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398 ハルマゲドン

 そして私たちは戻って来た。

 戦場となるこの場所へ。


 光都アポロンシティから数十戦闘距離も離れたその地帯は、いまだ開発が進んでいない平地で、村一つ存在しない。

 そこに真魔王ルシファーが、ブラックホールに吸い込まれて拘束されていた。


「あれが真魔王ルシファーか……!?」


 闇都ヨミノクニからとんぼ返りしてきた勇者五人。

 それぞれ戦いの準備を入念に済ませ、敵たる半蛇巨人の前に居並んでいた。


 ただ、その半蛇巨人の様相が……!


「珍妙奇天烈すぎて気持ち悪いレベルだす!」


 その大きすぎる体はブラックホールですら吸い込み切れず、長い長いヘビの体が黒い穴からはみ出していた。

 ……何と言うか。


「……どっかで見た気がするわね」

「ヘビとかカエルとか、獲物を丸呑みにする系の動物はたまに丸呑みし損なって尻尾なんかがはみ出すんだよな」

「口の端からだす」

「あんな風にでござる」


 ハッキリ言って気持ち悪い。

 あんな敵が、これから私たちの戦う相手か……。


 ピシリ。


 と何かがひび割れる音がした。

 まるでヒナが卵から孵ろうと殻を割るかのような。

 そしてすぐさま、それ以上に大きな衝撃と共にブラックホールが砕け散った。


「うわああああああああッ!?」

「きゃああああああああああああッ!?」


 凄まじい爆風が吹き荒れ、私たちは吹き飛ばされないように踏ん張るので精一杯。

 そして、真のおぞましさが私たちの前に現れた。


「これが……、真魔王ルシファー……!?」


 五対十枚の翼を備えた、半人半蛇の巨大モンスター。

 上半身は逞しい男の人で、下半身はヘビそのもの。顔つきもヘビじみていて、爬虫類の瞳に耳まで裂けた口がおぞましい。


「知性の欠片も感じんでござるな……!」

「あれでガブリエルたちと同類の魔王なんて、おこがましいわね……!」


 来る前に誰かからの解説で聞いていた。

 ルシファーは、悪しき光の女神インフレーションが生み出した完全なる道具としてのモンスター。

 何百世代を積み重ねて心と魂を獲得したミカエルさんたち四魔王とは、同じモンスターでも根本的に違うと。


 さらに背中から広がる十枚の羽根。

 それぞれが対になっているため二枚で一セット。それぞれがまったく違う意匠をしている。

 光の翼から始まり、風の翼、地の翼、水の翼、炎の翼。

 光の翼以外はすべて四魔王たちから奪ったものだという。


「おや……、誰かと思えば」


 遥か上の方から嘲りの声がした。


「ブラックホールから脱出して、最初に出迎えてくれたのがアナタたちですか。非力なる虫けらに等しき人間たち」


 真魔王ルシファーの頭上に立つ、妖艶怪異な女の人。

 それこそサニーソル=アテス。悪しき光の女神インフレーションの転生者。


「魔王たちが敗れて、残る希望として遣わされてきたのでしょうが哀れですねえ。絶対勝てない相手の立ち向かわなければいけないなんて、これ以上ない拷問です」


 言いたい放題のアテス。

 私たちを敵とすら認識していない。


「アナタたちのようなクソ虫けらに割いてやるには、私の時間は貴重すぎます。権威もプライドも捨てて土下座すればここから逃げ去ることを許してあげましょう。そうすれば私が世界を滅ぼすまでの僅かな間だけ寿命を延ばすことができますよ?」

「ふざけるな!」


 まず最初にミラクちゃんが吠えた。


「オレたち勇者は人と世界を守るのが仕事だ! それら全部を滅ぼそうとするお前に背を向けることなど絶対にしない!」

「あんまり思い上がっていると足元を掬われるわよ女神様?」


 シルティスちゃんも舌戦に加わる。


「賢い神様はアタシたち人間の強さを認めてくれてるけど、アンタはバカな神様らしいわね。油断しなければ負けなかったって、あとでお決まりの負け惜しみを言うことになるでしょうよ」

「斬るだす! ただひたすら斬るのみだす!!」

「勇者としての務め、我ら五人で必ず果たす!!」


 ササエちゃんもヒュエちゃんも血気漲る。

 しかし、アテスは忠実なるルシファーを従えて女王の風格だった。


「本当に、状況把握のできないバカは滑稽ですね。見苦しい」


 心底私たちを見下している。


「もはや真魔王ルシファーは、人間ごときにどうこうできる次元の存在ではないのです。神勇者のことは私ももちろん知っています。しかし多少神の力を分け与えられたところで、新たなる世界そのものになるルシファーはどうしようもないのですよ」

「なにッ!?」

「見なさい」


 半人半蛇の巨人が、その大きな握り拳を私たちの前へ突き付けた。

 ……!?

 あの拳、何かを握っている?

 人……!?

 まさか!?


「ハイネさんッ!?」


 ルシファーを拘束するため諸共ブラックホールに落ちたというハイネさん。

 無事生還できたのは喜ばしいけれど。


「ううッ……!?」


 それでも大ダメージを追っているのか、ルシファーの手の中で苦しげに呻くばかり、手中から脱出するための身じろぎすらできない。


「生身でブラックホールに落ちながら、五体満足で生還できるなどさすがはハイネさんと言うべきですが……。でもやっと我が手に落ちてくれた」


 陶然とした表情のアテス。


「やっとこの人が私の手の中に。もう永遠に離しません。アナタは私だけのもの」

「あッ!?」


 叫び声を上げる暇すらなかった。

 ハイネさんはすぐさまルシファーの手から口へと移り、ゴクンと飲み込まれてしまった。


「ハイネさん! ハイネさーーんッ!?」


 私は叫ぶも、声など届くはずがない。

 そしてすぐさま変化は訪れた。真魔王ルシファーから新たなる翼が生え伸びた。

 この世のどんな黒よりも漆黒たる闇の翼。

 これで六対十二枚の翼がルシファーに備わった。


「ははははははははは! ついに! ついにルシファーが完全体に!! はははははははははははッッ!!」


 狂ったように哄笑するアテス。


「これですべてのピースがハマり、パズルは完成した! あとはこの邪魔な世界を消し去り、ルシファーこそが新しい世界に成り代わるだけ!!」


 もはやアテスは私たちなど眼中になかった。

 彼女にとってもはや目的は達成されたのだ。でも。


「待っててくださいハイネさん!!」


 届くはずのない巨人の体内へ向けて言う。


「私たちが必ずハイネさんを救い出します! そのモンスターの中から! 魔王さんたちも一緒に助け出して見せます!!」


 ほんの少しの辛抱です。待っててください!!


 アテスの目的は達成された。でも私たちの戦いは今始まった。


「行くよ皆!」

「ああ!」「おっけーよ!」「はいだす!!」「承知!!」


 皆揃って……!!


「「「「「神勇者モード発動!!」」」」」

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