112 土くれより
「ふぇぇ……!?」
勇者三人に取り囲まれ、小動物のようにビクビクのササエちゃん。
「クックック……! どうしてくれようかしらねえ? よそ様の家でこれだけ盛大な迷惑やらかしてくれたんだもの。後々立派な社会人になれるように悪いことしたら、それ相応の報いがある、ってことをお勉強させてやらないとねえ……?」
「おいシルティス。お前今アイドルにあるまじき笑顔しているぞ」
それによその家って。アナタの家でもないですが。
「ちょっと……! シルティスちゃんやめて」
「えー?」
「結果はどうあれ、私の不用意な発言が事態がこじらせてしまったんだから、すべての責任は私にあるわ。だからササエちゃんを責めないであげて……!」
「ぬうッ! さすがカレン。女神のように公明正大な心の持ち主だな!」
ミラクちゃんこと外野が煩かったがこの際無視した。
とにかく事態を収束させてササエちゃんを保護し、神託関連の話を詳しく聞き出そう。
そう思ったのに、何事もスムーズにはいかなかった。
もはや抵抗もないと思われていたササエちゃんがいきなりカサカサカサ! と這うと、取り囲んでいた私たち三人の間を抜け出した。
「あッ!?」「このッ!?」「ちょっと!?」
一瞬の油断だった。ササエちゃんはそのまま半壊した『ゴーレムのお父さん』の足元まで駆け寄る。
「まだ悪足掻きするか!? どうなろうとお前にもう勝ち目はないぞ!」
「やっぱりお仕置きが欲しいの? だったらアタシがアンコールまで付き合ってやるわよ!!」
ミラクちゃんやシルティスちゃんも、治まりかけていた戦いの興奮が再燃する。
ダメだ。せっかく色々収束しかけていたのに……!
「……勝手に勝ち誇ってんじゃねえだす」
「えっ?」
「まだ終わってねえだすよ。オラも、『ゴーレムのお父さん』も!」
ササエちゃんが脚と腹部だけになった巨大ゴーレムに触れた。そして一気に膨大な地の神気が流し込まれたのが、私の勇者としての感覚でわかった。
すると……。
「なにぃッ!?」「何よアレッ!?」
ミラクちゃんやシルティスちゃんの驚きの声と共に、驚くべき現象が起こった。
地面の土や石がひとりでに盛り上がり、下半身だけになったゴーレムへ向けて押し寄せたのだ。
そして土や石は混ざり合いながら形を成し、最後には岩のように硬く固まった。
ゴーレムの上半身の形に。
「まさか……!?」
「復活した……!?」
もはや『ゴーレムのお父さん』は、私たちに破壊される前と寸分たがわず。こう言っていいだろう、死から再生したんだ。
「ゴーレムは、真ん中にあるライフブロックさえ壊されなければ何度でも復活するだす! 周りの土や鉱物を材料にして体を復元するだす! たった一回フッ飛ばしたぐらいで勝った気になるなだすよ! ……そりゃあ、あんな大爆発で、ちょっとビックリしただすが、ほんのちょっぴりだす!」
復活したお父さんは、落ちていた地鎌シーターを広い、そのままだった鎖と分銅を回転させて……。
これで完全に元通りではないか。
「オイ、これは……!」
「ええ、まずいわね……!」
ミラクちゃんシルティスちゃんもわかっている。
この展開、何がまずいかというと、これではササエちゃんを傷つけずに勝利するのはまず不可能ということがわかったからだ。
これまでの戦いでは、私たちはゴーレムさえ破壊すれば場を収められると思っていた。
ササエちゃんを傷つけることなく。
だからこそ私たちは幻影で充分に攪乱した上で、ミラクちゃんとシルティスちゃんも『水蒸気爆破』の規模を最小限に抑え、ササエちゃんへ影響ないようにゴーレムを破壊した。
でもササエちゃんの言うように、ライフブロックなるものが無事な限り何度でも復活するのがゴーレムなら、そのライフブロックが体のどこに隠されているかわからない以上跡形もなく吹き飛ばす以外に倒す方法はない。
そうなったらササエちゃんを無傷のまま保護するなんて限りなく不可能じゃないか。
「…………カレン」
絞り出すようなミラクちゃんの声は、「多少は傷つけるぞ」という確認だろう。
私が頷けば、ミラクちゃんは恐らくゴーレム最大の弱点と言っていいササエちゃんを集中して攻めたてることで、ゴーレムを沈黙させる。
私だって、それが最善ということはわかっている。
私は光の勇者。光の教団に帰依する人、アポロンシティに住む人を守る、それを最優先にしなければならない。
覚悟を決めなければ。そう思っていた矢先のこと……。
「……何事です?」
混乱する訓練場に、鈴のように澄み切った声が鳴り響いた。
この声は……。
「ヨリシロ様!?」
光の教団教主ヨリシロ様。
たしか今日は大聖堂内で会議だと伺っていたのだが、この人にまで騒ぎが伝わってしまったの?
「勇者カレン。これはどういうことです? 厳かなるべき光の大聖堂を、このように騒がせるとは」
ヨリシロ様は、最近私に接してくださる時のような柔らかい口調ではなく、周囲の目を配慮した『仕事モード』で私に問いかけた。
秩序を乱してはならないので、私もそれに合わせる。
「申し訳ありません教主様! ですが危険ですので、ここは一旦お下がりを! 事の仔細は、状況を収束させてから報告いたしますので……!」
あまり騒ぎを大きくしたくないというのが本音で、ヨリシロ様が関わると絶対騒ぎが大きくなると思うのも本音だったが、それは確信を超えた推測だった。
「あれは……」
私の心配虚しく、ヨリシロ様は気づいてしまった。
「……マントルのゴーレム? 何故ここに?」
さすがにヨリシロ様は、あのモンスターをご存知のようだ。
そして一種独特の存在感を放つヨリシロ様に、ササエちゃんの方も気づいたようだ。
「アンタさはどなたさんだすか!? アンタさも邪神の仲間だすか?」
「邪神?」
「オラは地の勇者ササエと言いますだす! 地母神マントル様よりの命で、邪悪なる闇の神エントロピーの化身、クロミヤ=ハイネを討伐に参りますた!!」
「……………………………………なんですって?」
ゾクソクゾクゾクッ……! という寒気が私の背筋を襲った。
しかも寒気は、私以外のその場にいる全員も感じたようで、ミラクちゃんにシルティスちゃん、居合わせた光騎士さん大勢や、ササエちゃんまで真っ青になっている。
「……どうやら地の教主も地母神も、勇者の躾がなっていないようですわね」
「ヨリシロ様」
ヨリシロ様の傍らに、影のように寄り添う女の子。
「私にお任せください」
「いいでしょう。ですが無理はしないように、アナタの体は影から解放されたばかりで、まだ安定していないのですから……」
その人はドラハ。
闇都ヨミノクニから数百年ぶりに帰還した影の勇者。




