第2話 リョータの朝
「ふあぁぁ」
俺は起き上がって伸びをする。
ここは『通称。輝け! 楽しき憩い亭』の一室だ。
隣にはレイナが寝ている。
ベッドの上に、ではなく隣の部屋にだけどな。
レイナはどんな格好で寝ているんだろう。
薄いネグリジェかなんかだとしたら。
ちょーせくしーだよな。
……いかんいかん。想像するのはまた夜にしよう。
俺はベッドから出て窓をあけた。
いつものアンファングの通りが見える。
早朝だが人はちらほら歩いている。早くに動き出す商人もいるからね。
冷たい空気が気持ちいい。
俺は出かける準備をする。
今日は朝の稽古の後に、武器と防具の具合を見て貰うつもりだ。
「あ。鎧を着てかないと」
俺は木と皮と鉄で作られた鎧を着込む。
これがけっこう面倒くさい。
鎧紐を締めて各部をしっかり装着しないといけない。
俺の鎧は胸当てと頭の兜などは鉄を使っているが、その他は木と皮で作られている。筋力の無い俺が動きやすくするためだ。
全身を金属で覆う重甲冑だとすごい重さになるが、「真銀と書いてミスリルと読む!」みたいなファンタジー定番の金属鎧や魔法のかかった防具もある。
レイナの鎧は主要部分にミスリルを使って、そのほかの部分は耐腐食コーティングなどの魔法が付与された鎧だ。騎士の軽甲冑って感じでかっこいいが、盾には大きく削った跡がある。きっと家紋か仕えていた国の紋章があったんだと思う。
俺は防具を着けて武器を装備する。
この朝の何気ない時間が俺にはとってもシュールに感じる。
出勤前にスーツを着るように鎧を着る。
昔だったら寝不足の寝ぼけた頭でほとんど自動的に顔洗って歯を磨いてスーツ着て寝癖直して家を出るのだったが、今では朝食をしっかり取るし、スーツの代わりに鎧を着て、革靴ではなく冒険者にとって大事なブーツを履き、カバンの代わりに剣と盾を持って出かけるのだ。
ちなみに制汗スプレーのかわりに蒸れたブーツや兜にドライの魔法をかけるのである。
アンファングに来る前に移動市でグリアスさんが「生活魔法のドライを覚えたほうがいいですよ」って言ってくれた意味を俺はよく理解した。俺の兜はオープンフェイスといって視界が開けているタイプだけど、それでも蒸れる。もちろん高い兜は違うけど。
ブーツなんかは一日履いてるとすごいことに……
それをクリーンとドライを使うことによって防ぐのだ!
一階に下りて厨房の方のカラハさんへ声をかける。
「おはようございます。カラハさん」
「おはようリョータ。今日は鎧着て稽古かい?」
「はい。後でいったんご飯頂きに戻ってから、防具屋さんへ行くんです」
「そうかい。じゃあ美味しい朝食作っておくからね! 行ってらっしゃい」
「行ってきます」
そうして俺は外に出る。
『通称。輝け! 楽しき憩い亭』から歩くこと数分で公園に着く。そこには大きさなグラウンドもある。
アンファングは冒険者の町というだけあって、訓練場とか道場が町中にいくつかある。有料だけど。
お金を使いたく無い人やちょっと運動したい市民はこうして公園に来る。元々は兵士の練兵場の一部だったそうで、けっこう広いし水場もある。
「おはようございます」
俺はお爺さんお婆さん達に挨拶する。
「おぅ、おはようさん」
「きょうもいい天気だねえ」」
口々に俺に挨拶を返してくれる。
皆さんは近所の老人会の人たちで、毎日ではないけれどここに集まって体操や運動をしている。朝の公園でラジオ体操や太極拳やゲートボールをしているような感じだ。
他には子供連れもいるし、剣士や魔法使いが練習していたりもする。
異世界の朝の公園って感じがすごくするよ。
俺は柔軟体操をしっかりやって、ランニングをしてから剣の素振りをした。
冒険者の町と呼ばれるだけあって、老人会には元冒険者も居て、ありがたーい武勇伝を聞かされることもある。たいていは奥さんが適度に止めさせてくれたり、ご家族がやってきて「もうお爺ちゃん。ご迷惑でしょっ」ってさっさと連れ帰ってくれるが、奥さんも元冒険者でたまにながーいことつかまることがある。
100階層の大迷宮を制覇したというお爺さんの話は、すげえそんな大迷宮があるんだ! って心躍った。
しかし毎回第1階層から始まるから、いっこうに進まない。
