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397 決意の時間

 話は終わった。


 もう伝えることは何もないとばかりに精神世界は消え去り、私――、コーリーン=カレンとミラクちゃん、シルティスちゃん、ササエちゃんにヒュエちゃんの五人は、元の物質世界に戻って来た。


 滅びた闇都ヨミノクニ。その中心たる女王の間に。


「お、戻った!」

「体がある!?」


 皆も、突然自分たちを襲った怪事にまだ戸惑いが抜け切れていなかった。


「拙者たち……、物凄いことを知らされたのではござるまいか……!?」


 そう、精神世界で知らされた事実は、神の秘密、世界の秘密だった

 私たち人間が与り知るにはスケールが大きすぎる。


「今この世界で起きてる騒動は、結局のところ光の女神様による痴情のもつれだったってことね」

「お前……、もうちょっと言葉を選んでだな……!」


 しかし光の女神様も心に葛藤があった。

 自分自身を二つに分けてしまうほどの愛と憎しみ。

 それがこの世界を歪にも育て上げてきた。


「でも、悪い方の女神様の計画は、完成を迎えようとしている」


 シルティスちゃんが厳然と言った。


「アイツは、自分の望まないものがはびこっているこの世界を見限って、新しい世界を創ろうとしている。それこそ真魔王ルシファーそのものだったのよ」

「あの巨大なヘビが、そのまま世界になるということか。どこぞのおとぎ話に、世界は巨大なヘビがとぐろを巻いた中にあるなどという与太話があったが……!」

「世界を創り出すには、六つの属性すべてを揃えることが必要。ヤツらは既に魔王たちを取り込んで四つの属性を手に入れた。元々持っている光属性を考えれば、あと一つ……!」

「闇属性だす!!」


 それさえ取り込めば、ルシファーは新世界として完成する。


「ここまで来た価値は、あったのかしらね?」

「ここに来て、光の女神の記憶を覗かせてもらうことでオレたちは敵の目的と正体を知ることができた。まあ、無駄ではなかったろう」

「でも、それだけだす?」


 疑問を投げかけるのも当然だった。


「敵は巨大でござる。倒すための弱点とか、有効な新しい力とか、もっと他にないのでござろうか?」

「そうね、もう少しヨミノクニを探索して、ヒントになりそうなものを……!」

「その必要はない」


 私は言った。

 ミラクちゃん、シルティスちゃん、ササエちゃん、ヒュエちゃんの視線が集中した。


「もうこの土地で得られるものはない。これで充分だよ。皆帰ろう」

「でも……」

「私たちは知った。この戦いが行われる意味。戦って何を勝ち取るべきか。それさえわかっていれば他に何が必要だっていうの?」


 絶対に負けられない理由。

 それさえわかれば私たちは絶対に負けない!


「……たしかに」

「……あまり時間かけてもハイネッちがもちそうにないしね」

「おっとり刀で帰るだす! 決戦へのボルテージは鰻登りだす!」

「勇者としての務めを今果たさん!!」


 神様が、ここで自分の記憶を見せてくれたのは、私たちに戦いを託してくれたからだ。

 私たちならこの手で自分たちの世界を守り通せるって。

 私たちはその期待に応えて、世界を守って戦う。

 それがこの世界に生きる私たちの役目なんだ!


              *    *    *


「あの子たちが、帰ってくる……!」


 わたくしの託した想いを携えて。

 わたくし――、光の教主ヨリシロの正体は、光の女神インフレーションの転生者。

 今回の災厄を生み落とした張本人と言っていい。


 様々な葛藤から光の女神インフレーションは善と悪の二つに分かれ、善なるインフレーションはこのわたくし――、ヨリシロに。

 悪なるインフレーションはサニーソル=アテスへと転生しました。


 そしてそのアテスこそ、今やこの世界に襲い掛かる最悪の災厄。


 わたくしは世界の始まりよりずっと、闇の神に代わって人間たちを守り、人間たちの進歩を見守ってきたつもりでした。

 しかしそんなわたくしですら、人間たちにとっては有害無益の存在でしかなかったのかもしれません。


「随分と気落ちしていますなヨリシロ様」


 わたくししかいないはずの光の教主の私室に、さらりとした清流のような声がしました。

 次いで、霞のごとく凝結して現れた、ピエロのような装いを持った魚人。


「コアセルベート。蒸留してもまだ不法侵入が趣味なのですか?」


 かつて奸智の神などと自称していたクズとしか言いようのない水の神コアセルベートも、人の戦いを経てすっかり清浄化してしまいました。

 彼が今、地上用の体として使っている水魔……、いえ水聖メフィストフェレスだったでしょうか。

 その体であちこち善行を行っている様子です。


「随分と思い切ったことをされたようですな。人々に創世の記憶を覗かせるなど」

「今のあの子たちには必要なことです」


 この危機が何故起き、どうして抗わなければいけないのか。

 それを知っておくだけでも、戦いにかける覚悟が違います。


「そして、戦いの意味を知ったあの子たちなら、きっともう一人のわたくしをも破ってくれることでしょう」

「そのために、もう一人のアナタから引き出した情報まで人間たちに渡したと?」


 気づいていましたか。


「アナタも手をこまねいていたわけではない。アテスの正体が発覚してから、多くの時間意識を精神界へ飛ばし、元は半身だったアテスの意識を探っていたのでしょう?」

「ええ……」


 カレンさんに伝えた記憶の後半は、そうしてアテスさんの記憶にアクセスして引き出したものです。

 でもすべてが順調に行ったわけじゃない。

 特にアテスの最終目的が発覚したのは、彼女がハイネさん諸共ブラックホールに吸い込まれてからです。

 もっと早く判明していれば戦いに向かう魔王たちを止めたのですが……。


「もはやアテスは、この世界全部に対する敵です。それを止める役目こそ勇者であるあの子たちに相応しい」


 だからこそ多少迂遠でしたが、わざわざ闇都ヨミノクニまで行ってもらい世界が辿った経緯を耳だけでなく目で肌で感じてほしかった。

 世界を背負って戦う彼女らには、世界のすべてを知る権利があるから。


「では、この戦いもあくまで人間の手に委ねようと?」


 コアセルベートの口から、慎重そうな響きが漏れました。


「実は私、四元素を代表してやって来たのです。ノヴァさんは火都ムスッペルハイムを動きづらいですし、マントルさんは直接アナタと面と向かうのが怖いという。クェーサーさんには風の教主としての務めがあります」

「そこで身軽なアナタが一同を代表したと?」

「この戦い、我ら神々にも責任があります」


 もはや汚濁のない水の神は言います。


「彼女らが神勇者になる援助だけでなく、我ら自身も表立って動くべきでは? 人を加護するのが神の役目であれば」

「まさか四元素のアナタたちから、そのようなセリフを聞くことになるとは」


 千六百年前では絶対に聞けなかったそのセリフ。

 アナタたちを変えたのは誰でしょう?

 考えるまでもありません。


「無論、カレンさんたちがルシファーと戦うための神勇者化は、わたくしたちで徹底サポートします。あらん限りの力を注ぎ、負担はすべてわたくしたちで引き受けます。でも……」


 手を下すのはあの子たち。


「この世界は既に、人間たちの世界です。自分の世界は自分で守るのが、この世界に住む者の役割です」


 あの方が人間を信じたように、わたくしも人間たちを信じましょう。

 強く優しい人間たちを。


「あの子たちなら絶対に成し遂げてくれる。そして、実際に成し遂げたその時には……」


 ついに人々は、神を必要としなくなるのでしょうね。

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