139 サミット
何やらエライことになってきた。
この世界を牛耳る五つの教団――、地水火風光の五大教団、その主たちが一堂に集う?
「それが五教主会談です」
とヨリシロは講義してくれるのだが、出来れば事前に全部教えてほしい。
「五大教団は、この世界に住むすべての人々を統治する者。その責任のため、わたくしたちには様々な義務と権能を背負わされています。必要とあれば法を作り、あるいは武力を率いて戦わねばありません。そんなわたくしたちに許された権限の一つが五教主会談を開くことです」
この世界に未曽有の混乱が起こり、一つ一つの教団の力では対処しきれない場合、教団が相互に意思疎通し、歩調を合わせる必要が出てくる。
そのために開かれるのが五教主会談。
教団のトップである教主が一斉に集い、直接話し合うこと。
「……ということです」
以上、ヨリシロの説明でした。
「五大教団内で取り決められているエーテリアルの兵器利用禁止や、他教団本部での布教活動禁止も五教主会談で決定されたことです。五大教団の教主全員の出席が原則ですので、この時ばかりは風の教団にも出てきていただかなければ困ります」
「だからこそ我々は吹く風を止めたのだ。五大教団としての義理は果たしている」
風の教主シバがぶっきらぼうに言った。
「普段所在不明の風の教団がこちらからの呼びかけに応える唯一の事例です。各教団教主には、五教主会談開催を発令するための秘密の神力信号が伝えられています。それさえ発すれば、何処にいるかわからない風の教団にも知らせが届くという仕組みです」
「そして我らは、信号を受け取ればこの地点までやってくる約束だ。出迎えるのは、神力信号を発した張本人。つまり光の教主よ、今回五教主会談を発議したのは貴様ということだな?」
「左様ですわ、風の教主」
「では、貴様が提唱する教主会議の議題を聞かせてもらおう。先ほどから何度も尋ねている、用件だ」
風の教主シバの声色から、さらに鋭さが加わった。空気にひんやりと刃の冷たさが伝わる。
「議題の内容が、教主五人を揃えて議論すべきほど重要と認められなければ、我々はこのまま風の流れに戻るのみ。これもまた五教主会談システムの発足時に、我が風の教団が他教団に認めさせた特権だ。光の教主ヨリシロ。いい加減そろそろ答えてもらおう。貴様はいかなる用件で、風にたゆたう我々を呼び寄せた?」
その気迫、語調は、「もしつまらない用件だったら、落とし前で斬り殺すぞ」と言わんばかりのものだった。
もはや殺気と言っていい。
そんな殺気を向けられて、僕たちのヨリシロは大丈夫なのか?
カレンさんもハラハラしながら見守るが、当のヨリシロだけは落ち着きを払っていた。
「では率直に申し上げましょう。我ら光の教団は、モンスターを一体残らず地上から消し去ります」
「!?」
その宣言に、さすがの風の教主も顔色を変えた。
「地水火風の他教団の方々には、その協力をお願いしたく存じます。そのための五教主会談です。これより五人の教主が集って話し合うことは、百年近くに渡って人間たちを悩ませてきたモンスターの、終焉の予定表作りです」
「バカな……? バカな……!?」
教主シバの表情は、もはや驚愕に塗り潰されていた。
それほどにモンスター根絶とは、この世界の人々にとって信じがたいことなのだろう。
……しかしですよ。
「ヨリシロさん? ヨリシロさん!?」
僕こそがもっとも慌ててヨリシロに詰め寄った。
「いきなり何を言い出しているんですか。モンスターを消し去るって。まさかあの件を……!?」
「そのまさかですハイネさん。わたくしはマザーモンスターを五大教団の総力を挙げて探索するよう提言するつもりです」
なんと……!?
「ハイネさん、アナタはマザーモンスター討伐をお一人で片付けてしまわれるおつもりですが、わたくしは違う意見を持っています。モンスターは畢竟、すべての人間が直面する問題。だからこそすべての人間が協力し、その上で乗り越えてこそ、人はそれらを経て新しい力を身に付けることができるのです」
さすがは世界を五分する教団の一つを牛耳り、前世では世界最古の都市国家を産み育てた女王は言うことが違った。
時々、神の中で誰より人間を信じ愛してるのはコイツなんじゃないかって、僕は自信がなくなってくる。
「マザー、モンスター、だと? ……まさか」
その一方で風の教主シバは、まだ動揺に打ち震えていた。
「いかがでしょうシバさん。五教主会談の開催、お認め戴きますか?」
ヨリシロがシバに承諾を求める。
そこへ……。
「その必要はないよ」
しわがれた老婆の声が響き渡った。
あの声は……!
「アナタは!?」
いつの間にかすぐ近くに、地の教主の衣をまとった老婆が立っていた。
数人の侍者を引き連れて、その一人に地の勇者ササエちゃんが混じっている。
「ハイネ兄ちゃん! カレン姉ちゃん! ちょっとぶりだす!」
老婆の隣で元気に手を振るササエちゃん。
そうあのお婆さんは、過去直近の騒動グランマウッド戦を機に新たな地の教主に就任した地の勇者ササエちゃんの祖母。
彼女自身も数代前の地の勇者で、しかも『根こそぎシャカルマ』の異名をとるほどに実力実績を兼ね備えていた。
「新しい地の教主様ですね? お初にお目にかかります」
「なになに、こっちも就任して他の教主に挨拶回りせにゃならんとこを、手間省いてくれて助かったさね。……おーおー、光の教団は勇者も教主も別嬪揃いだねえ」
初顔合わせの握手を交わし合う光の地の教主。
その様子に風の教主が色をなす。
「貴様が地の教主? どういうつもりだ!? 五教主会談の取り決めでは、我が風の教団が承認するまで、他教主は足を踏み入れてはならぬと……!」
「五教主会談は開催されるよ」
お婆さんがピシャリと言い放つ。
「たしかに五教主会談では、開催決定の判断は風に委ねられることになってる。でも、さすがにそれ以外すべての教団が開催に賛成すれば関係ないだろうよ。多数決は意思決定の大原則さね」
気づくと、別方向から接近してくる二つの集団の気配がある。
「やれやれ……、他教団の教主方は血の気が多いですな。これは体力を搾られる会談になりそうだ」
水の教団教主、ル=アジュール。
元々は水都ハイドラヴィレッジに君臨する海運業の覇者から水の教団に迎えられたという異色の教主。
商人という前歴を元とする打算的な思考は、教主の立場からも猛威を振るう。
「漢たるもの熱血たれ」
火の教団教主、猿王エンオウ。
業炎闘士団団長から教主に格上げされた生粋の職業戦闘者。多くの闘士をその手で鍛え上げ、火の勇者ミラクもまた彼の直弟子だ。
地水火風光。
五人の教主が今ここに集結した。




