第八話『逃げ水に、砂嵐に、ええとぉ、石蛇にゃん!』のその⑦
第八話『逃げ水に、砂嵐に、ええとぉ、石蛇にゃん!』のその⑦
「助けて下さぁい!」
突如、絹を裂くよにゃ女の子の悲鳴。
誰かと視線を向ければ、そこに居たのはミリアにゃん。
ずぼっ!
「助けて下さぁい!」
ずぼっ!
「助けて下さぁい!」
ずぼっ!
「助けて下さぁい!」
ずぼっ!
「助けて下さぁい!」
しばし我を忘れて、目の前に繰り広げられている喜劇を鑑賞にゃ。
「ずいぶんとまぁ器用にゃもんにゃあ」とウチ。
「無意識にあれが出来るのはミリア君ぐらいだろうねぇ」とミクリにゃん。
「たいしたもんでありまぁす」とミムカにゃん。
「あれはもはや芸術ではないかしら」とミストにゃん。
ウチを含め、みんにゃが感心するのも無理はにゃい。グリグリが(予測込みの)狙いを定めて襲いかかった瞬間、ミリアにゃんはそのちょっと先へと移動するか、はたまた、ずっこけるのにゃもん。しかもにゃ。一度のみにゃらまにゃしも、二度、三度、四度、五度、六度、七度…………ええいっ! いつまで数えさせんのにゃん! とぉにかくにゃ。今の今まで延々と続いているのにゃ。にゃもんで、こちとら、『また空振りにゃ』『またにゃ』のいい続け。いつしか助けることも忘れて、『次はどうにゃる?』と楽しんでいたのにゃ。
ここで上空から声が。
「やぁ元気か?」
ずっこけにゃがらも走りをやめにゃいミリアにゃん。その横っ腹へ、ぶつからんとばかりに真っ直ぐ飛んできたのはミロネにゃんにゃ。
「ふぇ? ええ、まぁ」
不意の言葉に驚いたのにゃろう。ミリアにゃんの足がとまってしまった。一方、ミロネにゃんのほうは返事も待たずに急上昇。『たにゃ、声をかけたにゃけにゃの?』とウチは、がっかりするも、次の瞬間、ミリアにゃんの背中の上で思いがけにゃい出来事が。
どっしゃああぁぁん!
二体のグリグリが交差するように衝突。双方とも木っ端微塵に砕かれたのにゃ。
ミリアにゃんを追っ駆けてきたグリグリは、急に立ちどまられたことで狙う相手の背中の上を飛ぶ羽目に。一方、ミロネにゃんを追っ駆けてきたグリグリは急上昇についていけず、真っ直ぐへと飛ぶ羽目に。結果、後者のグリグリは、前を横切ろうとした前者のグリグリにドリル刃を突き立ててしまったのにゃ。これが災いして『同時崩壊』。敵にゃがら、哀れを感じずにはいられにゃい悲惨にゃ最後を遂げたのにゃん。
《同時崩壊といったって、たった二体じゃない。自慢じゃないけど、ワタシなんか》
《にゃあ、イオラにゃん。
抗議に来た大精霊らが、にゃあんか殺気立っているのにゃけれども》
《まだ居たの? じゃなくって、ごっほん。
……ええとぉ、若気の至りとはいえ、済みませんでした》
目の前にあるは砂の小山にゃ。
「ミクリにゃん。やぁっぱもうダメかにゃあ」
「じゃない? いろいろとあったけどさ。滅びれば、みんながみんな、霊力という名の御仏となってガムラ様の元へと還っていくんだもの。ここは慎んで冥福をお祈りしようよ」
「うんにゃ」
ふたりで、『お悔やみを申し上げますのにゃん』の気持ちで合掌。
と、突然。
ぶわぁっはっ!
砂を撒き散らしてひとりのネコ型妖精が姿を現わしたのにゃん。
「ミクリにゃん。やぁっぱダメにゃったん」
「なぁんて生命力なんだろうね。きっと、六本足のアレみたいにさ。天空の村が最後の最後になっても生きていける存在なんだよ。彼女は」
にゃにが起きたのか判らにゃかったとみえ、ぽわっ、とした様子のミリアにゃん。しばらくたって、はっ! とした顔つきに。身体を揺さぶって、降りかかった砂を払い落としたのにゃ。
「ええとぉ」
きょろきょろ。
明らかにネコ恋しい表情。見回した視線がどこへとまるかは……考えるまでもにゃい。
たったったったったっ!
勢い込んでこちらへとやってきてにゃ。
「どうです? 善良なる私に運命の女神様が助けてくれたのです。
さぁみなさん。私と一緒に『運命同好会』を造ろうではありませんか!」
間髪容れずに新たにゃサークルの勧誘をおっ始めたのにゃん。
(ぽわっ、としている間に、妄想していたにゃあ)
どうやら、転んでもたにゃでは起きにゃい性格のようにゃん。
「思いつきで同好会。いい加減にやめたら?」
「そうでありますよぉ」
「思いつきなどでは決してありません! 女神さまから啓示が下されたのです。怖れ多くも私の心に。奇跡が起こったのですよ」
ミリアにゃんが、ミストにゃん、ミムカにゃんを相手に口げんかにゃ。
ぱたぱた。
ミロネにゃんがウチの肩に。ミクリにゃんとの間に入った格好にゃ。
「にゃあ、ミロネにゃん。ミリアにゃんたら、あんにゃことを」
「同好会への勧誘は勘弁してもらうとして。
運がなければ助からない、というのはある意味、真実といっていいんじゃないか?」
ミクリにゃんは、こくり、と、頷いたのにゃ。
「うん。それもそうだね」
《あら。ワタシ、なにか啓示をしたのかしら?》
《まぁ確かにぃ。守護神にゃし、女神さまでいいのにゃろうけれども……。
お願いにゃ、イオラにゃん。くれぐれもミリアにゃんにそそのかされて、おかしにゃ宗教にゃんか始めにゃいようににゃ》
六体全部を仕留めたもんで、『これでここのミッションもクリアにゃん』と安堵の胸を撫で下ろした、まさにその時にゃ。
ざざざざざざあぁっ!
