第七話『ネコーターで走るのにゃん!』のその⑥
第七話『ネコーターで走るのにゃん!』のその⑥
苦難のあとには喜びにゃ。黒ネコや巨大毛玉の脅威が去ったのと引き換えに、ぼぉぅっ、とではあるものの念願の三角旗がウチらの目に飛び込んできたのにゃん。
「あれが目標の『ブイ』だね」
「そうにゃ。あそこがゴールにゃん」
「残ったのは、やっぱりボクたちだったねぇ」
ミクリにゃんの踏み台として使われ、乗り捨てられた『2』番のネコーターがどうにゃったかといえば……、幸いにゃことに道路へと落下、じゃにゃい、降りたもんで、今もしゃんと四つ足で立っているのにゃ。ミクリにゃんが再び乗り手とにゃって、『歩く』のボタンを押したところ、正常に動き始めた。どうやら、壊れてはいにゃいようにゃ。
(乗り手に似て、にゃんともタフにゃん)
もう慌てる必要もにゃいとばかり、ウチとミクリにゃんは横に並んでのゆっくり走行。ゴールはもはや目前と安心しきっていたのにゃ。大丈夫にゃと。……にゃのにぃ。
突如、思いがけにゃい事態にゃん。
ざざざざぁっ!
道路が途中から、ぱきん、と折られたようにゃ錯覚を覚えたのにゃん。
ゴール側の道路が突如、にゃんの前触れもにゃく上方へと傾き出す。でもってその断面をこちらへとさらし始めたのにゃん。
(イヤにゃ予感がするにゃあ)
一抹の不安が頭をよぎる中、『それが正解』といわんばかりに、こちら側の道路もまた上昇を始めたのにゃ。元は一本の道路。にゃのに今は、こちらと向こうとで泣き別れの様相を呈している。まるで通せんぼにゃ。『これ以上先には一歩足りとも進めさせない』との意地を示してでもいるかのよう。もちろん、こんにゃことに怯むウチらではにゃい。そうはさせじとミクリにゃんが、続いてウチも、『駆ける』のボタンを、ぷちっ、とにゃ。どんどん上昇し続ける道路に合わせるように、ネコーターも駆ける勢いを増していく。『ずれ落ちてにゃるもんか』の負けじ魂を思わせるその動きは、まさに乗り手の心と一体化。道路に食らいつかんばかりの勢いで駆け続けたのにゃん。
そして……道路の端も端。崖っぷちといったところまでやってきたのにゃ。もうやれることはこれしかにゃい。
「ジャンプにゃん!」「ジャンプだ!」
切り札のボタンを、ぷちっ、とにゃ。
ぴょおおぉぉん! ぴょおおぉぉん!
ジャンプはほぼ同時。でもにゃ。ウチは高めで短く、ミクリにゃんは低めで長く。描かれる放物線はそれぞれ異にゃるものににゃりそうにゃ気配にゃ。
(ふぅ。ウチは失敗にゃん)
ネコにゃって未来を『予測』することが出来るかもしれにゃい。でもにゃ。やっぱり、『知る』ことは出来にゃいのにゃん。にゃのに、これから起きようとする未来が、ウチには手に取るように判ったのにゃ。
高く飛びすぎた分、勢いの殺がれるのが早まってしまったのにゃ。にゃもんで図らずも失速の憂き目に。
(どう考えてみても向こう岸までは届きそうもにゃいにゃあ。
だいぶ手前で、どっぼぉん! にゃ)
ウチのほうはもう無理、としてもにゃ。眼下には、まにゃ希望が。
「あとは最後の『頼みの綱』に望みを繋ぐまでにゃん」
《えっへん! お任せあれ》
《あんたじゃにゃい》
この世に運命を司る神が居るとしたら……、きっと、嘆いていたのに違いにゃい。
「うおぉっ! あ、あともうちょっとなのにぃ!」
悔しがる気持ちが、はた目にも良く判るのにゃ。
『もう目の前』『あと一息』『あと一歩』にゃどといった表現をどんにゃに連ねてもおかしくにゃいくらい近づいてはいたのにぃ……。惜しいかにゃ、にゃんの前触れもにゃく急に、がくん、と降下。ネコーターは横倒れし、ミクリにゃんは為す術もにゃく海面におっ放り出されてしまったのにゃん。
「万事休すにゃん」
無念の思いで胸が一杯にゃ。
(ミクリにゃんもダメにゃんて。
とほほ。誰ひとりゴールには辿り着けにゃかったのにゃあ)
がっかりにゃん。しかしにゃがら、いいとこまで行けたのもこれまた事実にゃ。
(もう一度やらせてもらえるかどうか、掛け合ってみたらどうにゃん?)
