第4話 上位鑑定 前編
1回30万エルドというぼったくりな値段で上位鑑定魔法をしてもらった俺は、
果たしてこの30万エルドには意味があったのだろうかと苦悩していた。
今、俺は魔法ギルドの一室でに居る。
俺の前にはステ盾。
そして二人の魔法使いがいる。虫眼鏡を持ったパルセルと老魔法使いだ。
彼らは鑑定結果を告げると黙り込んでしまった。
俺も何と言っていいのか苦慮している。
上位鑑定魔法の結果が、予想外に解りにくかったのだ。
鑑定前は「くくく。ついに、やっと、ようやく、今度こそ、俺の潜在能力に世界が震撼するのだ! そうだといいな! ああ、半ば諦めているさ!」と思っていたけど、結果はまたしても違ったはいはい、もう慣れっこですわだった。
しかしだ。なんなんだこの鑑定結果は。
パルセルと魔法使いのおじいさんが虫眼鏡のような魔道具を覗き込みながら言ったのは。
「品質不明……耐久力超級……虚無と存在の力を持つ……実在と無の両方を持つ?……物質であり物質ではない。絶対存在力。人技では破壊不可。対象者のみ消滅可か?……不完全鑑定力……材質不明だが……神互換導体反応有り?!」
だった。
「あの……鑑定っていつもこんな感じなの?」
俺はようやく言葉を発した。
上位鑑定って、こんな風に解り難いの?!
あれか。その魔道具「鑑定魔法の虫眼鏡」はどっかの神様の解り難い神託が降りるようになっとるだけなのか。
パルセルはうーんと唸った後に言った。
「いや。普通はもっと解り易く結果が出るんだ。例えば実験で使った魔法剣ならば剣としての品質高。材質はミスリル。耐久力高。切れ味増加、重量軽減魔法付与と出る。他にも魔道具のベルだと範囲消音効果とか、呪文を唱えながら鳴らすと対になっている封印を解く、とかな。俺もこんな結果は初めてみた。鑑定の文言自体が判別し難いなんて」
パルセルが説明してくれる。
なるほど。そういえばゾラさんと話した隠れ家みたいなバーには、そういう消音ベルがあったっけ。
「わしもだ」
鑑定師のおじいさんは大きく息を吐いてから言った。
「わしもこのような結果は始めてだ。この鑑定の魔道具でも不明ということは、これが稀な物品なのは間違いない。おぬし、えらい物をもっておるなあ……」
そうか俺は極レアアイテム持ちなんだ良かったね!
って、おい、そんな言葉ですます気かーい!
「パルセル。なんとかならないかなぁ」
俺は困り果てた。
30万エルドですよ!
どんだけ串焼き買えると思ってるんですか!
冒険者ブーツ買えちゃうんですよ!
