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第2話 ステ盾の実験 前編

「リョータ。予定通りやるんだな?」

ああ、帰ってからな、レイナとだ。わーい。

と俺は内心呟く。

ここは魔法ギルドの研究施設だ。

周囲を高い壁に囲まれている運動場のような場所で、今から魔法ギルドのパルセルに依頼した最後の魔法実験が始まる。

ここからは真面目にやろう。

やる。

帰ったらやろう。レイナとだ。わー……うーん。びびってしまって思考が逃げている。

えいっ。俺はぺしぺしと自分の両頬を叩いた。

「おしっ。これが最終のテストだ。パルセルよろしく」

数回に及んだ実証実験もついに最終回だ。


「わかった。今日は予告通り、取って置きのヤツを用意したぜ」

彼は手にしたスクロールを宙に放り投げてくるくると回した。

取って置きってなんだろう。準備に日数がかかるとは言ってたけど。

パルセルは落ちてきたそれをぱしっと掴むとにやりとして告げた。

「ファイアブレスの呪文を用意した」


ふァッ、ファイアブレスって。

「あ、危なくないか……」

ファイアブレスってあれでしょ。ドラゴンの息吹みたいなのですよね。閲覧料金払って調べた資料に載ってたぞ。

「大丈夫だって。たぶん」

「たぶんかっ。たぶんで命を賭けられるかってんだよう!」

「あのなあリョータ。おまえの依頼じゃないか」

そ、そうでした。

「ごめん。そうだった。でも大丈夫かな……」

「信用しろよ、俺を。そしておまえ自身の力を」

パルセルはフッと笑った。

有り難いが少々痛いセリフである。

うーむ。それでもパルセルが言うと様になるな。

これに応えるのが友というものだろう。

友か。うっ。ちょっと恥ずかしいけど俺は腹から声を出す。

「おし! ばっちこい!!」

ちなみにばっちの意味は知らない。

野球部員が叫んでいたように記憶しているが、今やネットで調べようもないからな。


「相変わらず言葉の意味はよく解らんが、意図は解るから安心してくれ。まずはリョータに耐火の魔法をかける。耐熱と耐閃光防御もだ。左手にはそこに置いてある魔法のかかった盾を持て、右手にはポーションだ。万が一を考えて建物内には予備のポーションと神官を招いてある。もちろん経費の範囲内でだ」

「あ、ありがとう。助かります」

経費の範囲内は重要だ。

すでに結構な額を払っているからな。


「それじゃまずはリョータ自身の耐火力をあげる魔法な」

パルセルが俺に水魔法をかけてくれる。

ぼんやりとした幕のような物が俺の周囲に展開した。

そしてパルセルは左手に開いたスクロールを持ち、右手の杖を掲げた。


「今までの実験から間違いなく大丈夫だ。そしてこの呪文に耐えられれば、そいつは最強の呪文にも耐えうる強度と魔法抵抗力を有していることが証明される。エンシェントアーティファクトレベルでだ。俺の見立てでは絶対に大丈夫だが、念のため呪文の口径は最小で。炎の軸線もリョータの体から外す。おまえの盾にしか当てないようにする」

エンシェントアーティファクトとは遥か古代に作られた魔法工芸品や魔道具のことで、現代では製作不可能な能力を秘めている。

「わかった」

「では準備を」

俺は金属の盾を構えて右手にポーションを持った。

そして金属の盾の前に、ステータスウィンドウを出現させた。

縦3メートル横3メートルの青い半透明のウィンドウだ。

これで耐ショック耐閃光防御は完璧な筈だ。

ちなみにそのウィンドウには現在のステータスが表示されている。


29才

体力 72/72

魔力 36/36

状態:異常無し

筋力  13

器用度 14

敏捷度 12

生命力 13

魔力   6

<ウィンドウカスタム>


こんな感じだ。

ステータスウィンドウのサイズ変更などは、縁に触るようにして念じながら変えられるようになった。というか元もと出来たのかもしれない。

PCのマウスでウィンドウの角をドラッグしてサイズを変更するように、手を使いながらだとやり易いことが解った。


そしてついに俺は魔力が6になった!

