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138 さすらう都市

「これが……風都ルドラステイツ!?」


 黒雲が晴れ渡り、隠れていたものが白日の下に露わとなった時、結局僕の視界には依然として巨大なのもが立ち塞がっていた。


 それは一言で言えば、タイヤのある街だった。

 無論、タイヤといっても通常のエーテリアル動力車についているものより何十倍も巨大。しかもそれが片面六個も連なっていて、そうして組み上げられた駆動部分? と言うべきものの上に街が乗っている。

 つまり……、これが……。


「風都ルドラステイツ?」


 衝撃過ぎて二度聞いてしまった。

 僕のうわ言と言ってもいい質問に律儀に答えるのは、教主たるヨリシロだった。


「そうです。エーテリアル工学の粋を極めて建設された、超巨大駆動装置。その上に営まれた都市こそ、風の神クェーサーを崇め奉る風都ルドラステイツです」


 凄まじい……!

 こんなものを作り上げるのに一体どれだけの時間と資源と労力が必要になるんだ?

 まさに人の文明の集大成。


「あの、私……! ハイネさんと違って前情報はいただいていたんですが……! それでも驚きを抑えきれません……!」


 僕の隣で唖然とした表情のカレンさんが言う。

 彼女ですらそうなんだから、事前に何も聞かされなかった僕なんか動揺の極地だ。

 ある意味ヨリシロの作戦大成功だ。


「う、うふふ……! お、おどどどろきまし、たたたたか? ハイネさんささささ……!」

「お前まで驚いてるんじゃねーか!?」


 どうしたんですかヨリシロさん!?


「ゲフン。……仕方ないでしょう、わたくしだってこの移動都市を目にするのは初めてなんですから」


 まあ、ヨリシロにもビビったりする可愛いところがあるんだなー、と思わせる罠なのかもしれないが。


 しかし、そう、移動都市。


 ヨリシロはこのタイヤ付きの街をそう評したが、まさにそういうことなんだろう。

 この街がタイヤの上に乗っている目的は。

 風都ルドラステイツは、長らくその所在を不明とされてきた街。

 その理由が、今ひとつ明らかになった。

 この街は常に移動して、一つところに留まらないのだ。そんな街の正確な場所など特定できるはずがない。

 ただ、そんなにまでして街の所在位置を特定させたくない理由は依然としてわからないが。


「街一つを移動させるようにしてまでの徹底した秘密主義。わたくしとしては理解の範疇を超えますわ」


 とヨリシロも呆れ声だった。

 本当に何がやりたいんだろうな、風の教団の人たちは。


「まあ、折角ですので当人に聞いてみるのもいいでしょう」

「え?」

「降りてきますよ」


 ヨリシロが顔を上げて何かに注目しているようなので、僕もつられて彼女の視線を追う。

 その先に見えたのは、あの巨大移動都市の外延部とでも言うべき場所。

 そこにゴンドラのようなものが備え付けられていて、僕たちの耳にまで届く「ガシャン!」という音と共にゴンドラが下がり始めた。

 ワイヤーロープで吊るされていて、途中で落っこちるという不安はなさそうだ。

 適切な速度のまま地上まで降り、ゴンドラの扉が開く。

 そしてその中から五、六人ほどの同じような服装の人――、おそらくは衛兵なのだろう――、が駆け出し左右に並ぶ、そしてその中央から姿を現したのは……。

 毅然とした顔立ちの若い男性だった。


「捕えられぬ風を押し留めたのは、貴様らか?」


 男性は、不愛想な態度のまま、語りだす。


「ご機嫌よろしゅうございます。光の教団教主、ヨリシロと申します」


 それに対しヨリシロは、礼儀に適った優雅な態度で男性に挨拶する。


「風の教団教主、トルドレイド=シバ」


 男性――、シバはそう名乗り、風の教主という肩書きを明らかにした。

 つまり彼が、この移動都市の長というわけか。


「お目にかかれて光栄ですわ。わたくし光の教主に就任してから、これでやっと自分以外のすべての教主様にお目通りできました」


 えー?

 隣でカレンさんも「えー?」って顔していた。

 どんだけ没交渉なの風の教団。


「我ら風の教義では、異教徒との接触を好ましからざるものとしている。余程重大な理由でもなければベルゼ・ブルズを解き、ルドラステイツを止めることなどありえぬ」


 ん?


「光の女神インフレーションの下僕どもよ。古よりの約束を遵守し、我々は本来止まることのない風を止めた。用件を聞こう。もしも下らぬものであれば我が怒りは風を嵐と変えて、貴様らに償いをさせるであろう」


 高圧的な態度だな。

 しかしそんな相手の強硬さに乗ることもなく、優雅なマイペースを崩さない。


「五教主会談用の緊急招集。わたくしも使うのが初めてで、ちゃんと通じるものかとドキドキしてしまいましたわ。しかし思惑通りに行ってよかったです。用件についてですが……。あ、そうそう、カレンさん」

「はい?」

「風の教主様。こちら我が光の教団の勇者でカレンさんと申します。強くて可愛くて我が教団最大の自慢ですのよ。よい機会ですのでご紹介しておきますね」

「ああ、あのっ! よろしくお願いいたしますです!」


 いきなり振られてカレンさんは咄嗟に挨拶するのが精一杯。

 一方、風の教主シバは……。


「…………ッッッッ」


 イラッと来てる!

 用件をはぐらかされてイラッと来てる!

 さすがヨリシロはエレガントに相手の神経逆撫ですることにかけては右に出る者がいない。


「よろしければ、そちらの風の勇者さんもご紹介いただきたいのですが?」

「意味もなく教団の情報を明かすのは、風の掟が好まぬことだ。今回の会談に勇者は必要ない」

「あらあら、風の神様は吝嗇でいらっしゃいますのね」

「何だと……!」


 ヨリシロさん、ヨリシロさん。

 相手を挑発しすぎです。

 ただでさえこの風の教主、冗談が通じなさそうな顔しているのに。


「ちょっと! ちょっと、ちょっと!」


 堪らず飛び出し、二人を宥めようとする僕。

 おかげで風の教主の注意を引いてしまう。


「なんだ、貴様は……!?」

「ああ、あのすみません。僕はただの付き人と言いますか……!?」


 そこでさらにヨリシロが要らんことを言う。


「その方はクロミヤ=ハイネさん。アナタや、アナタの勇者よりも遥かに強い御方です」

「ヨリシロォォォォォォォォッッ!?」


 何故挑発する!?

 何故不用意に挑発する!?


「いいではないですか。用件といっても、どうせ今は話すことができぬのです」

「え?」

「五教主会談は、五人の教主全員が集わなければ始められないのですから」


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