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155 責任の果たし方

 風の神クェーサーよ。

 ヤツほど神であることを誇り、気負っている者はいまい。

 神と在ったがゆえに最強究極の神であろうとし、それゆえに現時点で最強の神エントロピー――、この僕へと挑んだ。

 そして敗北した。

 千六百年にわたる研鑽が無に帰したヤツの、自暴自棄の果てが、人類諸共消滅しようという暴挙だった。


 思いつめたら一直線なのか、ヤツは?

 しかし無理心中に付き合わされる方はたまったもんじゃないぞ!


「風の教主は……、一体何故……!?」


 そして、そんな裏事情など知るよしもない勇者や教主御一行の混乱は、輪を掛けたものだろう。

 本来ならば同じ人間。しかも同じ立場として目標を同じくするはずの風の教主兼風の勇者。それがこのような乱行に出てくるとは……。


「今はそれを気にかける時ではありません!」


 一喝したのは光の教主ヨリシロだった。


「今は、目の前の難事を乗り越えることの方が先決! 風の真意を斟酌するのは、無事生きながらえてからです!」


 さすがヨリシロ。

 光の教主という現況や、光の女神の転生者という根源に加え、世界最古の都市国家を興し栄させた女王という経歴からくる危機対処能力は伊達ではない。


「まず早急に対処しなければいけないのは、ベルゼ・ブルズに操られてしまったという人々を、どう助けるかです。通信で状況を知り得たのは水の教団だけですが、恐らく他教団の護衛隊もまったく同じ状況にあると思っていいでしょう」


 たしかに。

 ハエに操られ突然攻撃してくる仲間に、多くの人々は戸惑い、ロクに対処できないままハエどもの付け入る隙を大きくしてしまう。

 そうこうしているうちに全員がハエの操り人形に。


「ハイネさん」

「はいッ!?」

「ハイネさんの暗黒物質で、体内に侵入したハエを消滅させることはできそうですか?」

「…………」


 僕は、僕ら自身を守るための暗黒物質放出を止めずに考え込む。


「……無理だ。消滅自体は可能だが」


 蠅群ベルゼ・ブルズは風のマザーモンスター。モンスターである以上その体は神気のみで形作られたものであり、であるからには暗黒物質で完全に消滅せられる。

 だから今もこうして暗黒物質の壁でヤツらを留めておけるのだが……。

 それが人の体内に潜り込むと、事情は違ってくる。


「……神気は、人が生命活動を行うためにも重要な生命エネルギーでもある。暗黒物質が生体に触れれば、問答無用で神気を消滅させて、最悪神気欠乏で宿主まで殺してしまうかもしれない」

「ハエが寄生している部分だけをピンポイントで狙うというのは?」

「僕だって全能じゃないぞ。暗黒物質にそこまで精密な動きをさせるのは無理だ。その点だけは、同じ粒状の極小単位でも、それ自体が生物で判断力を持っているベルゼ・ブルズに劣る」


 それでも無理やり人体内のモンスターバエを消滅させようとするなら、宿主の体を丸々暗黒物質で漬け込むぐらいしか手はない。

 でもそんなことをすればハエ諸共その人の持つ神気を全消滅させ、死に至らせること確実だ。

 ハエは宿主の体内奥深くに潜んでいること疑いない。さっきシバを攻撃したみたいに表面をサッと焙る程度では絶対に済まない。


「ではやはり……」

「ああ、打開する唯一の方法は、シバを見つけ出すことだ」


 風の神の魂を宿すシバならば、自身の生み出したハエどもを自由自在に操れる。

 だからこそこんな事態になってるわけだし……。


「シバを見つけ出して、説得でもブン殴ってでもいいからハエを止めさせるんだ。さっきも言ったがこのハエはモンスター。純粋な神気の塊。体内でも死にさえすれば何も残らず消滅して、人体に影響は残らないはずだ」

「しかし、体内に卵を産み付けるとか何とか仰っていましたわね。さすがにその前に何とかしなければ……!」


 悠長にやっている余裕はないってことか。

 だったらすぐにでもシバを探して……、と駆け出そうとしたところで僕は気づいた。

 今ここを離れたら、誰が皆を守るんだ?

 このおぞましいハエどもは、僕たちの目の前にも襲来していて、僕が暗黒物質で遮るところで執拗にもがいている。

 僕がシバを探しに出て、この場を離れれば、誰が彼女らを守るというのだ?

 カレンさん、ミラク、シルティス、ササエちゃん……。

 ヨリシロ、ドラハ、そして各教団の教主たち……。

 彼女らまでが、ハエどもの餌食になってしまったら……!


「漢たるもの熱血たれ!」


 その時だった。

 僕の背後から凄まじいまでの火の神気が渦巻きながら放たれ全方位に広がっていく。

 不思議と僕たち人間には何の影響もない火の渦は、しかし群がってくるハエたちをしっかり焼き尽くしていった。


「これは……ッ!?」


 僕は振り返る。

 そこで見たのは、神具帯を巻いた拳を高々と振り上げる火の教主、猿王エンオウの姿だった。

 やはりあの火の渦はこの人から……!?

 元・業炎闘士団長という経歴は知っていたが、ここまで強力な神気攻撃ができるとは。

 勇者のミラクに迫る勢いじゃないか。


「漢たるもの熱血たれ」

「火の教主様の仰る通りです」


 ヨリシロ。お前まで火の教主が何を言っているかわかるようになったのか?


「わたくしたち教主は、ルドラステイツを脱出し、各護衛隊の下に戻ります」

「え!?」

「ここで得た情報を持ち帰り、混乱した味方の指揮系統を立て直します。それで外部はかなり持ちこたえられるはずです」

「バカ言うな! 僕の暗黒物質があるからこそここは安全だったんだぞ! その外に出たら、お前たちだって……!」

「わたくしたちとて、お飾りで教主となったわけではありません」


 ヨリシロは昂然と言った。


「教団を背負うということは、そこに所属する何十万人という人々の命と権利を背負うということでもあります。その危機に直面し、我が身可愛さに逃げ出したとあっては、教主を名乗る資格はありません」

「若者にそう言われては、年配も逃げ場はありませんな」


 水の教主まで勇み立つ。


「吾輩などは弱っちいから正直怖くて堪りませんが、それでも教主としての信用をいただいたからには最低限、お応えせねばなりません。商人に勇気はありませんが、度胸はあるということぐらいお見せしておかねば」

「それに、外で出来る限り踏みとどまれば、時間が稼げるさね」


 地の教主も。


「アンタさはその間に、あの風のバカチンをとっ捕まえて、しばき倒しなさんなね。そうしてあの子さに言うこと聞かせられれば、最悪オラども全員が操られても取り返しは付くさね。兄ちゃん、また頼んだよ」

「漢たるもの熱血たれ!」


 この人たちは……!

 意外にも、人の上に立つ者としての責任を充分以上に持ってるじゃないか!


「わかりました! シバは僕が見つけてブン殴ります! 皆さんもご無事で……!」

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