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第二二話 偵察

俺はカルドンさんとダニンさんとホー君とニンブル族のチョピヌの五人でパーティを組んで森の中を歩いていた。

陽光は頭上高く茂った木々の葉に遮られて薄暗い。陽光が射さないためか下生えはまばらで歩き易かった。

ただ、森の中はやけに静かでそれが不気味だ。呪われた魔物の存在を恐れて、他の魔物や動物達は逃げ出してしまったのだろうか。


カルドンさんが先頭を歩き、チョピヌと僧侶のダニンさん、そして俺とホー君がその後に続く。

チョピヌの肩には使い魔であり相棒の藍色鷹ラピズが留まっている。

ニンブル族は成人しても人族の大人の半分位の背丈と小柄だが、手先が起用で素早い。若い時にはあちこち旅をする者が多くて、歳を取ると郷に帰るか旅の途中で気に入った場所に戻ってのんびり暮すのだ。レンジャーかシーフになる人が多いのに、チョピヌはなぜか魔法使いだ。


ダニンさんはガデム老と同じく、豊穣の女神の眷属を信仰する四十代の神官だ。

レザーアーマーの上に豊穣の神を現す黄色と緑の短いケープを纏っている。顔立ちはちょっとくたびれたおっさんだが、作物を害する魔物から逃げるわけには行かないと村に残った立派な人だ。

豊穣の女神を奉る僧侶達は、作物の実りを祈り人々の暮らしを守る。細かな戒律を設けて信者に強制することも無いし、いい意味でゆるい人達だ。


ホー君はいつもと違う長槍を担いでいた。

鈍く光る槍先には神聖魔法が付与されている。

急場凌ぎで品質も並だし付与された魔法は強くは無いけど、魔法使いと鍛冶師と老神官ガデムさんの力作だ。あんまりがんばったのでガデムさんはもうちょっとで天に召されてしまうところだった。今はポーションを飲んで寝込んでいる。


畑に設置した大きな落とし穴の底には、この槍のもっと大きな物が設置されている。それには逆棘がついていて刺さると抜けないようになっていた。ぜひとも効果があって欲しいものだ。

神聖魔法付与の武器がどのくらい有効なのか確認と、森の中に仕掛けた罠の再点検しに来たのだが……やはり何もかかっていなかった。

ハーベストアントの習性が残っていて、刈り取られた作物には興味を示さないようだ。神聖魔法付与武器の効果は実戦で試すしかない。習性によって畑に残した麦と人に向かって来るだろうから。


「あの向こうっすか……」

「そうだよ。かれらのテリトリーさ。巣があるんだ」

ホー君の問いにチョピヌが答えた。

俺達は森の縁まで来ていた。

木々の向こう。森の中から見れば明るいはずの外が暗かった。

トーネ集落があった場所にはカースドハーベストアントの巣穴がある。そこから呪いで土地が腐り、瘴気を発していてここまでしか近づけないのだ。


「チョピヌ」

探索中はカルドンさんも口数が少ない。

「あいよ」

チョピヌにはそれだけで通じるらしい。

彼は肩の鷹と視線を合わせる。

ラピズは頷くように首をくっと動かすと飛び立った。器用に梢をすり抜けて空へ上がって行く。やがてチョピヌはもごもごと何か唱えてから目を閉じた。


「……やっぱり瘴気で地表がよく見えないよ……周囲の土地も黒く爛れてしまって……ん、戦闘蟻が2匹。瘴気の外にいる……運搬蟻たちもうろうろしているな……そろそろかもしれない」

彼は使い魔であるラピズとリンクして上空から地表を見ているのだ。

そろそろ、とは活動が活発になり、次の収穫物か得物を求めるだろうという意味。つまり、エリネルト村へ向けて進撃してくるってことだ。

俺はぶるっと震えた。



「あの、カルドンさん。どうして村に残ったんすか?」

偵察からの帰り道。暗い森を後にして強い日差しの下、罠の部分を残して丸坊主になってしまった農地を歩きながら、ホー君が突然カルドンさんに話しかけた。いいぞ、ホー君俺も聞きたかった!

「ああ? なんだよ、どうでもいいだろ」

「そうなんすけど。気になったっす」

ロデックさんが冒険者の頭かなと思ったら既に逃げていて、とっくに村を去っていそうだったカルドンさんが残った。しかも偵察やら危険な前線で働いている。

「どうでもいいだろ」

カルドンさんはぶすっとしている。

「教えてくれてもいいじゃないっすかー」

ホー君はロデックさんを推薦していたし、カルドンさんが残っていた理由が余計に気になるのだろう。

「僕も気になるなー。ラピズもだよねー」

ラピズとはチョピヌの使い魔の藍色鷹の名だ。

肩に止まっているが視線がカルドンさんに向いているので、答えを待っているようにも見える。

「わたしも興味が有りますな」

ダニンさんもふんふんと頷いている。

「俺も気になって仕方ないです」

俺の言葉にそうだそうだと皆が続く。ラピズも一声上げたからたぶん彼も気になっているのだ。


四人と一羽にせかされてカルドンさんは困った顔をしていた。普段の面倒くさそうな顔との違いが少しわかってきたぞ。

「うるせえなあ……あー、それじゃ、全部終わったら話してやるよ」

俺達のプレッシャーに根負けしたのかカルドンさんが言った。

いや、作戦前に知りたかったんですけど。

「それじゃあ、勝って理由を聞くっすよ」

「しょうがないなあ。ねえ、ラピズ」

カルドンさんはぶつぶついいながら先を歩いていく。

戦いが終わったら?!

これは昨日の朝に俺が危くしそうになった「戦いが終わったら〇〇するんだ系のセリフを言うとヤバイ」じゃないですか!

俺は不安になった。

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