第七話 手紙
「そんただわけで、おら達は用水路の魔物を撃退することができたってぇわげなんだ」
俺が護衛担当している馬車の御者台から、農夫ハルデンさんが話しかけてくる。
「そうですね。大変でしたねー」
俺とレイナはベレンナム領の町「ジュラーハ」の冒険者ギルドで受けた依頼で、他の冒険者十数名と数台の馬車を護衛をしていた。
ジュラーハの町から馬車で十日ほど離れたルト山麓に位置するエリネルト村は、一五年前に開拓が始まった。
開拓村というとゾラさんの開拓農士を思い出してしまうけれど、エリネルトは強制ではなくて領主の許可と支援の下、自主的に人々が集まって営んでいる。
もちろん開墾は困難であるし、魔物の脅威も大きい。
主な産業は農作物と近くの山から取れる木材や鉱石類、魔物の素材だ。
エリネルト村は始めは三〇軒の集落だったが、来年には人口が千人を超えるだろうと言われている。数々の困難を乗り越えて土地や村の整備を続けて、ここまで大きくなった。
村と町の定義は俺にはよくわからないけど、今まで立ち寄ってきた町村を考えると農業以外の産業を持ち、それだけ人口が増えれば町と言ってもいいのではないだろうか。何より冒険者ギルドの出張所が開設される予定なのだ。それだけ発展が見込まれているのだろう。
ならば、あの村には村人から町民にランクアップを控えた人々がいるわけだ。例えるなら、努力と苦難の末に冒険者として認められるCランクになった俺のような人々が!
なんてええ話なんや。
村人さんたちマジ頑張ったよ。
俺が言うのも僭越だけどさ。
開墾はあれだけ大変だったんだもの、魔物の襲撃も酷かったし、よう頑張ったよ。
ところで何故俺が行ったことも無いエリネルト村に詳しいかというと、ハルデンさんのお陰である。
村から選ばれて参加した彼はジュラーハで積荷の売買に立ち会った以外は、道中ではほとんど何もすることが無い。なれない役目に緊張しているのを和らげたいのか、あれこれと村について語ってくれたわけだ。
おかげで着く前に村についてはおなかいっぱいな気分である。げんなりすることもあったが、ハルデンさんが緊張しているのは仕方ない。この馬車隊がエリネルト村とジュラーハを往復する定期便の試験運行だからだ。
移動市が行き来できる場所ではないが、村として大きくなってきたので定期便で物資の運搬をする。その護衛に冒険者を雇うのだ。
村には奥地の探検や魔物討伐や素材採取に冒険者が集まるようになっているので、これを期に冒険者ギルド出張所を作る計画だ。人や物資が定期往復すれば、エリネルトはさらに発展して行くだろう。
苦労して作り上げた自分達の村だもんな。ハルデンさんの気持ちもわかる。
それに。おんなじ話を繰り返しそうになる前に、こっちから話題を振ることで新しい知識を得ることも、少しはできるようになった。
これはアンファグの早朝の公園で最近覚えた技である。
繰り返されるホントだか嘘だかわからない老人達の冒険譚にこっちから適切なツッコミ、じゃなくて質問などをすることで俺は話を進めることに成功したのだ! 成功率はごく稀だけど……
それによって得たのは、やはり本当かなと疑問に思う内容だったが、まさかあの砂漠の不死王がそんなことになるとは……
冒険者の町の老人達はやはり侮れないと衝撃を受けたもんだ。
そんなこんなで俺がなんとなくイメージしている「冒険者引退後の生活」には家庭菜園はかなせない気がして、ハルデンさんに農業について聞いているわけだ。
もちろん魔物もばんばん倒している。主にレイナと他の冒険者さんが。
だからこの道中も今までの護衛依頼と変らない、といいたいがハルデンさんの自慢話以上に俺の精神力を削るものがある。
荷台に剣をかかえて座っている騎士ジョシュアである。
日よけのフードの下の瞳は静かだが、時折俺に向ける視線は冷たい。
レイナが手紙を受取ることを拒否したため、なんと彼はこの依頼についてきたのである。もちろん俺は反対したが、彼はギルドへエリネルトまで行く護衛依頼を出していた。彼は少しだけ神聖魔法が使えるし、有事には自ら戦うという条件もつけた。
定期便を運行すれば同行を依頼する者も出てくるし、ギルドにすれば良い客である。荷馬車に乗せるだけで金になる、戦力としても騎士ならば期待できるというのであっさり受けてしまった。実際に魔物を相手にしたジョシュアの剣の腕は相当なものだったけどね。
彼の随行のお陰でレイナは気分良く護衛依頼をしているとは言い難く、俺も複雑な気持ちのままの道中だ。
唯一の救いはレイナが国には帰らないとはっきり宣言してくれたこと。
件の手紙の差出人は、共に国を護り良くしていこうと誓った幼馴染で親友のリリアさん。彼女は大貴族の令嬢で国の上級官僚だったそうだ。
レイナの出身王国では能力がある者の登用については比較的理解があるが、女性が上位職につくのはまだまだ少ないそうだ。女性がもっと活躍できる国にしよう、国をもっと良くするために努力しようと二人は誓い合ったそうだ。
でもなあ。レイナの性格は政治には向いてないと思うんだけど。たぶんそういうのはリリアさんに任せっきりだったのでは?
率直にそう言ったら、「どうせ私は猪突猛進のドア破りの騎士だもの」と拗ねてしまったので、あれこれと御機嫌をとっていたら。
「そう。リョータさんのいうとおりだわ。私は友リリアのために働いていただけ。今考えれば、私を騎士団長にしたのは敵対派閥がわたしの失策を狙ってのことかもしれない。あの頃は視野も狭かった。責務を果たすこともできなかった」と、少し寂しげに笑った。
結局レイナは軍事行動の失敗の責任を取って騎士団長を辞任した。リリアさんは手を尽したそうだが、力及ばずにレイナは国を出た。
俺は心中複雑だ。
レイナが可哀想だ。
共に目標に向かって頑張ってきた親友からの手紙。
レイナも読みたいだろう。
でも、そこはきっとレイナに戻ってきて欲しいと綴られているのだろう。
読ませてあげたい気持ちと、読んで心が揺らいだらどうしようと思う心。
レイナを信じるべきだとは思ってる。
いかん。
護衛依頼中は集中しないと。
あるいは、護衛依頼でも緊張しなくなったのは、俺が慣れたからなのかな。
そんなことを想いながら俺はハルデンさんの話に相槌をうちつつ歩き続けた。
もう開拓苦労話はいいですよう……