にゃどと考え始めた矢先、思いがけにゃい出来事が。
「ふにゃっ! ミクリにゃんのネコーターが!」
そのまま海面に没するかと思いきや、まるで弾かれたようにこちらへと向かって吹っ飛んできたのにゃん。
「にゃんと!」
目を丸くするウチに、も一度、『にゃんと!』と叫ばせる事態が。
偶然? それとも奇跡? 乗り手の居にゃくにゃった『2』番のネコーターが横っ腹をさらけ出した状態で、降下を始めたウチのネコータが向かう真下へ。まるで『さぁどうぞ、お乗りなさい』といわんばかりにゃ。
ネコーターの腹には青光りする槍が突き刺さっていた。恐らくミクリにゃんが霊糸で造ったモノにゃ。どうやら、最後の望みを託されたのはウチのほうらしい。海に落ちる寸前、撃ち込んにゃのに違いにゃい。
(にゃとしても、こんにゃにもタイミング良く飛ばされてくるとはにゃあ。
にゃんという幸運にゃ。この機を逃してにゃるものか)
足が着くぎりぎり寸前という、微妙とも絶妙ともいえるタイミングでにゃ。
「行くのにゃあ!」
言葉と同時に、『ジャンプ』を、ぷちっ、とにゃ。
これが功を奏したのにゃ。ウチが乗る『1』番のネコーターが、『2』番のネコーターを踏み台にして更にゃる高みへと跳躍にゃん。
ぴょおおぉぉん!。
「やれる。これにゃらやれるのにゃん!」
ウチの、ううん、ミクリにゃんの、ううん、みんにゃの思いが、ネコーターに届いたのにゃん、と思えるくらいの高さにまで上昇。力強い放物線を描いたのにゃ。
でもって結果はといえば……。
《はぁ。残念だったわね、ミアンちゃん》
《にゃんでそう思うのにゃん?》
《そのほうが面白くなるかなぁ、って》
ぱたっ!
「届いたのにゃん!」
《ええぇっ! なにそれぇっ! 届いちゃったのぉ!》
《にゃんにゃの? 見るからに残念そうにゃそのお顔は》
《だって物語的には、奈落の底に落ちたミアンちゃんの這い上がる雄姿が展開されたほうが、こう胸に、ぐっ、と》
《こにゃくて上等。んにゃことをネコに期待してどうするのにゃん?》
とうとう、向こう岸にゃん。まにゃ遠くにゃのにゃけれども、右側の海面に目標のブイらしきものが浮かんでいるのが、はっきりと目に映し出されているのにゃ。
「よぉし、一気に駆け抜けるのにゃよぉ!」
もうワナがにゃいことを祈りつつ、『駆ける』のボタンを押すウチ。
たったったったったったっ!
横を向いて、後ろへと流れていく海面のさまを眺めていたらにゃ。ついに三角旗をつけたブイが視界に入ってきたのにゃん。
《運転中のよそ見は厳禁、じゃなかったかしら?》
《ゴールを見極めたかったのにゃもん。いいじゃにゃいの》
《それそれ。その甘さが命取りなの。はい、反則金の督促状。明日までにね》
《にゃんと!》
形はスタートとおんにゃじもの。でもにゃ。白地に書かれた文字が違うのにゃん。
「来た来た来た……にゃおぉぉん!」
これぞ感動の瞬間にゃ。
たったったったったああぁぁっ!
「やったぁ! 突破にゃん! やったにゃよおぉっ!」
ぱたっ。
これまで通り、『1』番のネコーターはウチが押したボタンにすぐさま反応。『とまる』を実行したのにゃ。
(終わったのにゃん)
いい知れにゅ歓喜の思い。これが快い興奮とにゃってウチの身体中を駆け巡り、ついには口からも、旗に書かれた三文字の言葉が吐き出されたのにゃん。
「ゴールにゃああぁぁ!」
勝利の雄叫びを上げるとにゃ。ひとりネコ人型モードで、拳を握った両腕を高く掲げたのにゃん。
《おめでとう、ミアンちゃん》
《有難うにゃん。
それもこれも、みんにゃの犠牲があってこその話。みんにゃのおかげにゃ》
《よしてよ。照れくさくなるじゃない。ワタシはなにもしていないわ》
《イオラにゃんを除いた『みんにゃ』にゃ》
いっときの興奮を冷まそうとするにゃら、心地良い風がもってこい。もわんもわんにゃウチの毛並みが撫でられる中、次第に心が鎮まってきたのにゃ。
(やっと終わったにゃあ。もう走らずに済むのにゃん)
込み上げる安堵の思い。ふと気がついたのにゃ。
見回してもウチ以外、誰も居にゃいことを。
喜びを分かち合える友にゃちがひとりも居にゃいことを。
(つまんにゃいのにゃあ)
にゃあんかさみしくにゃってしまったのにゃん。
《ワタシが居るじゃないの》
《居にゃかったじゃにゃいの。あの場には》
ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。
頭上から、拍手らしき物音が。見上げてみれば、翅人型の妖精が宙を、ふわんふわん、浮かびにゃがら思いっ切り手を叩いているのにゃん。
「ミアン、おめでとう!」
「ミーにゃん!」
「……って一体、アタシはなに祝いの言葉を述べているのわん?」
ウチの言葉を挟んで二つの声色が。前半の文句はミーにゃん、後半の文句はヤカンにゃ。やっぱりヤカンにゃんはミーにゃんの意識を抑え切れてはいにゃいらしい。
(大変にゃにゃあ、ミーにゃんの身体も)
にゃんにしてもにゃ。自分がどんにゃ境遇に遭おうとも、こうしてウチの勝利を喜んでくれるのにゃん。その温かにゃ心遣いがにゃんとも嬉しくて……嬉しくて。
(さすがはイオラの森のお姫様にゃ)
ミーにゃんの親友である自分が、とぉっても誇らしく思えた瞬間にゃん。
勝負を制した誇らしさとは較べようもにゃいほどに。
《ねぇ、ミアンちゃん。ワタシの『さすが』な部分もいってくれないかしら》
《ええとぉ……たとえば、どんにゃ?》
《ええとぉ……はて? なにかあったかしら?》