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181 不穏の残光

「光の教団のモットーは『都合の悪いことは忘れよ』。まあ、それは半分冗談ですが、そうしたモットーを体現した人物がいるとしたら間違いなくそれはアテスさんです」


 と、ヨリシロは冗談めかして言うが、あまり冗談には聞こえなかった。

 一方、現役光の勇者であるカレンさんは沈黙して、話をただ聞くのみ。


「噂を聞いた人もおられることでしょうが、わたくしは先代教主――、我が父を蹴落とすことで光の教主の座に就きました。父は教主の座にいながら不正に手を染め、その責を取るために勇退していただいたのです」


 その話、聞いたことあるようなないような……?


「具体的にどういう不正だったかは光の教団にとって醜聞ですので改めて語りません。ですがその不正に当時勇者だったアテスさんも関わっていました。わたくしは父に代わって教主となる際に、彼女に選択してもらうことにしました」

「選択?」

「みずからの意志をもって身を引くか、自分以外の手で称号を剥奪されるか。彼女は迷わず引退する方を選びました。勇者ではなくなりますが、不正の罪をこれ以上追及されず、その上引退勇者に施される数々の手当ても残る。彼女は計算したのです」

「つまり先代勇者アテスっていうのは、そういう女ってことか……?」

「そういうことです、彼女は緻密な計算の上でしか行動しない女。そういう意味では現役であるカレンさんと――、これまですべてにおいて人徳で状況を動かしてきたカレンさんとは真逆であるとも言えます」

「ああ、それは……」

「凄くわかるような……」


 ヨリシロによるカレンさん人物評に、即座に頷くミラクとシルティス。


「引退の時だって、わたくしと全面対決して大逆転に賭ける道もあったでしょうに、アテスさんは危険を冒さなかった。勝ち目が薄い時は敗北を素直に受け入れ、雌伏の時を過ごしていたのです」

「じゃあ、今動き出したってことは……?」


 今こそ逆襲の時だと判断したから?


「どうでしょう? ですが彼女は要注意です。今回複数の先代勇者が動きだしたこの状況自体、彼女の描いた絵図という可能性もあります」


 変化を恐れる各教団の旧守派を味方につけ、まとめて、自分の戦力として利用する。

 その戦力で現政権を倒し、自分自身権力の座に返り咲こうと?

 もしその見方が真実だとすれば、アテスは恐ろしいほど状況を上手く利用していることになるが。


「アテスさん自身、ある意味で明快な権力志向者ですからね。勇者の称号自体彼女にとっては権力を得るための階梯の一つに過ぎない。権力を得るためならば何でもやる女です。自分自身に危険が及ばない限り」

