第9話 これが餌付け成果だ! いや、違うか。まあ、俺の努力の賜物なんだ。てめえら俺のレイナスマイルを見るんじゃNeee!
「ゾラってばバカねー。それ絶対忘れてるから」
カラハさんはゾラさんの話を聞くなり苦笑いをしていた。
前にゾラさんのパーティに面倒見てもらってるって話したことがあって、その時にゾラさんと知り合いだと言ってたので聞いてみたんだけど。
「きっとリョータを元気付けようとしたのだな」
好意的な意見はレイナだ。
俺は『通称。輝け! 楽しき憩い亭』で夕食タイムだった。
「でもゾラの考え方はわかるわー。受かったら護衛依頼があるんだから、それならどんどん受けて慣れてしまえってことよね」
「はい……」
習うより慣れろってことなんだろうか……
慣れて良いんだろうか複雑な気分だ。
「急がなくていい。無理することはない」
レイナは優しい。
「ありがとう。でも。Cランクならグリアスさんの依頼も受けられたかもしれないのになあ」
俺は何となく呟いていた。
「えっ、グリアス?」
カラハさんが驚いていた。
グリアスさんとも知り合いなのかな。
俺はアンファングに来る移動市で知り合ったと説明した。一応、ランジュのことがあるからどこからだったかは隠しておく。今日久しぶりにギルドで会って、ゾラさんもいたと。
「そうだったのね」
「お知り合いですか?」
「うん、まあね」
そうだったんだ。でも、いつもカラハさんだったら「はっはー世間は狭いわよね」とか笑いそうだけど、なんだか静かだな。
「ゾラとカラハとそのグリアスという商人はどういった知り合いだったのだ?」
さすがレイナ。直球の質問だ。
「それは――」
カラハさんがレイナの問いに答えとした時、『通称。輝け! 楽しき憩い亭』の扉が開いて若い冒険者が数人入ってきた。
「おかえり!」
カラハさんはいつもの笑顔で出迎える。
「ただいまカラハさん。疲れたー」
そう言って笑顔を見せた金髪イケメン青年戦士はカール。
他の3人は彼のパーティメンバーだ。
厳つい顔つきをした神官がブルス。
赤いローブ姿は魔法使いのエーダ。
レンジャーのハリス。
みんな20才前後でCランク冒険者だ。
彼らは別の町でCランクになってアンファングにやってきた。
「やあ、レイナ、リョータさんこんばんは」
なんでこいつはこんなに爽やかなんだ。
俺なんか依頼を果たした後は疲労困憊だというのに。
「こんばんは。おかえり」
なんでレイナを呼び捨てなんだーといいたいが、俺も普通に挨拶を返す。
あとの連中とも挨拶しあう。
彼らは部屋で着替えてくるとホールに来てテーブルに着いた。
カラハさんの料理と酒で賑やかに祝杯を上げる。
商人を護衛して近郊の町まで往復して、その依頼達成の打ち上げなのだそうだ。
くっそう。ギルド近くの酒場でやりやがれ。お勧めは昂ぶる雄牛亭だ。このイケメン冒険者が爆裂しろ、なんて思わなーーい。あぶねえ。また異世界いっちゃかなわんからな。
「リョータさん。レイナ。依頼達成の打ち上げなんで、ぜひ一杯だけでも飲んでください」
そう言ってカールがエールの入ったピッチャーを持ってくる。
「あ、そ、そう。なら一杯だけ」
う。カール君も良い人だったよ。
「リョータさんには私が注ぐわね~。はーいリョータさん」
エーダがにっこりと微笑む。
「あ、ありがとう」
心の中でこいつはきっとビッチなんだなんて思わなくて良かったー。
「私も頂こう。だが、少しでいい」
冒険者がこういう時に酒を奢るのはよくあること。昔のレイナだったらそっけなく無く断ったかもしれないが、今は違う。
「あれ少し? レイナってお酒だめだったっけ? 普通に飲めるって言ってたよね」
カールがレイナに小さな杯を渡しながら言う。
おのれどこでそんな話をしたんだ。
「ああ。だが今は少しにしておこう」
一緒ってどこ行ったんだよ、このヤロウ。
あ、依頼だわ。
彼女は俺と依頼を受ける以外にもB・Cランクの日帰りの依頼をこなしている。カール達のパーティと組んだこともあるんだっけ。
ぐぬぬ。一回パーティー組んだからって馴れ馴れしいぞ。
「依頼完遂に乾杯! お疲れさま!」
カールの合図で皆で乾杯する。
レイナもカールのパーティに向かって杯を掲げるとさっと飲み干す。
「やっぱりのめるんじゃないか。どうだいもう一杯」
おのれカール。ナンパかキサマ!
