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第14話 チョーゴッドスピード

神を超えるものは一体何だろうか。

俺は考える。

猛烈な風の中で、スピードの中で。

簡単にゴッドスピードなんて付けちゃったから、その上が思い浮かばないよ。

もう、チョーゴッドスピードでいいや!

そうそう、この世界ほんとに神様いるんだったけど名称的にどうなんだろうか、まあいいか。文句があっても直接介入してこないもんね。


「神を超える速度」と名づけられた走竜は飛ぶが如く疾走する。

俺を乗せて。

グレイ種が強いことは身を持って知っている俺だが、走らせると尋常じゃないスピードだった。

最高速度は緑種の倍。きっと3倍速い赤い走竜もいるにちがいない。

凶悪な速度だ。

飛んでるみたい。

いくら魔法の馬具があるといっても、転げ落ちて打ち所が悪かったら異世界に行かずにあの世にいけそうだ。


俺は必死にグレイランドラゴンを走らせる。

悲鳴は上げない。

走竜は怖くても怖がったらだめだ。

おお。今が、怖くても「怖くない怖くない」だったんだ。


それに怖がっている暇はない。

この依頼は一刻を争う。

だから俺は走竜に己が身を預けて走る。

心は一緒に前へ前へと。

街道をぶっ飛ばす。

明らかにスピード違反だが走竜の首に巻きつけられた赤いスカーフが緊急であることを示しているから問題ないそうだ。

俺とゾラさんとグリアスさんは、解呪禍薬を積んで北に向かっている。

山間の村で魔呪禍病が発生したからだ。


僅かな休憩時間に二人から説明されたのは、魔呪禍病が発生したので解呪禍薬を届けに行くってことだった。

この世界では治癒魔法やポーションでたいていの怪我や病気は快癒するが、治らない病がある。

それは魔法的な病気や呪いを原因とするもので魔呪禍病と呼ばれている。

魔物や魔法植物がもたらす魔力を秘めた病気や呪いのかかった疫病は、通常の病気と違ってポーションがきき難い。対処法は病気にあった解呪禍薬か高度な治癒魔法を必要とする。

発生したのは症状からみて15、6年前にサスレンダ地方で流行った「サスレンダ魔呪禍病」と断定された。

目の充血と皮膚の乾燥が特徴で、下痢を繰り返し精神や体力を衰弱させて10人中4人は命を落す。

まったく罹らない人もいるし、すぐに治る人もいる。

解呪禍薬は魔法ギルドで簡単に調合できるし飲めば数日で完治する。


今回は南東の八つの村で発生した。

一度に八つというのは前よりも多いそうだ。

それらの村には既に領主とギルドが連携して対応している。

解呪禍薬と薬を作る材料や魔法使いを一刻も早く届けなければならない。

走竜に乗れる冒険者や騎士や走竜厩舎に居た引退した走竜レーサー達も参加して救護隊が派遣された。第二陣として馬や馬車で魔法使いや神官や冒険者が。


これで何とかなりそうだと関係者が安堵した時、別の知らせがもたらされた。

遠い北の山村でも魔呪禍病が発生したという。

離れた場所での発生はまったく想定しておらず、そんなまさかと関係者全員が顔色を青くしたという。

解呪禍薬はあるし走竜もいる。ところが乗り手が足りない。

既に元走竜騎手達まで参加していて乗れる者は二人。

ギルドの依頼から帰ってきたゾラさんとグリアスさんだけだった。

ルナちゃんとグリアスさんから俺も走竜に乗れることをわかってはいたが、待っている訳にも行かず、二人が強行出発しようとしたところに俺が帰ってきたわけだ。


走竜は走るという意志を持った騎手が乗っていないと駄目だ。

たとえへっぽこ騎手の俺でも乗っていないと。

解呪禍薬が間に合わなければ病気にかかった村人の何人かは……

シリアスすぎて防風ゴーグルをしてるのに俺の眼は涙目だ。

とにかく速く。

俺は必死に走竜を走らせた。



「止まれ!」

あと少しで村に着くという時。

ゾラさんが叫んだ。

手綱を引く。

次の瞬間、俺は激痛と供に走竜から投げ出されていた。

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