第二六話 作戦二
「しっかりしろ!」
麻痺して倒れた冒険者の体を獣人二人が引きずるようにして後退していく。口に状態異常回復のポーションをつっこんでいる。大丈夫だとは思うけど、今はその心配よりもこっちだ。
カースドハーベストアントの戦闘蟻。
でかい。
改めて見るとその大きさがわかる。
体高三メトルを超えている。
牙がついた鎌のような顎。
赤い眼。
でも戦闘蟻一匹だけだ。
こいつを倒せば。
「逃げろ! 撤退だ! 弓隊は村まで走って逃げろ! 他は砦まで退却だ。態勢を整えてから村へ撤退する! 魔法撃て!」
タッガさんが叫んでいた。
その声に俺はロングソードを鞘に納めて、盾を構えなおす。
戦闘蟻に向かって迎撃隊から大きな火の玉が音を立てて跳んで行った。
魔法使いの放ったファイヤーボールだ。
戦闘蟻の胸部に直撃して炎が弾ける。
その巨体がぐらりと揺れた。
「どうだ?!」
爆炎と火の粉が晴れると、そこにはダメージを負った戦闘蟻が見えた。
焼かれた部分が炭化している。
これなら火魔法攻撃で圧していけば倒せるのではないか。
そう思ったのも束の間、炭となった皮膚が剥がれ落ちた。その下には真新しい黒い皮膚があった。
これが、カースドモンスターのリジェネレイトか。
呪われた存在は死ぬまで死なない。
呪活性を繰り返す。
別の魔法使いが呪文を唱えた。
振った杖先から生じた尖った石弾が、マシンガンの用に戦闘蟻に撃ちこまれていく。ストーンバレッツだ。
大人の拳ほどもある高速の礫が、カースドハーベストアントの体を穿っていく。巨体が倒れた。
体殻、肉片が弾け飛ぶ。脚の関節が折れ曲がった。
魔法が止むと、戦闘蟻はダメージを負ってもがいていた。
だが、もう再生が始まっている。
なんてでたらめな怪物だ。
これはあかんやつだ。
とてもじゃないがまともな方法で勝てる相手じゃない。
迎撃隊にいた村人達はダッガさんが撤退を指示した瞬間に、ちゃんと走って逃げている。魔法使いを護っていた冒険者達も、その背を守るようにして砦へ向かっている。そこから隊を組みなおして村に退却する。
一匹でも戦闘蟻が罠から上がってきたら撤退と決めていた。たった一匹でもカースドハーベストアントはまともな方法では敵う相手ではないのだから。
俺以外は。
「リョータ。頼んだぞ」
「効果切れの時に注意だ」
「はい!」
俺の背に触れた二人の魔法使いが、力と敏捷性アップの魔法をかけて走り去る。
「死ぬまで頑張ってはいけないよ」
「はい!」
ダニンさんは体力と抵抗力アップの力だ。
「リョータさんっ」
レイナ、そんな顔しないで。
「はい! 大丈夫だから。作戦通り早く逃げて。ジュシュアっ、レイナを頼む!」
「ああ、任せろ。無茶はするなよ!」
「リョータさん!」
「行って来る!」
レイナの声を後ろに聞きながら俺は駆ける。
カースドハーベストアントの戦闘蟻に向かって。
走りながら俺は叫んだ。
「おっおおおおっ! ドコンジョー見参! 俺ドコンジョぉぉ!」
戦闘蟻がゆっくりと立ち上がった。
やっぱりでかいし、怖い。
数本の槍が刺さったまま再生している巨大な黒い体。
赤い眼がこちらを向いて、ちかちかと明滅をして。
来る。
強い赤光が俺に向かって放たれた。