イケメンはやはり不倶戴天の敵か!
「ああ、飲める。だが、今からリョータさんが作ってくれたデザートを頂くのだ。じっくり味わいたいんだ」
レイナはにんまりした顔で言う。
こういう表情してくれるんだから作った甲斐があったぜ。それにこういうときはリョータさんって呼んでくれるからなあ。
「リョータさんのデザート?」
カールは首をかしげている。
やーいやーい断られてやんの。
「そうだ、リョータさんのデザートは最高なんだぞ」
レイナがほわんとした笑顔で言った。
カールたちがちょっと驚いてるな。くくく。
これが餌付け成果だ! いや、違うか。まあ、俺の努力の賜物なんだ。てめえら俺のレイナスマイルを見るんじゃNeee!
「はいはーい。レイナちゃん。ではではお楽しみの~。じゃーん。リョータ作のデザートはこれだ!」
そこにカラハさんの登場だ。盛り上げていただいてありがとうございます。
テーブルに置かれた本日の至極の一品はなんちゃってクリームチーズケーキでございます。
そう、俺はついにケーキを完成させた。
といっても砕いたクッキーを下地に、上にクリームチーズをのせただけ。
クッキーは自分で作ったけど割れちゃったりしたもの。
クリームチーズはマッハ軒で働いてた時から行ってる市場で、チーズや牛乳売ってた人に「やわらかめのチーズなんかないよねー」って言ったら持って来てくれた。
あんたみたいな料理人に使ってもらって嬉しいぜ、と。
ああ、うん、いや、もういいんだけどさ。
たしかにあの後もミツ茸の店に行ったり、自分でミツ茸ご飯炊いたりいろいろしちゃってるからな。
こないだレイナが連れて行ってくれた料理店の一件から、俺はちょこちょこ市場に行くようになったのだ。レイナが喜んでくれそうなもの、何か作れないかなって。ハンバール一家が居なくなってしまって俺だけでは力不足だけど、何かレイナにお礼がしたくて。それくらいしか俺にはできないし。
今回俺の作業工程は、まずクッキーを砕く。
皿に引いて牛乳で湿らせる。
クリームチーズっぽいやつに砂糖と牛乳を入れて混ぜる。
できたものをのせる。
冷蔵庫に入れて冷やす、だ。
レシピは昔、自分で作りたくて覚えたものだ。
冷蔵庫はもちろん電気など使わない。
外見は扉のついた木箱だ。
断熱性のある素材と木で出来ている。
中には氷を作る魔道具が入っていて、出来た氷で冷やすわけだ。もっとお高いのになると、氷ではなく庫内を冷やすタイプもある。自動で水を生成して氷を作るものもある。
「レイナちゃん。これは絶品よ~。味見させてもらったけど、かなりすごいわよ~」
厨房と道具を借りたお礼にカラハさんに味見として一つ差し上げたが、絶賛してくれた。
「では。リョータさん。いただきます」
レイナのこの真剣な顔も好きだなあ。
「はい、どうぞ」
彼女はチーズも大丈夫だからきっと気に入ってくれると思うんだけど、緊張する。
レイナがスプーンですくって口に入れる。
あっ、
とレイナがちょっと色っぽい声を漏らしたので場内は静まりかえる。
「なんて美味しさ……」
「ほんと? 美味しい?」
「もちろんだ。とても美味しい。リョータさんありがとぅ」
うっとりとした顔でレイナが言った。
「どういたしまして。喜んでくれて俺も嬉しいよ」
料理人冥利に尽きますな。作った甲斐があったというものだ。
「そ、そんなに美味しいのか」