再びグリグリが、しかも砕ける前とおんにゃじ六体とにゃって現われたのにゃん。
「どういうことにゃん!」
目の前の出来事が信じられずに叫ぶウチ。とそこへ、ヤカンにゃんが現われたのにゃ。
「残念でしたわん。
実はね。グリグリは同時に六体を破壊しないかぎり、再び再生するのわん」
「そんにゃの一言も聴いていにゃいのにゃよぉ」
「一から百まで手のうちを晒してくれるゲームなんてないわん。
謎は自分で解くものと、昔っから決まっているわん」
「んにゃことをいわれたって」
見渡せば、みんにゃがみんにゃ、疲労困憊気味にゃ。
(これ以上は闘えにゃいかも……)
ウチの不安をよそにヤカンにゃんの言葉を続くのにゃん。
「ここをクリアしたければ、あいつらを倒すしかないわん。
さぁ四の五のいわずに、とっとと始めるわん」
「にゃあ、誰か闘えるのにゃん?」
目の前にあるのは、へとへとにゃ感じで首を横に振る姿、姿、姿。どうやら、返事をする気力もにゃいみたい。
(にゃろうにゃあ)
とはいっても、勝ちたいのにゃ。負けは認めたくにゃいのにゃん。
(どうすればいいのにゃん?)
困った時に相談する相手は決まっているのにゃ。
《ワタシね》
《いっくらネコにゃって、居にゃい相手にはすがらにゃいのにゃん》
ウチの肩に腰を下ろしている翅人型の妖精に尋ねたのにゃ。
「ミロネにゃん。どうしたらいいのにゃろう?」
マザーミロネにゃんとリンクしていにゃいのは百も承知。でもにゃ。こういうにっちもさっちもいかにゃい状況では、ウチらの誰もが自然と頼ってしまうのにゃん。
「要するにだ。六体同時に破壊すればいいんだろう?
ミアン殿。全員をグリグリから遠のけてくれ」
「にゃにか手でもあるのにゃん?」
「まぁオレに任せてくれ」
にゃんとも頼もしいお言葉にゃ。ミーにゃんの一大事とはいえ、こういうセリフが吐ける友にゃちがそばに居てくれるからこそ、ウチもこうやって乗り込もうという気ににゃるのにゃ。
《ミロネちゃん、ううん、マミちゃんったら、格好良すぎ》
《にゃんで、マミにゃん、にゃの?》
《マザーミロネ、だから、マミちゃんよ。ワタシの大切なお友だちなの。
ミロネちゃんは彼女の影霊、つまり、影でしょ?》
《にゃあるほろ》
《でもでもでも格好良すぎだわぁ。ああんもう。なぁんか悔しくってよ。
きぃぃっ、と羽衣の裾をかんでしまいたくなるくらい》
《嫉妬してどうするのにゃん?》
「でもにゃ。あれをいっぺんに、っていうのは」
「まぁ待て。一つ考えがある」
女の子とも見紛う綺麗にゃ顔が、友にゃちのひとりに向けられたのにゃ。
「ミムカ殿。さっきの木の葉って、オレにも扱えるだろうか?」
「まぁ使えるようにさえすればぁ」
「そうか。なら頼む。で、残りはどれくらいある?」
「ちょっと待って下さいませです」
ネコ人型モードで立ったミムカにゃん。両手の肉球を自分の顔へとかざしたのにゃ。
ぱっ。ぱっ。ぱっ。ぱっ。ぱっ。
一瞬の早技というかにゃんというか、気がついたら、指と指の間に一枚ずつ、さっきとおんにゃじ木の葉を挟んでいたのにゃん。
「ひぃふぅみぃ……五枚ありますですねぇ」
間違いにゃい。右手に三枚、左手に二枚にゃもん。
「五枚か。それを全部くれないか?」
「全部? でありますかぁ?」
「そうだ」
「なら、はい」
気持ち良く差し出すミムカにゃん。『私にもおすそ分けを』と横からかっぱらおうとしたミリアにゃんの顔面にすかさず肘鉄を食らわし、ぶっ倒したシーンでは、みんにゃがみんにゃ、やんややんやの拍手喝采。
ミロネにゃんは受け取った木の葉一枚一枚に、みんにゃからもらった髪や毛をくっつけている。ウチらの代わりにするつもりにゃのは誰の目にも明らかにゃ。
「これで全員だな」
「あとひとり。ミロネの分が足りないでありますよぉ」
「そうにゃった。どうするつもりにゃん?」
ミロネにゃんの口元に、にやり、の笑みが。
「オレの分はオレ自身がやる。心配無用だ」
《あら、イヤだわぁ。マミちゃんったら、格好良すぎ》
《繰り返してどうするのにゃん?》
《ああんもう。反則切符を切りたいくらい、ぜぇぇったいに格好良すぎよ》
《にゃんにゃの? 反則切符って》