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第四話 あれ。俺、こういうの見たことあるわー

そんな上機嫌なレイナと俺はジュラーハの冒険者ギルド館に入ると、さっそく素材の買取カウンターへ向かった。

素材は鮮度が命ですからな!

ところが買取カウンターでは、台の上に置かれた植物を挟んでギルド員と青年が何やら揉めていた。

その藍色の髪をした青年は軽鎧に盾と剣の装備だが、それらに統一感があるので冒険者というよりも衛兵や騎士のようにも見える。冒険者ギルドには冒険者以外が素材を持ち込むこともあるけれど、その彼は買取額が不当に安いと主張していた。ギルドの担当者は相場よりも高いくらいだと怒鳴り返している。


聞こえているやりとりから解ったのは、青年は冒険者では無いが珍しい夜月花を入手したので持ち込んだ。夜月草は真夜中の月光に金色がかった花を開く薬草だ。精神を鎮めるポーションの原料になる。だが、持ち込まれた物は根っこが千切れていた。夜月花の薬効成分は根に多く含まれるので、あれでは高額にはならない。なんてもったいない無い。

ギルド員がなぜこの状態ではダメなのか詳しく説明して、青年が冷静に話を聞けば理解できると思うんだけど、冒険者じゃないからか話がこじれてしまっている。異世界の皆さん、カルシウムを取ろうよ……


ところで。

うん。俺。こういうの前に見たことあるわー。

今俺の横におる人が、ああいうのしてはったわー。

「ねえ、なんだか懐かしいな。レイナが素材採取の講習をする前に……」

決して嫌味で言ったのではない。今となっては二人の楽しい思い出みたいな感じで言ったんだけど。

「……」

レイナは応えずに青年を凝視していた。

なんだろう。改めてあの時の自分行動を思い出してるのか。

そんな深刻な顔しなくてもいいのに。

確かに恥ずかしい過去やもしれん。

しかし人は時に過去の自分を自ら笑うことで、きっと前に進めるのだ!

そうじゃなかったら、ドア蹴破られてアレを見られた俺はどうなるんだよぉぉぉ。あなたが当事者なんだけどぉぉぉ。


「……あの。皮肉とかではなくて、レイナと仲良くなるきっかけにもなったから、俺は、むしろ感謝してて、懐かしくて」

後に俺の採取講座を受けて素晴らしい冒険者へと成長したレイナを、俺よりも高額の査定を勝ち取ったあの時のことを、俺は忘れない!

こっそりと「レイナ買い取りカウンターへカウンターアタック」と呼んでいるくらいなんだぞ。邦題にするなら「レイナの逆襲」だ、と。

その前には俺が襲撃されたいたけれども。

とにかく素敵な思い出である。

「あの青年に説明してくるよ。第三者である俺から説明したらさ、落ち着くかもしれない。相互理解が大事なんだよ、きっと」

ところがレイナは俺の腕を取り、無言で止めた。

「レイナ?」

しかし、彼女はそいつの背中を見つめているままだった。

な、なんだよいったい。

もしや、同じくギルドでの買い取りに恥ずかしい過去を持つ身として、ここで解決してしまえば余計にレイナの愚かしさが際立つから放置したい――なんてことはないよな。レイナに限って。

俺は信じてるからね!

じゃあなんでだ。

もしや生き別れた弟とか……は無いな。弟は居ないって言ってたし。

げ、まさか。元カレってやつなのか?!


どどどどどうしよう。

デートスポットでもない冒険者ギルドでまさかのエンカウントなのか?!

ああ、冒険者同士なら再会もギルドで当然か?!

困ったぞ。

おまえが今の彼氏かよ、とか絡まれたらどうしよう。

あ、俺って今彼だあ、えへへ。

って喜んでいる場合じゃあない。

こんなに美人のレイナが振られるなんてことは無いだろう。ということは振られた元彼は恨んでいるかもしれない。もしもレイナに乱暴な口を聞いたら、今は俺の彼女なんだ。全力で戦うぞ。

昔のことなんて関係ないぜ。

俺とレイナはお互いに初めて付き合った異性ということで、深く結ばれてんだからな!

……って、そうでした。

付き合ったこと無いんだから元カレってのは無い。

ふう。

あれ、じゃああの青年はいったい誰なんだ?


「……すまない、リョータさん。素材の買取は後にして、ここを出よう」

俺が悩んでいるとレイナが小さな声で言ってきた。まるであの青年に見つけられたくないかのように。

「うん。わかった」

何か事情があるのは間違いない。

俺とレイナは回れ右をしようとしたが――


「おい、ギルド員。難癖つけるヤツなんて珍しくねえだろが、落ち着けや。成分が溜まる根が無いんじゃ半値がいいところだって、ちゃんと説明しろよ。そこの騎士さんよ、冒険者ギルドじゃなくて町の薬屋へ持ちこめよ、同じこと言われてもっと安く買い取られっからよ。とにかく時間の無駄だ。早くすませてくれ」

後ろの人から声が上がった。そして。

「それからおまえは買い取り待ってんのか野次馬なのかどっちなんだ。いちゃついてるだけで、買取希望じゃねえならそこどいてくれよ」

と後ろの人に言われた。


なんと背後の第三者が的確に指摘して、そして俺に絡んできたー。

ギルドで絡まれるのは定番とは思うが、なぜ今、俺なんだ。

しかも前を警戒していたら後ろの人からとは!


とりあえず謝って穏便にと思いながら振り返ると知った顔が居た。

「えっ?! カルドンさん?」

「おう」

カルドンさんが仏頂面で魔物の討伐証明部位を入れる袋を持って立っていた。

「すいません、なるべく早く済まします」

って、そういう問題じゃないや。

買取カウンターを見れば、ギルド員も青年も声を発したカルドンさんへ視線を注いでいるわけで。

当然、すぐ前に居る俺達も見えるわけで。

レイナは顔をそむけているが、そんなことでは隠しようも無いわで。


青年が突然、おお、おお、と声を上げてこちらにやってきた。

レイナ、これは無理だ。ごまかせません。

だってあれは明らかに探してた人を発見しましたっていう顔です。

ちなみにけっこうイケメンですわ、この青年。

だが、負けぬぞ。

キサマはいったいどこの何者だ!

青年は喜びに顔を輝かせてレイナに言った。

「探しましたぞ団長殿!」

えっ、ダンチョウ?

あっ、そういう蝶ではなく。

団長……もしかして騎士団長ってこと?!

レイナさん、あなたいったいどこの何者ですか!

騎士団に居たって言ってたけど、騎士団長だったの?!


「……ジョシュア。久しぶりですね」

そう応えたレイナの表情は固いままだった。

「はい。やっとお会いできました」

青年は左胸に拳をあてて見事なお辞儀をした。たぶん騎士の礼法なんだろう。

「私を探していたとは?」

レイナって騎士団を辞めて国を出たって聞いてたけど。

「はい、それは――」

その時、再び後ろから声が響いた。


「あのよう。長くなるなら俺が先に買取してもらっていいよな」

カルドンさん。

あんたブレないなあ。

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