「うーん。検証ですでに物理的にも対魔法にも最上位の耐久力を持っているのはわかってたから。あくまでリョータが安心するならと鑑定を薦めたんだが……」
パルセルがすまなそうに言う。
「あ、えーと……さっきの文章の意味を、出来るだけ詳しく説明して欲しいんだ。俺には言葉の意味すらわからなくて」
するとパルセルと老魔法使いは何やら議論しだした。
不明な専門用語が多かったので、俺はそれを見守るだけだ。
俺は内心。やべえ、どんだけ時間かかるんだろう。魔法ギルドに行くんだって言ってあるけど、あまり長いとレイナにどこに行ってたのか怒られるか泣かれるのではないかと焦りを感じていた。一緒に来てもらった方が良かったかもしれない。
二人の魔法使いの協議の結果。
神器と呼ばれるレア物品が超級と鑑定されるので、耐久力が尋常じゃないのがあまずは保証された。よかった。
しかしそれ以外の説明がなあ……
虚無と存在の力を持っていて、実在と無の両方を持つようだ。だから透明になったり実体を持ったり消えたりするらしい。
物質であり非物質である。絶対存在力があって高い防御力を持っている。
俺の意志で出たり消えたりするし。魔法も物理攻撃も大丈夫だった。
神互換導体反応とは。古代の宝物や魔道具に時折現れる反応だが、現代ではまず作成不可能なので、魔法ギルドでも長年研究されている謎だそうだ。
ステータスウィンドウ自体が、鑑定の力を持っているらしい。それが俺の筋力とか魔力とかを数字化しているのだろう。もちろん俺にしか見えない表示にはしてるけど。表示項目が少なく鑑定の深度と精度にかけるから不完全な鑑定の力ということだろう。
破壊ではなく、存在するか消滅するかだと。謎だ。パルセルが言うには、おそらくそれは完全なる存在は無と同じだからだそうだ。
はっきり言おう。
「……まったくわからんわ!」
いつから魔法は哲学になったんじゃい。
するとパルセルがものすごく端折った説明をしてくれた。
耐久力超級で。人の力では破壊できません。無というのは壊れようがないから。だからこのステータスウィンドウはとてつもなく頑丈です。古代に魔法で作られた魔道防具並みに硬くて壊れることが無いそうだ。
そんな力が俺に、何故?!
くっ。理解を超えてるぜ。
これ以上の鑑定は無理で、伝説級の魔道士や神託や神査ができる高位司祭の方が解るかもしれないと。でも、それで「こいつは異世界人だひっとらえろ」になったら困る。
それにだ。
異世界に来た時はチートクレクレだった俺だが、予想外に力を秘めているようで不安になる。
でも――
「リョータ」
パルセルが心配そうに俺を見ていた。
「大丈夫だ、パルセル」
俺は明るく言った。
このステータスウィンドウを切り札にしようと決めたのだから。
「とにかくこれ以上は知る方法はないってことだよね」
それがハッキリしたんだ。
前向きに考えていこう。
「すまんのう。何か手がかりを思いついたらパルセル経由で伝えよう」
鑑定師のお爺さんが申し訳無さ気に言う。
「俺も。何かわかったら説明するよ」
俺は慌てて言った。
「そういう意味じゃなくて。耐久力は保証されたんだもの。これ以上無い最高の鑑定をしての結果なのだから。それで良いよ。全力を尽してくれたんだ。感謝してる。ありがとうございます」
二人は気にしているようだったけど、いつまでも悩んでいても仕方が無い。
このステ盾が今の俺にとって有益な防具であることは間違いない。
そしてこないだパルセルがくれた助言が、俺にはとてもありがたかった。
不安は不安で置いておけ。せっかく得たものなら使いこなせるように。そして突然無くなってもいいように備えて。このステ盾を上手く使うことだ。
剣と同じく鍛錬して、普通の盾も練習は続けとこう。
「ふっ……ネバーブレイクシールドとでも名付けるか」
俺が冗談で言うと。
「それよりアンブレイカブルアストラルメタルシールドというのはどうだ?」
とパルセルが目を輝かせて聞いてくる。
「長いわっ。それに冗談だから」
とツッコミは入れておいた。
「やっぱりわしはドコンジョー盾の方がええかのう」
「あんたもかい! これ極秘の鑑定依頼だからね!」
どいつもこいつもまったく。
パルセルからの「俺の考えた伝説のアストラルメタルについての設定を語り合おうぜ」という居酒屋への誘いを「ご、ごめっ。か、彼女が待ってるからっ」っと断り、冷やかされながら、俺は魔法ギルドを出た。
愛しのレイナの待つ家路に着く。
アンファングの町は、俺にとってもう慣れた風景。
「上位攻撃魔法も弾くが上位鑑定魔法も弾く、ど根性盾のジョーかあ」
その名前の由来となった依頼を思い出しながら、俺は一人呟いた。
俺の盾がすごい耐久力を持っていることが、実証された依頼を。




