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第二一話 手紙

呪災害魔獣と戦う作戦を決めた後、俺は準備に時間を費やした。レイナとジョシュアは助言を求められて作戦本部に詰めている。夕方に宿屋へ戻るまで別行動だった。


「おかえりレイナ」

「ただいま。リョータさん」

先に戻ったので部屋で一息ついていると、レイナが帰って来た。

「おつかれさま。夕食食べに行こうよ。おなか空いた~」

残った人達からお金は取れないということで、今日から食べ放題無料なのだ。

レイナは頷いたものの下を向いて立ったままだ。

「どうしたのレイナ?」

「……リョータさん。今からでも間に合う。あなただけでも避難を」

俺は首を振った。

「ジョショアに私が頼むから。そうすれば森を抜けて行ける」

それにも首を振る。

「どうしても残るの?」

それには肯首する。

「リョータさん。わたしの我侭にあなたを――」

「それでもだよ。だって、将来を誓ったパートナーでしょ」

レイナは一瞬嬉しそうな顔をしたが、やはり心苦しいのかまた沈んだ表情に戻ってしまう。

「あの。一個だけお願い聞いてくれる?」

「お願い? ええ。なんでもする」

ななななんでもですか、おおお、あんなことやこんなことまでしたい。だがしかし。ここは。

「手紙。読んであげてよ」

「え。リリアからの手紙を?」

俺は頷いた。

「手紙が帰国を促す内容だったら困るなあって思ってたけど。でも、大事なお友達からの言葉だもの。状況ががらっと変っちゃったでしょ。その……読める時に読んでおいた方がいいと思うんだ。一緒に戦ってくれるジュシュアも任務を果せるしさ」

「……リョータさん。いいの?」

「うん。どうぞ読んでください。食後に俺はしばらく外で鍛錬して時間を潰すから、部屋でゆっくり読めばいいよ。だから、はい」

レイナに手紙を差し出す。

「リョータさん……ありがとう」

手紙を受取るとレイナは少し潤んだ目で言った。


夕食時にジョシュアへ手紙のことを告げると、ふうと息を吐いてから俺に向き直った。

「ありがとう。やっと使命が果せた。団長は意地っ張りだから、もはや諦めていた……これに比べればカースドモンスターを倒すことなど容易いものだ」

「そうだね。よくわかるよ」

そう冗談を言って俺達は笑った。

「リョータさん! ジョシュアも!」

俺がうんうんと頷いているとレイナが顔を赤くして抗議してきた。

そこに周囲の冒険者達が「カースドモンスターを倒す方が簡単だなんて随分と豪儀な話だぜ」「うひょー。呪災害魔獣より怖いって!」「そんな人が立てた策だ。こりゃ安心だな。わはは」などと言い出して、ずいぶんと賑やかな夕食になった。


食後は宿屋の裏でステータスウィンドウを使った訓練だ。

俺の大事な武器だもんな。

今頃レイナは手紙を読んでいる。

きっと帰国を望むと書かれているのだろう。レイナに里心がついちゃう心配はあるけど、読ませてあげたかったんだ。それにレイナは帰らないって信じてるし!

「よし……こんな感じかな」

俺は長い修練の後、ステータスウィンドウを消すとレイナの居る部屋に戻った。

ノックをしてから部屋に入ると、レイナはすっきりした顔をしていた。

「ゆっくり読めた?」

「ええ。ありがとうリョータさん」

「そう、良かった」

俺に義理立てして読まないといってたけれど、やはり気になっていたのだろう。

やはりこれでよかったんだと俺は思った。

だが内容がめちゃくちゃ気になる!

しかし手紙だ。レイナ宛の私信である。

何が書いてあったのか知りたいが、いくら親しい間柄でもプライベートな部分だからな。彼女のスマホの中を見しちゃいけないようなものか。ここにはスマホは存在しないけど。

「はい。どうぞ、読んで」

そう思っていたらレイナが手紙を差し出してきた。

「え?」

「気になるでしょう?」

「そ、そんなわけありますが」

「はい」

レイナは笑ってどうぞと俺の手に手紙を握らせた。


読ませてもらってまず思ったのは「さすがレイナの親友だ」だった。

手紙には帰国を促がす言葉が一切無かった。

むしろ帰国せずに新しい幸せな人生を、と書かれていた。

かつての交誼へ感謝と、事件の時に力及ばなかったこと、果せなかった約束の深い謝罪があった。そして政変後も国を変えようと奮闘していること。レイナには遠い異国で新しい生活と幸せを祈ると綴られていた。

「レイナの親友は立派な人だね」

俺はそう言うのが精一杯だった。

「ええ。最高の友だわ」

微笑んだレイナの表情は落ち着いていた。

くぅ。俺もそういえる友が欲しいぜ……



次の日の朝、朝食をレイナと取っているとホー君が迎えに来た。

「そろそろ行くっすよ」

俺達はこれから森に行く。

数日かけてすっかり太陽麦が無くなってしまった畑の向こう、東の森へ偵察に行くんだ。

「わかった。じゃあレイナ、行って来るねって、ほらほらそんな顔しないで」

俺はレイナの頬にそっと触れる。

「無事で帰って来て」

力強い時も冷静な時も好きだが、このちょっと潤んだ紫の瞳も俺は好きだ。ああ、どんな時でも好きだっ。


「うん、」

この作戦が終わってアンファングに帰ったら結婚しようと言おうとして、あっぶねー、帰ったら何々しようって約束言うと死んじゃうフラグが立つんだよね!

言わずに止まったからセーフ!

しかも、もし「うん、こ」で止まってたら最悪だったじゃあないですか。

二重の意味で危なかったぜ。

「行ってきます」

だから俺はツイてる。ぜったいぜったい大丈夫だ。

俺は自分へ言い聞かせて、レイナから身を離した。

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