表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/434

111 巨人崩し

「ねえ、これってヤバくない?」


 高速旋回する大質量を目の当たりにして、シルティスちゃんの声が震える。

 私もミラクちゃんも無言なのは、その言葉を肯定するまでもなかったからだ。

 エーテリアル文明から発した科学知識によって、私たちは知っている。

 気体よりも液体の方が重いこと。その液体よりも固体の方が重いこと。

 そして加速をつけた重いもので殴られるのが、もっとも痛いこと。

 地上でもっとも重く、もっとも硬いのが固体。その固体を自在に操るのが地の神力。

 それはある意味、地水火風光の五属性の中で、地属性こそがもっとも凶悪な力ということではないか。

 その脅威が、今まさに私たちの目前にある。


「とにかく動き回れ! 絶対に当たるな! 直撃したら間違いなく死ぬぞ!!」


 ミラクちゃんの檄で、全員弾かれたように走り、散開する。

 それは理性からの行動というより、恐怖に駆られて走り出したようなものだった。


「ムダだす! ムダだす! ムダムダだすだす!! この形態になったオラと『ゴーレム一家』は無敵なんだすだす!!」


 ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶん……!


 振り回す鎖から起こる風は、さながら嵐のようだ。

 その暴風と轟音が、ますます恐怖を助長する。


「クソッ! こうなったら最大出力の『フレイム・バースト』で……!!」

「ダメ! ミラクちゃん!!」


 必殺技のために精神集中に入ろうとしたミラクちゃんを止める。


「『フレイム・バースト』は広範囲を焼き払う殲滅技だよ! そんなの当てたらササエちゃんまで黒焦げになっちゃう!」


 現在ササエちゃんは、『ゴーレムのお父さん』の右腕に掴まって、共に地鎌シーターを握っていた。

 まるでゴーレムの付属部品のようだ。

 恐らくは、あの大鎌が連携の核となって、ササエちゃんが発する地の神力を三体のゴーレムに分配して流し込み、変形させ、変質させ、超パワーを与えている。

 だからササエちゃんは、あの連携を維持するために大鎌を離すことができない。自分自身をゴーレムの一部にしてしまっているんだ。


「ゴーレムは止めなきゃいけないけれど、ササエちゃんを傷つけるのは絶対にダメ! なんとかゴーレムだけ破壊する方法を……!」

「あるの!? そんな都合のいい方法!?」


 三人、悲鳴のような声で議論しあうものの結論は出ない。

 そして私たちの話し合いが終わるのを、向こうが待つ義理もない。


「叩き潰してやるだす! 行けぇーーーッ!」


 拘束回転する鎖分銅――、元々鎖は『ゴーレムのお母さん』で、分銅は『ゴーレムの坊や』が変質したもの。

 分銅なんて可愛い言い方のできるものでは本来ない。その大きさは、人間一人が体育座りで丸まったものよりさらに二回りほど大きい。

 あんなものにぶつかったら人間の体ぐらい簡単にひしゃげる。

 それが落石のように、充分な速度をつけて私たちの頭上から降ってきた。


 ガシンッ!!


 地震と間違うような地響きが、地表との激突で起こった。

 その振動で、離れたところから見ていた光騎士たちがバランスを失い尻もちをつく。

 爆心地は無残だ。土や石が大量に跳ねあがり、それこそ爆発したかのような跡になっている。


「やっただす! 潰しただす! ……潰しちゃっただすか?」


 ササエちゃんはゴーレムの上から、勝利を確信する。

 彼女の視点からは、ゴーレム分銅の下敷きになるまでそこにいた私たちの姿が、たしかに見えたはずだから。


「「『ミラージュ』」」


「……えッ!? ええッ!? なんだすか!? 皆がたくさんいるだす!?」


 その光景に、ササエちゃんは混乱を露わにする。

 それもそうだろう。私とミラクちゃんとシルティスちゃん、その三人が六人にも十二人にも二十四人にもなり、彼女とゴーレムを取り囲んでいるのだから。


 その幻影こそ、私とシルティスちゃんが協力して発動させた複合属性技。光属性と水属性を複合させた『幻』属性は、水で光を屈折させて空間に虚像を作る。

 今ササエちゃんを取り囲んでいるのは、一つを除いてすべて、実体なき幻影なのだ。


「なんだすこの力!? これが外の勇者さんたちの能力なんだすか!? ええい! 片っ端から潰していくだす!」


 ササエちゃんの命令に従ってゴーレムは滅茶苦茶に鎖を振り回し、手近なところから私たちを潰していくが、皆手応えなく空振りする。

 どれもこれも幻影。ササエちゃんは、完全にこちら側の術中にはまっていた。


「ズルいだすよ! 出てくるだす! 正々堂々勝負するだす!」

「わかったよササエちゃん」

「ふぇッ!?」


 彼女が気づいた時にはもう遅い。

 実体ある本物の私は、音もたてず忍び寄り、既にゴーレムの足元にいた。


「『聖光錬刃』!!」


 光の神気で強化された刃が、ゴーレムの足へ向かう。これで足を切断し、身動きをとれなくさせれば……!


「甘いだす!」


 しかし私の光剣を大鎌の刃が防いだ。

 人間の身ならば取り扱いの難しい大鎌でも、ゴーレムの巨体にとっては普通サイズの鎌。ナイフのように扱いやすいだろう。

 鎖鎌というのは、遠心力で威力の増した分銅を遠くへ投げ、それをかわして懐に入った相手を鎌で斬り裂くための武器だという。

 その用途が忠実に守られている。


「手詰まりだすな。このままゴーレムの巨体で押し潰してやるだす!!」


 たしかに、剣を防がれ押し固められた今の状態では逃げることもできない。

 でも、私たちの勝ちだよ。


「ミラクちゃん! シルティスちゃん! 今ッ!!」


 足元にいる私に気を取られて注意が下方に向いている中、高く飛び上った二人が上方から襲い掛かる。


「行くぞシルティス! 一撃必殺だ!!」

「おうよ! アンタと心合せるのはアレだけど。……火と水の複合!」

「「『水蒸気爆破』ッ!!」」


 火の熱で一気に蒸発した水は、凄まじい速さと衝撃で膨張する。

 それこそ爆発として。


 鼻先でそれをブチかまされたゴーレムは、私たちにとっては幸いに、その爆発に耐えることができず、吹き飛ばされた。


「にゃだすぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?」


 ササエちゃんも爆風に苛まれる。

 結局『ゴーレムのお父さん』は、頭部と胴体の上半分、肩までが爆散し、跡形もなくなっていた。残ったのは両腕とお腹から下程度。

 大破であることは素人目からも明らかだ。


「おっしゃー! どうよ!?」

「オレの力をもってすればこんなものだな」


 シルティスちゃんミラクちゃんも見事に会心の一撃を決め終えて、華麗に着地した。


「うぅん……! 何だす? わけわからないだすよ……!?」


 そしてゴーレムの右腕に掴まっていたササエちゃんも、爆発の影響範囲外で大きなケガもなく、目を回しているだけだった。よかった。


「終わりだな。あの連携は、最大型のゴーレムが中心となってすべてを取りまとめていた。ソイツを破壊されれば要を失った扇も同じ」

「ゴーレムとかいうのを操作するアンタの戦い方は、たしかに手強い。しかしその分アンタ自身の実力はそれほどでもないと見たわ。観念なさい。これまで好き放題暴れ多分しっかりお仕置きしてやるから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