第八話『逃げ水に、砂嵐に、ええとぉ、石蛇にゃん!』のその①
第八話『逃げ水に、砂嵐に、ええとぉ、石蛇にゃん!』のその①
ドアを抜けると、そこは……二階の通路にゃった。
「やってみてのお楽しみ、とかいっていたが……、
ハズレはこうなっていたのか」
「なぁんだ。戻ってきただけかぁ」
ミクリにゃんの言葉が示すように、みんにゃがみんにゃ、がっかりした風。もちろん、ウチもにゃん。ヤケのヤンパチで、通路をごろごろ。寝転がった目に映るは当然見たことのある、幾つもの丸い照明が連にゃる白い天井。
(ミーにゃんはまにゃおネム中かにゃあ)
いつもにゃら話しかけてくるのにぃ。さみしいもんにゃ。
《さみしくなんてないわ。ほら、ワタシが話しかけているじゃない》
《あぁぁん。ミーにゃああん》
親友への恋しさが募るウチの思いが届いたのかもしれにゃい。
ぱたぱたぱた。
翅音とともに視界に入ってきたのはミーにゃんの黒い身体。どうやら起きたとみえる。眠気も綺麗さっぱりと消えたようで、お目目もぱっちりにゃん。
「ミーにゃん。ヤカンにゃんは追っ払えたのにゃん?」
「誰? ミーにゃんって。アタシはヤカンなのわん」
ウチの期待はもろくも打ち砕かれたのにゃん。
「そんにゃあ。
ウチらはミッションをクリアしたのにゃよ。
にゃのに、にゃんでミーにゃんはミーにゃんじゃにゃいのにゃあ!」
「ミアンのいう通りよ。なんでアタシじゃないのわぁん!」
息がかかるほどの近さで、文句をいい合うウチらふたり。
(ふにゃ?)
気がついたのにゃ。おんにゃじ意味の文句をいい合っていることを。
「……ひょっとして、ミーにゃん?」
「えっ。……うわっ、本当。ヤカンが居なくな」
喜んにゃようにゃ顔と声。
「……ってなんかいないわん」
呆れたようにゃ顔と声。
言葉が途切れたのを境に、ミーにゃんからヤカンにゃんへと逆戻りにゃん。
(ややっこしいのにゃあ)
「にゃんで、あんたがまた、のこのこと現われるのにゃん!」
ウチが憤慨するも、相手は、のほほん、とした顔。
「決まっているわん。取引が終わってないからよ」
「にゃからウチらは、たった今ミッションを」
「なに世迷言をほざいているのわん?
たったの一つで、おまけにハズレ。どうやら、くじ運は強くなさそうね。
多分、まだまだ先は長いと思うわん」
軽く一蹴されてしまったのにゃ。
「最初にいったわん。奥の部屋に入るにはアタリのカギで開けなくちゃいけないって。
さぁさぁ。お喋りはこれくらいにて、とっととまた部屋に入るわん」
(んもう。とりつくしまもにゃいにゃあ)
《んもう。ミーナちゃんったらぁ。
ミアンちゃん。ごめんなさいね。ワタシの教育が行き届かなくって》
《そういう問題ではにゃいのにゃけれども》
幾ら文句をいったところで、どこ吹く風、と澄ましげにゃままに違いにゃい。そんにゃ相手に時間をかけても詮にゃきこと。にゃもんでウチらはまた白いドアの前に立つことに。
ぎいぃっ。
先の真っ赤にゃ部屋とおんにゃじ。ひとりでに開いたのにゃん。
「みんにゃ、行くにゃよぉ」
「うん」
お隣に居るミクリにゃんの声に合わせるが如く、みんにゃが揃って頷いたのにゃ。
ぞろぞろぞろ。
またもやお行儀良く横二列にて入ってみれば……。
「ちぇっ。芸がないなぁ」
ミクリにゃんがぼやくのも無理はにゃい。黄色に彩られていることを除けばにゃ。あとは先の部屋とにゃんら変わらず、空っぽの空間が拡がるのみにゃん。
《ミアンちゃん。この棲み家には芸があるわよ。ほら》
《ふにゃ! ウチとイオラにゃんが入れ替わったのにゃん!》
まっ、芸のあるにゃしはともかくにゃ。
「にゃにもにゃいみたいにゃ。やっぱミッションが始まるのを待つしか」
「ちょっと待って」
ウチの『がっかり』言葉をさえぎったのはミストにゃん。向こう側へ、ぱたぱた、と飛んでいったのにゃん。
(カギがにゃければ、奥の部屋には入れないのにゃけれども)
そう思いつつ、目で追ってみたらにゃ。紫色の友にゃちは部屋の真ん中辺りで、ぴたっ、と、とまったのにゃん。
(はて? 身体の具合でも悪くにゃったのにゃろうか?)
