183 控室・現役勇者編
試合開始を一時間後に控えた今、選手たる現役勇者たちはどうしているのだろうか?
僕は激励の意味も込めて、彼女らが待機している部屋を訪ねてみることにした。
* * *
お通夜状態だった。
「ハァ……、何だよ負けたら勇者クビッて……?」
「バラエティ企画かっつーの……! 勇者の進退そんな簡単に決めてんじゃないわよー……!」
「オラの生き恥レジェンドにまた一つ逸話が加わるだす……! ヨネコ姉ちゃんが出てくるなんて聞いてないだすよぅ……!」
負けたら勇者クビ。
その事実が想像以上に彼女たちを打ちのめしたようだ。
ミラク、シルティス、ササエちゃんが揃って床に突っ伏したまま、微動だにしていない。
「な、何だよキミら……! まだクビって決まったわけじゃないだろ? 勝てばいいんだよ勝てば」
「簡単に言うがなお前ッ!!」
ミラクが激昂した。
「自慢じゃないがオレはキョウカ姉者に手合わせしてもらって一回も勝ったことがないんだぞ! そして負けるたびにパンツ剥ぎ取られるあの屈辱……! アレをもし公衆の面前でやられたら……!」
火の勇者完全に心折られている。
姉妹弟子の関係って大変だなあ。
「とにかくも、私たちは戦うしかありません」
一人気丈に、カレンさんは全員を奮い立たせた。
「ヨリシロ様が仰ったように、この戦いは、私たち最大の目的を達成するためには避けられない戦いです。モンスターを滅ぼし、世界を平和に。そして私たちの団結を無意味にしないためにも。逃げることはできません。勝つしかないんです!!」
「お~……」「お~……」「お~……だす」
応えるものの力がない!
なんか益々心配になって来た……!
「すみませんカレンさん、僕も何とかして力になりたいんですが……」
実質、この戦いで僕にできることはないからなあ。
闇の神の転生者として世界をよりよくするよう奔走してきた結果、裏方に徹してきた分、こうした表向きの問題になると途端に無力になってしまう僕だ。
しかしカレンさんはいつでも前向き。
「大丈夫です。これは勇者の戦いです。だからこそ私たち自身が乗り越えないといけません。アテスさんたち先代勇者の方々は、いわば古き因習が形となって襲い掛かってきたようなもの。これを打ち砕かないと新しい制度も時代も作れません!」
カレンさんは気丈だった。それでこそ勇者同盟の牽引役だ。
「ハイネッちさー。どうしても役に立ちたいって言うなら『勝ったらキスしてやる』ぐらい約束してやればー? カレンッちの総パラメータ三倍はアップするわよ?」
失意のために床に突っ伏したままのシルティスが言った。
「シルティスちゃんやめて! ハイネさんお願いします!」
どっちなんですかカレンさん?
しかしカレンさん一人やる気ブーストがかかっても、他の四人が魂抜けてたらなあ……。
「ミラクッち、ミラクッち、凄いこと発見した」
「……なんだ?」
「こうして床に寝転がっていると、カレンッちのパンツ覗き放題」
「何マジか?」
うつ伏せに寝転がっていたミラクが、仰向けに寝転がっていたシルティスに教えられてやや奮起。
「やめて」
カレンさんは今日スカートだった。
「それに、今日はたっぷり動き回る予定だから、スカートの中は短パンだよ。シルティスちゃんウソ教えないで!」
「わかってないわねカレンッち。短パンだろうとノーパンだろうと関係ないの。スカートという隠された領域の中にロマンがあるのよ」
とにかくもうグダグダだった。
あと誰か頼れる人間がいるとしたら……、風の勇者ヒュエは?
さっきから彼女の霊圧を感じないけど。辺りを見回していたら、部屋の隅で一人たたずむ彼女を発見した。
なんか愛銃エンノオズノを磨きつつ、クククと笑っている怖い。
「どうしたんですかヒュエ? なんであんなにホラーな雰囲気なんですか?」
「わかりません……。ただ、対戦相手の名前が発表されてからずっとあんな調子で……」
対戦相手?
そう言えば、先代チームで欠員とばかり思われていた先代風の勇者枠に、見慣れない名前があったような。
「……まさか、こんなところでヤツをぶっ殺す機会が巡ってくるとは」
「ヒィッ!?」
ヒュエさんどうしたんですか怖いですよ!?
「皆の衆!!」
昂然と立ち上がるヒュエさん!
「勇者同盟の興廃この一戦にあり! 我らの正義を知らしめるため奮励努力し、目障りな先代どもを一人残らず皆殺しせしめうようぞ!!」
「殺しちゃダメですよ!?」
しかし意外に、ヒュエの激励が全員に響いた。
「そうだな、こうしてグダグダしていても話にならん」
「もう今はアタシたちの時代だって、オバサンたちに教えてやりますか」
「殺られる前に殺るだす! それが弱肉強食のこの世界を生き抜く鉄則だす!」
床に突っ伏していた三人が、四肢に力を込め立ち上がる。
「皆やろう! 先代たちに私たちの強さを見せつけてやろう!」
最後にカレンさんが音頭を取って、五人全員手を重ねる。
「「「「「おー!!」」」」だす!」
何やかんや言ってもこれまで何度も一丸となって死線を潜り抜けてきた皆。
チームワークは抜群だった。
これ以上の心配は余計になる。そう思った僕はこのまま退散し、あとを彼女たちに任せることにした。
* * *
今回僕は、本当に見ているだけになるのかもしれないな。
彼女たちは強い。自分の困難は自分で乗り越えることができるはずだ。
僕はこのまま大人しく、教主ズのところにでも戻ろうか……?
そう思ったが……。
「…………」
そう思ったが何となく、足が別の方を向いた。
カレンさんたちの敵、先代勇者チームの控室へ。




