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第8話 ゾラさんが変

「護衛依頼ですか?」

俺がギルドのホールでDランクの依頼票を眺めていると、ゾラさんが来て「護衛依頼に行って来い」と言い出した。

「おう。そうやって試験に落ちてばっかりで唸ってるより実地訓練の方がいい。何でもいいからどっかの町まで護衛依頼で行って、そんで花街で遊んで来い」

花街には興味はありますよ。

「でも、また迷惑かけるんじゃないですか。俺なんかじゃ、もし盗賊に襲われてもちゃんと護衛できないし……」

今までゾラさんのパーティについて行った時は盗賊の襲撃は無かったけど、あるかもしれないからの護衛依頼なんだし。

「いいんだよ。そういう時はお前は死んでるから、後の事なんか考えるなよ」

ひえええ。今さらっとすごいこと言われたよ。


「でも……」

俺が口ごもっているとゾラさんは渋い顔をしていた。

「おまえもっと肝が据わっているように見えたけどな」

いったいどこらへんがですか。

「そ、そんなこと。俺なんてダメですよ」

もうぜんぜん。俺がプラモデルなら肝なんてフル可動関節並みに動きまくりですよきっと。

「とにかく、町に篭ってるよりもいいだろ」

ゾラさんの言うのもわかる。

試験に落ちる繰り返しで、魔物討伐や素材採取依頼も気合が入らないんだ。

そうだな。ここはゾラさんのパーティの依頼にまた参加させてもらおう。


「わかりました。どんな護衛依頼ですか?」

「どんなって、なんだ?」

「あの。ゾラさんのパーティの護衛依頼についてこいってことじゃないんですか?」

「ん? なんでも適当に選べばいいじゃねえか」

「え? そもそも護衛依頼は俺Dランクだから単独で受けられませんよ。だから昇格試験受けてるんじゃないですか……」

ゾラさんはぴくりと一瞬だけ動きを止めたが、すぐに何でもなかったかのように語りだした。

「お? あー、まあ、その、なんだ。そういう感じの心構えというか」

まさかゾラさん。俺が何の試験に落ち続けているか忘れていた?!

「ゾラさん、何か変ですよ?」

どうしちゃったんだろう。

「変じゃねえよ。馬鹿野郎。俺は元気だ」

えー。なんか変ですよ。

俺が首を傾げているとそこへごつい甲冑を着たいかめしい顔の戦士が通りかかった。ゾラさんと同じくベテランだがAランクのゴラードさんだ。

俺とゾラさんを見てから顔をしかめて言った。

「万年Bランクのゾラじゃねえか。まだガキどもとつるんでるのか」

なんという暴言。ここは俺がしっかりと反論しようとしたら睨まれました。

俺はガキじゃない!

もうすぐ30だと言おうと思ったのに。


「後輩指導だとか言って、ひよっこどもに慕われていい身分だな」

おお。ギルドに初めて着た時ときには絡まれなかったのに、えっと、あとからレイナには絡まれたけど、それは置いておいて、まさかベテランがベテランに絡まれるとは!

これは喧嘩が始まるんじゃないか。どうなるんだとはらはらしていると、ゾラさんはふんっとそっぽを向いて俺に向き直った。

「とにかく護衛依頼だ。駄目なら冒険者はやめちまえ。行商人になれ」

「は?」

ゾラ先生は真剣な顔で俺の肩をどんっと叩くと、依頼を見てくると言って去ってしまった。

「ゾラのやろう。いったいなんだありゃ」

当のゾラさんが行ってしまったのでゴラードさんも拍子抜けしたのか立ち去った。

「ゾラさん。わけわかんないです……」

いったいなんだったんだろう。


俺が再び首を捻っていると、ギルドに狼獣人族の人が入ってきた。

ふふ。最近は犬獣人と狼獣人の見分けくらいはつくんだぜ。

あ、グリアスさんだあ!

狼獣人さんじゃなかった。やっぱり獣耳だけじゃわからないよね。

あたりを見回している。

俺は手を振った。

俺に気がついたグリアスさんはにっこり笑った。

「お久しぶりです、グリアスさん。その節は大変お世話になりましたありがとうございました」

「いえいえ。リョータさん。僕の方こそ楽しかったですよ」

挨拶してお互いの無事を喜び合う。


「今日はどうしたんですか?」

「ちょっとギルドと商談がありまして」

ということは護衛依頼かな。

そうならグリアスさんの出す依頼を受けたいけど、俺のランクでは……


そこへゾラさんが依頼票ボードの向こうから依頼票を手に出てきた。今度はなんだろう。

「おいリョータ。こんなのはどうだ。俺達のパーティの護衛依頼の手伝いだ」

それってさっき俺が言いましたやーん。

とツッコミを入れようとしたが、なぜかゾラさんは俺の横に居る人を見て表情を変える。


グリアスさんが言った。

「ゾラ。久しぶり」

「……グリか。おう」

「元気そうだね」

「おう」

あれっ。二人って知り合いだったの。

それにしてはゾラさんは会話がぶっきらぼうだ。


「じゃあ頑張れリョータ。じゃあな」

「えっ」

護衛依頼について来いじゃなかったんですか。

「ゾラ」

「じゃあなグリ」

手を振ってさっさとギルドを出て行ってしまった。

グリアスさんは寂しそうにその背を見送っている。


少しの間の後。

ゾラさんを「依頼票持ったままどこいくんですにゃー」とルナちゃんが慌てて追いかけていった。

ルナちゃんかわいいよ……

ごめんよ、ドアが出来たから君は俺にとって夜の憩いの時間のナンバー3さ。もちろん想像といえどもいかがわしいことはしてないよ、子猫を抱っこしてあやす猫耳少女をもっふもっふするだけさ! 魂跳びそうになるからすぐ眠れるんだ!

ちなみにナンバーワンは居酒屋「昂ぶる雄牛亭」の乳牛族のウェイトレス、フラノワさんだ。もちろんもう一人はお隣のレイナだ。

っと、それも大事だがゾラさんやっぱり変だった。


「あの。グリアスさんとゾラさんはお知り合いだったんですね」

あれ返事がない。

グリアスさんはゾラさんが出て行った出入り口をじっと見ていた。

「グリアスさん?」

「……あっ。すいません。商談の時間なので。しばらくはアンファングか近隣の村に行ったりしてますから。また会いましょう」

そう言ってカウンターへ行ってしまった。

俺は仕方なくギルドを後にした。

二人ともいったいなんだったんだろう。

そんなことを考えながら歩いていて。

『通称。輝け! 楽しき憩い亭』の前に着いて思い出した。


「……依頼受けるの忘れてた」

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