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第十九話 深夜の葛藤

窓から見える夜空には双子の月と星々が輝いている。

明日はエリネルトから村人の避難護衛で出て行く――筈だった。

ベッドを見ればレイナは眠っている。

流れるような紫の髪。

整った顔立ち。

寝ている時は穏やかなのになあ。


あれから激しい言い合いになった。

レイナは何度も俺にごめんなさいと言った。

戦いに参加したいと言った。

俺だってハルデンさんやビント君を助けたいとは思う。

キノさんのことも心配だ。

でも、相手が悪すぎる。

到底かなう魔物じゃない。撤退する前に、死ぬかもしれない。

けれどレイナは村と村人を守る戦いをしたいのだ。

ふざけるなって俺は怒鳴った。

ジョシュアが言ったようにここは君の国じゃない。領地じゃない。君の守るべき領民はいない。君は騎士じゃないんだ。

レイナはそれでも、仕える君主が居なくても、仕える国が無くとも、私は人を守る騎士でいたいと。綺麗な紫の瞳でまっすぐ俺を見て、すまない、どうか戦わせて欲しいと言った。


誰の為に避難するって決めたと思ってるんだって言ったら、そんなこと頼んで無いと言われて大喧嘩になりました。その後は一八禁的な盛り上がりを迎え、レイナは眠り、俺は賢者タイムに葛藤している。

喧嘩するほど仲がいいってこういうことだったのだろうか?

いや、そんなこと考えている場合ではないぞ。

呪災害魔獣は再生能力持ちの上にデスレイ。死眼攻撃がある。

邪眼攻撃ならば魔物の眼を見ないようにして戦えばいいけれど、死眼は呪いの一つだから視線を外していても効果が発生するんだと。

なんて恐ろしい反則技だ。

犠牲になった冒険者達はこの攻撃にやられた。

抵抗力を上げる魔法をかけていても麻痺したら行動に障害が出るし、体にダメージは残る。酷く麻痺したら、そのまま心臓が止まってしまう。


もしレイナが騎士のままであれば、ジョシュアと同じ選択をしたのだろうか。

税を納める自国の領民を護るのが騎士の勤めなのだから。

いや、きっと彼女は同じようにしただろう。

「きみは心が騎士なのか」

俺は彼女の寝顔に呟いてみる。


言ったそばから恥ずかしさでのたうちまわれるくらいの即黒歴史化決定なセリフである。

夜明け前の窓辺でそんなことを言うなど自分で言うのもなんだが、かなりいい感じに厨ニングされているのではないだろうか。

しかし、実際に生死をかけた戦いか避難かを悩んでいるとそんなことも言ってしまいたい心境だ。というか、あの時どうしてあんな変なことしたんだろう言ったんだろうって思えないような何事も無い人生では、面白みがないのかも。


俺はレイナの寝姿を眺める。

俺の嫁は姫騎士だZeee! 貴族子女Daaa! とはしゃいでいたが、正直扱い辛い部分もある。小説に出てくるようなヒロインとは全然違うし、二次元じゃない女性はかくも大変なものだとは! 寝顔は可愛いのにね!


でも。俺が避難を決めたのはレイナのためだって言ったけど、よく考えたらそうじゃなかったな。もちろん彼女を危険な目にあわせたくないというのが一番だけど、正しくは俺が「ギルドから非難護衛の依頼出た。そんな凄い魔物の相手は無理だからそうしよう」って思っただけで、冒険者として魔物と戦うことなど全く考えてなかった。

冒険者ギルドに所属したのも元はと言えば通行手形代わりにギルド証が欲しかったからだ。異世界召喚魔術の手がかりを探す為に冒険者登録をしただけだった。


レイナは俺とは違う。

故国で苦い経験をしてアンファングに来た。始めは上手くいかなかったけど、冒険者として強くなることが人々の為になり感謝されるのだと知って生きることに迷いがなくなった。

人のため弱者のために戦うのが彼女の騎士道なのだろう。

俺はそんなまっすぐなレイナが大好きだ。

あの力強くきらめく紫の瞳が凄い好きだ。

ここで何もせずに避難してしまえば、レイナがレイナじゃなくなってしまう気がする。

かといって闘うのは無謀。

それでも。

彼女が騎士として戦うならば、無事にアンファングに帰すと決めたんだから。少しは冒険者として戦う方法を考えてみよう。

どうやったら勝てるんだ。

……うーん。


ということで俺はレイナのベッドにもぐりこんで抱きしめて目を閉じた。

次話より投稿時間が昼~夕方になる予定です。

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