第七話『ネコーターで走るのにゃん!』のその⑧
第七話『ネコーターで走るのにゃん!』のその⑧
《ふぅ。帰った帰ったぁ。ばんざぁい!》
《あのにゃあ。ほっ、としたからって冒頭で口を挟むにゃって》
成り行きを固唾を呑んで見守る中、それは起きたのにゃ。
ぷよぷよぷよぷよぷよ。ぷよぷよぷよぷよぷよ。
「ぷよぷよ水にゃん!」
山の如く高くそびえ立った大波は、あっという間に、ぷよぷよ化してしまったのにゃん。
(にゃるほどぉ。それで)
感心する間もにゃく次の瞬間、
ずぱあぁぁん!
ぷよぷよ水が一気に弾け飛ぶ。砕け散る。中から現われたのは、なじみの妖精にゃ。
「ふふっ。水を操れるわたしをここに入れたのは失敗だったわね。
ましてや、闘いを挑むなんて。百年早いわ」
《ふふっ。ミアンちゃん。ワタシに挑むなんて数万年早いわ。
ほらっ、じゃんけん》
《ぽん!
……あのにゃあ。負けてどうするのにゃん?》
翅を羽ばたかせながらウチのかたわらへ。
すたっ。
でもにゃ。ネコーターへ着地すると同時に、右の片膝を突いてしまったのにゃん。
「はぁはぁはぁ」
息が荒い。にゃもんで思わず声をかけたのにゃ。
「大丈夫にゃん?」
「はぁはぁはぁ。まさか、この程度の力でこんなに消耗するなんてね」
「この程度って……。あれにゃけの力を放っていれば、当然と思うのにゃけれども」
「前にもやったことがあるのだけど……。
わたしはかよわい女の子よ。でもその気にさえなればね。親友のドナを含め、霧の都全体をぷよぷよ化する力だって持っているの。そしてそれが終わったあとでも笑って立っていられる余力を残せる幼児なの」
「ミストにゃん。あんたって……そんなことをしていたのにゃん」
「昔の話よ。……なのにこの体たらく。やっぱり、あれかしらね。実体化と霊力の半減。この二つが相当、身体に負担をかけているってことかしら」
《あら、我が意を得たり、とはこのことじゃないかしら。
ワタシもね。仲間の精霊を全部ダウンさせたあとでも笑っていられたわ》
《んにゃことを自慢してどうするのにゃん?》
《ふふっ。昔の話よ。気にしちゃダメ》
《あのにゃあ。『昔の話』を免罪符にされても困るのにゃけれども》
息切れは続き、言葉の端々からも弱気が感じられてにゃらにゃい。
(どうにか回復させる方法はにゃいものか……にゃあんてにゃ)
ウチはネコにゃもん。考えるにゃけムダというもの。でもにゃ。ムダと判ってもやらにゃきゃにゃらにゃいこともあるのにゃ。にゃもんで、儚い望みと知りつつも思案を続けていたらにゃ。困った時の助け船。いつもの黄色い声がウチの耳に届いたのにゃ。
「ミムカにお任せあれぇっ」
後ろからウチの頭を越えて颯爽と登場。翅人型の姿にゃ。ここが見せ場とばかり、弱り切っているミストにゃんの前に回って両手のひらをかざしたのにゃん。
ぷわあぁっ!
淡い黄色の光がミストにゃんを包み込む。疲れ果てた表情がみるみる間に回復。元のように二つ足で、しゃん、と立てるようににゃるのも、そう時間はかからにゃかった。
《残念。ミムカちゃんの役はワタシがやりたかったわ。
……あっ。やっぱり、ダメね》
《にゃんで?》
《ワタシが居たら、妖魔館を見た途端、吹っ飛ばしていたはずだもの。
なんせ、力があり余ってあり余って》
《イオラにゃん。物騒にゃもんで、肩をぐるぐると回さにゃいでにゃ。
にゃんにしてもんにゃ。イオラにゃんがしゃしゃり出た時点で物語自体が成り立たにゃかったわけにゃん。とすると、ある意味、ほっ》
ぱっ!
いきにゃり辺りは真っ暗。でもにゃ。直ぐに明るさが戻ってきたのにゃん。
「これは……」
ウチの目に映る光景。それは元の真っ赤っかにゃ部屋にゃん。
「ここでのミッションをクリアしたってことにゃん?」
「らしいね。おめでとう、ミアン君」
「ミクリにゃん! あっ、ミリアにゃんも!
ふたりとも身体は大丈夫にゃん? ケガはどうにゃん?」
「大丈夫だよ、ほら、ぴんぴんしているさ」
「泳いでもムダだって判ったものですからね。
仰向けでぷわぷわ浮きながら、並んでうたた寝していましたよ」
(あのにゃあ)
文句の一つもいおうと思ったのにゃけれども……待てしばしにゃ。まにゃまにゃ本当のゴールは遠いのに違いにゃい。にゃらばここは体力と霊力、ともに温存していたほうが行く先々有利にゃはず。そう考えてにゃ。
「にゃにはともあれ、無事で良かったのにゃん」と笑顔で告げたのにゃん。
《ねぇ、ミアンちゃん。ケガってどういう意味なの?》
《したことにゃいのにゃん!》
「モワァン! お帰りなのわぁん」
ミーにゃんの身体がウチのそばへと飛んできたのにゃ。
「アタシのモワンなら、きっとやってくれると信じていたわぁん。
……って一体アタシはなに抱きついているわん?」
『喜びの言葉に続いて戸惑いの言葉』は相も変わらず。一つの身体の中で二つの心がせめぎ合っているのにゃん。
(そのうちミーにゃんの意識がヤカンにゃんを追っ払うのでは?)