カールもパーティメンバーたちも興味心身のようだ。
「ああ。すごくおいしい。こんなの食べたことが無い」
「あ、あのさ――」
エーダがそう言った瞬間、レイナはなぜかすごい勢いで食べ始めた。
残り一口になると悲しげにスプーンを止めたが、ばくりと食べて完食した。
エーダはちょっと味見をしたかったのだろう。それを察してここは大事と一気呵成に食った。ランスチャージのごとく。さすがは元騎士なのか。
「ふうぅ。美味しかった。ごちそうさま。やわらかくて甘くて濃厚で美味くて……リョータさんはすごい」
きらきらと輝くような目でご満足の様子で何よりだが、俺の方はすごくどきどきしている。
ああ、そうか。これって餌付けじゃないんだ。
俺がレイナの喜ぶ顔が見たかったんだ。
なんなんだろう、この満ち足りたような、そしてもっと見たいという気持ちは。
「ああぁ。ちょっと食べてみたかったのに~。レイナさんひどい~」
「ぬう。リョータさんってあれか、料理人で食材を自分で揃えるために冒険者になったって人か」
「幻の食材を求めて秘境を旅する冒険料理人かよ。すげえな」
「尊敬に値する」
おいエーダ、ブルス、カール、ハリス。違うから!
それから飲みながら、各地の珍しい食材とか町の美味しい食べ物談義になった。大陸の端はもちろん海なわけで、海の幸を食べているところもある。これはぜひ行ってみたいなあ。
エーダは食べられなかったケーキがどうにも気になるようで、わたしにもたべさせてほしーなと、隣にやってきて体を密着させてきたので、毅然とした態度で前向きに検討しておきますと答えておいた。
するとレイナがはっきりと言った。
「エーダ。それはだめだ」
えっレイナ?
「ええ~。いいじゃないですか~、ちょっとくらい~」
あれ、なんだこれは。
餌付けパワーか。いや、俺の人柄にレイナがデレてくれたのか!
この場だけでも、もててる感を味わってもいいんですか。
「すまないが私の分が減ってしまうから駄目だ。これは譲れぬ」
きりっとした顔で宣言する。
うん。そんなこったろうと思ったけど、俺はそれでも一瞬モテモテ気分をありがとうと言おう。
皆でわいわいと飲んだ。
エーダってけっこう胸が大きいよねってのが俺の感想だ。ローブ越しに俺の二の腕にあたった感触を俺はしばらく忘れぬだろう。
「ふう。飲みすぎちゃったな」
俺が夜中にトイレに起きると、ホールに小さな明かりがついていた。
誰かまだ飲んでのかと見たらカラハさんだった。
「リョータ?」
テーブルに座って静かに飲んでいる。
「こんばんは。どうしたんですか」
なんかこれってあれですか、昔を思い出して一人飲んでるような感じがしますよね。
「ちょっと。昔のことをね」
そ、そのまんまですやん。
もしかしてゾラさんとグリアスさんのこととか。
「昔って。ゾラさんとグリアスさんとのことですか」
カラハさんはこくりと頷く。
そ、そのまんまですやん。
どういう知り合いだったんだろう。普通に宿泊していた冒険者とかではないのか。
あれ。それを聞こうとして飲み会になっちゃったんだっけ。
「実はね。私達は」
「すいません!」
俺はカラハさんを手で制した。
「そうよね、昔話なんて聞きたくないわよね」
寂しそうに笑うカラハさんに俺は言った。
「違います。俺トイレに起きたんです! 先にトイレに行ってきます!」
だってそのために起きたんだもん。




