ。そんな小さいことを気にしちゃダメよ》