使える魔力も36にアップだぜ。

大魔法使いへの道はまだまだ遠いな。

うん。まずは道に行くまでが既に遠すぎるぜ……

と、とにかく今は集中しよう。


「よし。パルセル。準備できた」

「いくぜ」

パルセルが真剣な目をしてすっと息を吐いた。

「おう」


パルセルが呪文を唱えはじめる。

詠唱と共にスクロールから赤い光が燃えるように上がった。

杖に嵌めこまれた宝石が赤く煌く。

「過去未来永劫全て焼かれ滅びる定めならば、今ここに永久の焔を現出させよ、炎の時よ終われ。終末の頚木を穿て。大いなる息吹よ。時を逆巻く炎となれ、ドラゴブレシア!」


大気を焼く紅蓮の炎が杖先に湧き上がり、こちらに向かって炎の息吹が放たれる。

その直径30センチほどの炎の奔流は、ランジュの上級火魔法に匹敵する熱線魔法だ。

空気自体が焼かれる音がした。

龍の息吹の呪文。

だが、まともに当たればあっという間に人を黒焦げどころか蒸散させるその紅い奔流は、俺の前にある「半透明の青い壁」に遮られた。


その壁は揺ぎ無く、傷一つ入っていない。

俺はポーションを持ったまま、そのステータスウィンドウの表面に一瞬触れては離して確かめる。

よし。手を当てる。

全然熱くないぞ。

ドラゴブレシアの魔法を完璧に防いでいる。

ステータスウィンドウの盾は、凶悪な炎の息吹を完全に弾いていた。


あの魔呪禍病の緊急依頼で、俺はステータスウィンドウを盾代わりにして命拾いをした。その後はこのステータスウィンドウの盾。略してステ盾を冒険の合間に研究している。


この世界に来た時には、神様か何かに付与してもらったチートスキルを持ったら力に溺れておかしくなってしまうのでは、と考えた。

でも、これが無ければ生き残れなかった。

それを考えると、小説で俺tueee主人公も当然かもと思えた。

平和な生活をしていた一般人が、突然に魔物と剣と魔法の世界に来たら、倫理観も違う、生き死にが日常に起こる生活に投げ込まれたら、平静でいられるわけがない。何かしら能力がないと生きて行けないないだろう。


俺に稀な能力があって良かったよ。

この世界にやって来た当初と違って落ち着いた精神で、心の中で言える。

ひゃっほう、と。

盾にするという本来のステータスウィンドウとしての使い方から外れてるけど、これがあるからなんとか生き残れた。


しかし俺は不安になった。

木の盾や鋼の盾なら耐久性やどのくらいで壊れるかは、本体があるので何となく解る。ヒビが入ったらそろそろ砕けるな、とか。

ところが俺のステータスウィンドウは元々よく解らない原理で備わっている固有魔法もどきだ。

どこまで耐久力があるのか。壊れることはあるのか、それならどれくらいまで攻撃を受けられるのか。不意に消えちゃったりしないだろうかと俺は心配になったのだ。


これほど自分の能力に不安な異世界転移者が居ただろうか。

異世界物の小説を読んでいて「このチートって簡単に貰ってるけど、無くなったりしないのかな。神様が出てこないパターンだと、誰がこの能力を保証しているんだろう」と疑問に思ったことがあったけど。

え、まさかあれがフラグだったの?!