マジで期待は膨らむ。ところがにゃ。
「いい子はおネムるわぁん。早くおネムるわぁん」
ヤカンにゃんがおまじにゃいを唱えた途端、ミーにゃん顔のまぶたがくっつきそうに。
「困ったわん。アタシっていい子すぎるから、もう……」
すうっ。すうっ。
(にゃんと! ミーにゃんの弱点を突かれてしまうにゃんて!)
「ミクリにゃん、大変にゃあ。ミーにゃんがいい子すぎるもんにゃから、
ほらぁっ、たちまち寝ついてしまったのにゃん」
ウチが慌てるも、ミクリにゃんはどうしてか呆れ顔にゃ。薄焼きせんべいよりも薄いマナザシをこちらに向けるや否や、
「ねぇ、ミアン君。頼みがあるんだ。
一度でいいからさぁ。ミーナ君の頭を、ぼこっ、とやっていい?」
「にゃんと!」
ミクリにゃんに留まらず、他の友にゃちからもまた、『今こそ日頃のうっ憤を晴らさん』とでもするかの如く、非難の声が、ぶぅぶぅ、にゃん。
「そうね。『いい子』なんて聞いて呆れるわ。爆弾娘がなにをいっているのかしら」
両腕を組んで、ふぅ、とため息のミストにゃん。
「彼女の立場を鑑みれば、『爆弾姫』のほうが相応しい。
もっとも、迷惑この上ない、という点ではどちらも一緒だが」
一も二もにゃく賛成みたいにゃミロネにゃん。
「私は特には。ただちょっと……ムカっ、ときただけで」
ちょっと、の割には、『ムカっ』を強調しているミリアにゃん。
「ミムカも、ちょっと、イライラっ、ときただけでありまぁす」
『イラ』が二つ続いた分、ミリアにゃんよりもイラついていると思われるミムカにゃん。
にゃんとも評判が悪いのにゃ。これらの批判に対するウチの返事はもちろん決まって、
「にゃ、にゃんと!」
《そうなの。いい子だと、ボコられちゃうのね》
《みたいにゃ。困ったもんにゃ》
気がつけば、ミーにゃんの身体は部屋の天井近くで仰向けに浮かびにゃがら、すやすや、と寝息を立てているのにゃ。ミーにゃんをおネムさせたはずにゃのに、どういうわけか、ヤカンにゃん自身も『おネム』とにゃったみたい。
(二心同体のせいかもにゃ。まっ、静かでいいにゃん)
にゃもんで、ほったらかしにしておくことに。
部屋は、がらん、のままと思っていた。ところがにゃ。
「あっ、ミアン。あそこの床を見て」
ミストにゃんがネコ差し指で示した先にあるのは、銅色に煌めくもん一つ。
拾い上げてみたら、ずっしり、とまではいかにゃいにしても、『確かに持っているのにゃん』と納得出来るくらいの重みが伝わってきたのにゃ。両端のうち、片方の先端は三つの真ん丸が三角形をあしらったデザインで、そこから反対側の片方へと真っ直ぐに一本伸びている。そちらの先端部分は片側がギザギザにゃ。
生前、飼いネコにゃったウチには見覚えのある形状にゃん。
「ミロネにゃん。もしやこれがカギにゃのでは?」
「らしいな。さぁ早くあそこへ」
「うんにゃ。やってみるのにゃん」
部屋には一つしかドアがにゃい。入ってきたのとおんにゃじ白色にゃん。
(どういうことにゃん?)
ウチが頭に疑問符『?』を浮かばせたのを察したのにゃろう。ミロネにゃんの口からこんにゃ言葉が。
「オレがこの部屋に入った最後だから良く知っているが……。
外側から見たドアの色は確かに白だったが、内側はこの部屋以上に真っ赤だったんだ」
「そうにゃの?」
思い返してみれば、部屋に入ったあとにドアを見たという記憶がにゃい。
(にゃらば、これこそが向こうの部屋へと通じるドアにゃのかもしれにゃいにゃあ)
期待と不安を胸に、ウチは恐る恐るドアへとカギを差し込む。
(果たしてどうにゃるか)
ドキドキ感が増す中、カギを右へと。
がちゃり。
「ま、回ったのにゃん!」
「いよいよかぁ」
ミクリにゃんを始めとする、その場に居る全員の熱い『視線と願い』を背中に感じつつ、ウチはドアを開いたのにゃん。
「にゃ、にゃんと!」
《あら、もう終わり?》
《にゃといいにゃん》