「私……、負けたくないです……!」


 搾り出すような声を上げたのは、カレンさんだった。

 その瞳は珍しいことに、闘争心で燃え盛っている。


「私、そんな人に負けたくないです。勇者の称号を、自分のためだけにしか扱えない人に、負けたくないです……!」

「で、でもさあ……、そこまで気負う必要はないんじゃないの?」


 意外なほど暗い怒りを燃やすカレンさんに気圧されてか、シルティスが乾いた笑いを漏らした。


「現役vs先代の勇者対決ったって、先代で今日出てきたのは光火水の三人だけじゃない。こっちは地水火風光の五人勢揃いなのよ? 普通にやっても数でこっちが勝つじゃん」


 そう言われればそうである。

 いまだ現役vs先代の勇者対決がどのような形で行われるか不明だが、数が多いことが不利になるはずがない。


「無論だす! いくさとなれば不肖ゴンベエ=ササエ! 力を尽くしますだす!」

「皆の背中は拙者に守らせてもらおう」


 ササエちゃんもヒュエもやる気充分。

 チーム戦となれば最大のネックとなる連携の善し悪しだが、その点だけは彼女たちに心配ない。多くの死線で鍛え上げられた彼女たちの絆は、最大の武器だ。

 ならば頭数の多さにはもう有利な点しかない。


「あの……、僕は?」


 と恐る恐る手を挙げると……。


「アンタは正式に勇者じゃないんだから今回部外者でしょう? いいから引っ込んでなさい!」

「そうだぞ、いつだってお前に頼り切りでは勇者としての沽券に関わる。先輩ぐらい我が手で迎え撃ってみせるわ!」


 とけんもほろろに拒否られた。

 この戦い、純粋な勇者と勇者の戦いになりそうだ。


 ただ、それでもヨリシロの表情から深刻さは拭えない。


「しかし、そう上手くいくでしょうか? アテスさんのことです。既に地や風の教団に根回しが行っているということも……?」


 地と風の先代勇者も出てくるかもしれないと?


「地の先代勇者って……、あのお婆さん? ちょっと勝てる気しないんだけど……?」


 と身震いするシルティス。

 ササエちゃんのお祖母さんである地の教主のことを言っているのだろう。

 あのお婆さんは若き日に『根こそぎシャカルマ』と呼ばれた、伝説級の最凶勇者だったそうな。


「ばあちゃんは七代前の勇者だすよ。オラの先代はいとこのヨネコ姉ちゃんだす!」

「へえ、どんな人なの? 万が一だけど、戦いに出てきたりしそう?」

「去年結婚して引退しただす。そのお代わりでオラが勇者に抜擢されただすが、たしかヨネコ姉ちゃん三人目がもうすぐ生まれる言うてたんで、刃物三昧はできないと思うだす!」


 ……。

 …………ん?


「え? ちょっと待って、去年結婚したのその人? で、三人目の赤ちゃんがお腹に? 計算が合わなくない?」

「それがイシュタルブレストの生産力だと、ばあちゃんが言ってただす!」


 そこも生産力の及ぶところなの!?

 まあ、単にササエちゃんの勘違いという可能性もあるし、その可能性の方が断然高いし、今は置いておこう。


「おいヒュエ、お前のところはどうなんだ? ……と言っても風の先代勇者はもう皆知っているか。風の教主トルドレイド=シバ殿だ」


 そう、風の教団ではつい最近まで風の教主シバが風の勇者も務めるという兼任体制を敷いていた。

 しかし魔王ラファエルとの戦いでシバは全身に回復不能のダメージを負い、引退を余儀なくされ、その妹ヒュエが新たに勇者となった。

 教主職に専念することにしたシバはもう戦える状態じゃないし、何より勇者同盟に反対する動きには加担しないだろう。

 そういう点から見て、風の勇者サイドはまったく心配ないと言えるが……。


「……いや、あるいは、出てくるかもしれないな、ヤツが」

「え?」


 なんかヒュエが怖い雰囲気で独り言を呟いている。


「だとすれば、雌雄決する、か。……望むところだ」


 ヒュエは自分の抱く風長銃エンノオズノの銃身を撫でながらククク……、と笑った。

 何コレ怖い。


「と、とにかく、くだらない戦いではありますが、だからこそ負けられない戦いです。これを機に人間側の不穏分子を一掃し、次に続くマザーモンスターとの戦いに繋げていきましょう!」

「「「「「「おおー!」」」」」」


 ヨリシロの音頭に、そこに集う全員が拳を振り上げた。


              *    *    *


 半月後、五大教団すべての承認の下で執り行われることになった新旧勇者戦の詳細が発表された。


 先代勇者チームの出場者は……。

 先代光の勇者サニーソル=アテス。

 先代火の勇者アビ=キョウカ。

 先代水の勇者ラ=サラサ。

 先代地の勇者『葦苅り』イエモン=ヨネコ。

 そして休職中のまま任を解かれた先々代風の勇者ブラストール=ジュオ。


 そして、先代勇者チームが勝利した場合、実現される彼女らの意向は……。

 現在発足している勇者同盟と五大教団和解の解消。

 さらに現職すべての勇者及び教主の辞任だった。

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