自分が当事者になるなんて思ってもみなかったからなあ。


このステ盾の盾としての強度、耐久力はいかがなものか。どうしたら解るだろうかと三日三晩、レイナと仲良くした後ではあるが、悩んだ俺はスクワットをした。いや、検証するしかないと思い立った。


俺は武器防具ドランブイエ工房に行った。

ステ盾のことを相談せずに、安いメイスを買った。

もしユイエさんにステ盾を見せたら、鍛冶熱心な彼女のことだ。

「ちょっと調べさせろ!」とハンマーで打っ叩かれることだろう。

あ、それでもよかったのか。

でも。信頼できる二人でも何で迷惑をかけるか解らないから、ステ盾の秘密は簡単に教えるのはよくない。


そうして俺は買ってきた安メイスでステ盾を殴り続けた。

物理攻撃に対しての耐久力テストだ。

いくら殴っても大丈夫だった。

むしろ俺の手首が大ダメージだった。

剣を振るのに支障が出るほどでレイナに叱られた。

その後のある依頼中に、メイスなど比べものにならないほどの衝撃テストを出現した魔物が行ってくれたので、耐久力はかなりのものだと解った。

というか、耐久力が備わってなかったら今頃はあの世に転移してたかもしれない。


あの「カルソンヌ渓谷の依頼」もやばかったなあ。

なんでこう簡単に死にそうになるのやら。異世界koeeeよ!


とにかく耐久力は安心できそうだったが、油断は禁物だ。

この世界には魔法がある。

魔法であっさり壊れたり消されてしまったりとかないだろうか。

三日三晩、レイナと仲良くした後ではあるが、悩んだ俺は腕立てをした。

いや、検証するしかないと思い立った。


そうして俺は魔法ギルドへ行って相談した。

ある魔法のような現象の解明をしたいと。

ステ盾を魔法で調べてもらおうと思ったんだ。


冒険者は古代遺跡やダンジョンで発見したアイテム等を魔法で鑑定してもらうことがある。そういえば、例の緊急依頼の報酬として鑑定が終わった武器やアイテムの分配をしないといけないんだけど、ゾラさんが出かけちゃったりでまだだったっけ。まあ、たいした物は無いと聞いたのでいいけど。


結果を他者には秘密にすることを確認してから、料金3万エルドの魔法鑑定をしてもらったが、材質も効果も不明と出た。

俺は鑑定結果が出るまで「こ、これは……あの伝説の物質!」みたいな事態になるんじゃないかとどっきどきしていたけど、あっさりアンノウンだ。

うん。まあ、そうじゃないかと思ってたけどね!


それじゃあ対魔法とか強度テストをしたいと言ったら、もっと知識のある者を呼んでくると言う。素晴らし才能を持った魔法使いだそうだ。

なんか予感がするぞ。

やってきた魔法使いは俺を見るなり言った。

「あれ? リョータ。どうしたんだい?」

おまえかー! やっぱりまたおまえかー! おまえは何ぼほど才能持っとるんじゃー! と俺は心で叫んだ。

その後、守秘契約を結んでからステータスウィンドウのことを話すと。「なんだと……すげえな。これ俺が考えた伝説のアストラル物質じゃないか?!」と大げさに言ってくれたので、パルセルが考えたアストラルが何かは知らんが俺の心は荒まずに済んだ。


ステ盾強度実験については、安全対策やら準備やら内容を極秘にすることなどもあって結構な額を見積もられてしまった。

交渉の結果、調査費用は80万エルドになったけどね。

始めの見積もりはもっと高かった。ぼったくりかと憤ったが、魔法ギルドは魔法や現象の研究も目的としているから、それほど暴利ではないらしが、さすがに高い。どうしようか、筋トレするべきかと思っていたらステ盾に興味を持ってやる気になったパルセルが、自分の魔法研究を兼ねて協力してくれることになり80万エルドになったというわけだ。


そして数度の実験の結果。

このステータスウィンドウは俺以外には消去も破壊もほぼ不可能だと解った。

魔剣にも斬れず。数種類の攻撃魔法にも、解呪にも消える事はなかった。

そしてドラゴンブレス級の上位魔法にも耐えたのだ。


よかった。

これで冒険中に高ランクの魔物と遭遇してもレイナを護れる。

まあ、その前にたいていの魔物は彼女が倒しちゃうけどね。


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