にゃんせ、ついさっき霊力を出し切ったばかりにゃもん。ミムカにゃんの施した回復とミッション終了のご褒美、この二つのおかげで元気とにゃったようには見えるのにゃけれども、どうにも心配でにゃらにゃい。にゃもんで、『大丈夫にゃん?』と声ををかけようとしたところにゃ。
「みんなぁ!」
振り返ったミストにゃんの顔が満面の笑みを浮かべている。
「まさか!」
真っ先にミクリにゃんが駆け出す。
(あり得にゃいとは思うのにゃけれども)
知らず知らずのうちに足が動く。思いはおんにゃじとみえ、ウチに続いて、他のみんにゃも、ミストにゃんのところへと集まったのにゃ。
「あれじゃない?」
ミストにゃんがネコ差し指で示した先の床。そこには。
「銅色のカギにゃん!」
ウチらはまるで魔法にでもかかったが如く、一斉に動いたのにゃ。
「あと一歩……あと一歩にゃ!」
ネコ型は駆けて駆けて駆けまくった。翅人型は飛んで飛んで飛びまくった。みんにゃがみんにゃ、息が荒くにゃってくる。それでもめげず、駆けて駆けて駆けまくったのにゃん。飛んで飛んで飛びまくったのにゃん。……ところがにゃ。
ぺたん。ぺたん。ぺたん。ぺたん。ぺたん。ぺたん。
ウチを含め、みんにゃがみんにゃ、床に腰を降ろしてしまう始末にゃ。
「どうしてにゃ! どうして届かにゃいのにゃん!」
確かにカギは目と鼻の先にあったのにゃ。でもにゃ。駆ければ駆けるほど、不思議にゃことに遠ざかっていく。気がついてみたら、カギの姿はもう見えにゃい。それどころか、前も後ろも真っ黄っ黄にゃ空間があるのみにゃん。
「迷子になってしまった」
そういって肩を落とすミクリにゃん。
「ボクたちは……行くことも帰ることも出来なくなったんだ。
ぐすっ。なぁんか、ものすっごく小さい頃に戻った、そんな気がするなぁ」
涙ぐみにゃがら、ひとりノスタルジーに浸っているのにゃ。
「せめて、せめて、
たった一つでもいいからみんなが集まる同好会を造りたかったです……」
「疲れたわ。もっと実りのある生涯であって欲しかった」
ミリアにゃんに続いてミストにゃんも、さにゃがら余生を振り返って後悔に耽ってでもいるご老体のようにゃ。とても幼児のセリフとは思えにゃい。
気分というものは得てして、周りの状況に感化するもの。ウチも気持ちが、ずぅぅん、と重くにゃってくる。
(誰か希望の光をくれにゃいかにゃあ)
そう心で嘆いていたら、肩を優しく、ぽん、と叩かれたのにゃ。
「ミロネにゃん?」
相手は、にこり、と微笑む。
「心配するな。これは『逃げ水』だ」
「逃げ水?」
「霊呪が造り出した結界でありまぁす」
口を挟んできたのはミムカにゃん。ミロネにゃんの横から、ひょい、と顔を出した仕草が、にゃんともプリティ。
《プリティならば、ワタシも早速……あぁぁあ! ダメだわ!
小型とはいえ、ゴーレム姿のままじゃ、とてもじゃないけど、ミアンちゃんの後ろには隠れられない。かといって、あんまり小さいと目立たないしぃ。
ええいっ! こうなったらぁ!》
《にゃんと! ウチの頭が二つに!》
《にゃおおぉぉん! なんちゃって》
《ふにゃっ! 耳元で鳴くにゃあ!》
「追えば追うほど、手にしたいものは遠ざかっていく。気がつけば、自分は入り口も出口もない空間にひとり残されている。『逃げ水』の特徴そのものでありまぁす」
ミムカにゃんの説明で、にゃんとにゃく状況が呑み込めたのにゃん。
「そんにゃものがあるのにゃん。
でもにゃあ。『逃げ水』が理由としてもにゃ。抜け出す方法が判らにゃければどうしようもにゃいじゃにゃいの」
ウチの抗議にミロネにゃんは首をすくめる。
「だそうだ、ミムカ殿」
「判っていますですよ。このミムカにお任せあれ、でありまぁす」
いかにも自信ありげにゃ。ミムカにゃんは自称にゃがら森の妖精。加えてミーにゃんがライバルと認める力の持ち主でもある。にゃもんで、いつしかウチの心には希望の光が、ぽぉっ、と。
今日のミムカにゃんは翅人型。羽ばたきを使ってウチらの頭上へと舞い上がる姿は、さにゃがら天使のよう。
《ちにゃみにイオラにゃんは女神様のようにゃ》
《にゃあ、イオラにゃん。ウチのフリをするのはやめて欲しいのにゃけれども》
「ここら辺がいいでありますねぇ」
部屋の天井近くに浮かんでいる身体が、眩しい光に覆われていく。
「さぁ『逃げ水』よ。
ミムカの霊術『流与』に逆らえるなら逆らってみろ、でありまぁす!」
そういって先ほどとおんにゃじ、十字の姿に。コハク色の身体から放たれた光に照らされた瞬間、床にさざ波のようにゃものが現われ、向こう側からこちら側へと流れてきたのにゃ。繰り返し繰り返し、にゃんどもにゃんども。……そしてついに。
「ミアン君。見てよ、あれ」
いうに及ばずにゃ。ウチの視界にも既に入っている。
「間違いにゃん! 銅色のカギにゃん!」
ミムカにゃんが力の流れを逆にしたことで、遠ざかっていったカギも部屋の向こう側もこちらへと引き寄せられ、入ってきた時とにゃんら変わらじ、の景色に戻ったのにゃん。
ウチは足元まできたカギを拾う。
「やっと手に入れたのにゃん」
ウチのみにゃらず、きっと、ミーにゃん同盟の誰もが、『これでここのミッションもクリア』と思ったことにゃろう。
……でもにゃ。カギを手に喜んにゃのも束の間、ぱっ、と部屋中が暗くにゃる。
(ってことはにゃ)
ウチは気がついたのにゃ。恐らくみんにゃも。
(ここまでは前座でしかにゃかったのにゃ)
《きっと、照明が故障しているのよ。
修理してもらったほうがいいんじゃない?》
《誰がするのにゃん?》




