第16話 急襲
「止まれ!」
あと少しで村に着くという時。
ゾラさんが叫んだ。
走り続けて三日目。
この峠を超えれば村だ。
林の中を上がって行く道で速度は緩くしていたが、俺の手綱を引く動作は間に合わなかった。
俺の走竜が何かにぶつかって転がった。
宙に放り出された俺は受身を取ろうとしたけど、ものすごい衝撃で地面に叩きつけられた。
いったいなんだ。
息が苦しい。
左腕が痛い。
たぶん腕か肩が折れてる。
頭も打ったのか痛みで朦朧とする中、走竜と荷物を確認しようとする。
走竜は無事のようだ。立ち上がるとぶるっと体を震わせ、地面を蹴っている。かなり気が立っている。荷物袋に入った解呪禍薬は頑丈な透明金属容器に入っているから問題ないはずだが、はやく捕まえて落ち着かせないと。
しかし、何があったんだ。
この俺の怪我は……あれは……縄?
地面に切れた縄がある。
もしかして道に張られていた?
それで走竜ごと衝撃を受けたけど、縄が切れたのか。
俺はベルトにさしていたポーションを取りだしながら、ぼんやりとした頭でそんなことを考えていた。
あ。
縄が張ってあったってことは。
罠だ――
気がついた時には目の前に剣を抜いた男がいた。
俺は咄嗟に転がって逃れる。
ポーションが手から離れて跳んでいく。
あちこちで叫び声が聞こえている。
待ち伏せの罠だ。
剣だ、剣を抜かなくちゃ。
さらに周りの林の中から男達が現れる。
どこからか弓矢も飛んできた。
ゾラさんがあっという間に二人ほど切り伏せたのを視界の端で見た気がする。
俺を攻撃してきたのは皮鎧を着た顔色の悪い男だったが、俺には追撃もせずに跳んでいったポーションに飛びついてむさぼり飲んだ。
俺は何とか剣を抜いた。盾は走竜にくくりつけていたので無い。
どのみちこの左腕では盾は無理か。
ポーションを飲み終わった男が再び剣を振るってくる。
剣で受けた。
左腕はほとんど動かないのでかなりまずい状況だ。
だが襲撃者も顔色が悪く目が血走っている。
真っ赤な目。
顔色も悪いまま。
ポーションを飲んだのに?
荒い息、まるで病人のような。
そうか、こいつら。
サスレンダ魔呪禍病にかかってるんだ。
左腕の使えないまま、俺は襲撃者からの攻撃を何とか凌いでいた。
なんとかできているのは襲撃者が病人だからだ。
このままではまずい。
ポーションを飲むことも周りを見回すことすら出来ず、狂ったように打ち込んでくる剣を受けている。
襲撃者はまるでギルドの図鑑で見たアンデッドのようだ。
赤い目が狂気を帯びている。
するどい攻撃に俺の体が揺らいだ。
俺が次の一撃を待っていると相手の動きが止まった。
胸から生えていた剣が引かれると、そいつは糸が切れた操り人形みたいに倒れた。
「大丈夫かリョータ」
ゾラさんが後ろから倒したのだ。
「は、はいっ。こいつら魔呪禍病にかかって。薬を狙ってるんじゃ」
俺が返事をした時には振り向いて、飛んできた弓矢を盾で弾いている。
「ああ、そのようだ。リョータ。ポーションをはやく飲め」
「は、はい」
ゾラさんは襲撃者に向かって叫んだ。
「解呪禍薬が欲しいなら分けてやる! 数は充分ある。攻撃をやめろ!」
一瞬、襲撃者からの攻撃が途絶えた。
グリアスさんは興奮している走竜の手綱を引いている。
軍用走竜ならば戦闘も恐れないらしいが、この三騎は荒地の走破性とスピードを優先した走竜だ。
グリアスさんがなんとか落ち着かそうとしている。操竜の腕と獣人の力が可能にしたんだろう。俺があの状態の走竜を操るのは不可能だろう。
敵はどうしたんだと思いながらベルトをさぐっていると、林の向こうから再び矢が飛んできた。
ゾラさんが前に出て盾で受け払った。
「攻撃を止めろ! 薬を渡す! 剣を置いて出てこい」
林の影からさらに襲撃者達が現れる。
しかし、彼らは武器を持ったままだった。
「くそっ、薬ならやるというのに。おいグリ。何とかして村へ走竜たちを連れてけっ」
グリアスさんが力で走竜を抑えているがかなり暴れている。
「でも、ゾラっ」
病人だが敵はまだ10人くらいはいるだろう。
こちらは俺とゾラさんだけ。
「ブラウオリゾンのリーダーである俺の指示だ。ここで薬を奪われるわけにはいかない」
「がああっ、わかった! 援軍を連れてくるっ」
グリアスさんは一声吼えると走竜たちを移動させる。暴れていてなかなか進まない。あのまま一人で三騎を御するのは難しいが、峠を越えて下ればすぐ村のはずだ。
でも。
疫病の発生した村から援軍は期待できるんだろうか。
ゾラさんが言った。
「悪いなリョータ。なんとしても薬を村へ届けるのが依頼だ」
ごめんランジュ。
もう会えないかも。