しかも最初に出会ったモンスターが毎回変る。あれ、それってボスじゃない? って時もある。
砂漠の城に眠る不死王と大恋愛の末結婚したという甘いロマンスを語りだすお婆ちゃんの旦那さんは、お孫さん曰く大勢の孫達に囲まれて幸せに大往生されたそうだ。不死王じゃなかったんかい。
なんだか話の内容が異世界だけに本当なのか嘘なのか良く解らないのも俺の悩みの種だ。
そこで最近は「宿屋に朝食を頼んでいるので、すいません」と逃げることを覚えた。
「おーう。リョータぁ」
俺が剣の稽古をしていると、薄い青色のローブを着た男がやってきた。
「あれ。パルセル。おはよう」
パルセルは魔法使いギルドに所属する魔法使いだ。
魔法使いギルドへ調べものに行った時に応対してくれた魔法使いで、それ以来喋るようになった。
こないだは生活魔法以外の魔法も覚えられないかなと行ったんだけど、俺は魔力が低いから習得は難しいし、授業料だけでも30万エルドかかる。
安い教本が無いのかパルセルに聞きに行ったついでに「なあ、全長20メトルくらいで人が乗って操縦する巨大人型ゴーレムってないの?」って質問した。
「なんだよそれ。そんなのないよ、作ってどうするんだよ」って言われたから。
「巨大人型兵器は男子のロマンなんだ。たとえば巨大な魔物が町で暴れるとするだろ、アンファングの城壁を乗り越えるような魔獣だ! 逃げ惑う人々。それを巨大ゴーレムに乗り込んで立ち向かう! ぶつかり合う巨大魔獣と巨大ゴーレム! 崩れる建物。咆哮と地響き上がる戦いの末に倒すとか考えたことあるのかよ!」って言ったら。
「おおお。それいいな!」
って盛り上がった。
そんなわけで俺には魔法使いの友達がいるわけだ。
俺に友達がいるという点に驚くべきか、魔法使いのってところに驚くべきか。
まあ俺も魔法使えるので、この世界では普通なわけで。
「リョータは朝からがんばるなあぁ」
彼は大あくびをしながら言う。
そんなパルセルはけっこうモテる。
金髪で顔立ちは悪くない。複数の系統の上級魔法を使えるそうで、これはなかなか珍しいらしい。年齢は25才。才能ある独身魔法使いとなれば女性にも人気なんだろう。
今もどうやら朝帰りらしい。歩いてて俺を見かけたからちょっと話しかけにきたんだと。
女か! 女と会って朝帰りなのか!
いや、そうだよな、というか男と会ってて朝帰りだと怖いよ……
「パルセルは今から家に帰るの?」
「んー。帰って寝るには足りないが、ギルドに行くには半端な時間だな」
パルセルは伸びをしながら言った。
チャァァァンス!
じっちゃんばっちゃんの話もいいが、これは好機なり。
「時間あるなら、ちょっと魔法教えて!」
「ええー。めんどくさいな」
「ん。ちょっとだけたのむよ。今度ご飯奢るからさ」
格安で魔法を習えそうなチャンスなのだが、それよりも俺は「たのむよ、今度飯奢るし!」みたいな仲間と交わす気安い会話というのを一度してみたかったので、その夢をかなえさせてもらったぜ。
よし。もう断られてもいいや。
もともと無料で魔法を習おうなんて虫がよすぎるし、「なんだよつめたいなー。まいったなあ。また今度頼むよ。あはは」みたいなことも言ってみたいからだ。
「ヒマだし、いっか」
「えっ。マジで?! ありがとう! 助かるよ、今度飯誘うよ!」
言ってみるもんだー。
やったねこれで「友達とご飯」もできるぜ!
「で、どんな魔法がいいの?」
俺はうきうきしながら答える。
「土を変化させる土魔法!」
「えー。地味だなあ。百石礫。ストーンバレッツとかどう?」
ストーンバレッツですか。バレットじゃなくてバレッツだ。複数形なんですね!
かっこいいな。心が躍るよっ。
だが断る。
なぜなら。
「俺だと、覚えても小石一個作って終わりだと思うよ?」
魔力少ないからな。
「お、おう。わかった」
こうして俺は初級の土魔法というのを教えてもらった。
その魔法の名は「こううんの魔法」という!
この魔法を唱えると地面を少しだけ耕やしやすくなって、土も微妙にいい感じになるそうだ。
公園の使ってない花壇の一部と鍬を借りてやってみた。
うん、耕運の魔法だな。
しかしなあ。ちっとも耕すのが楽になった感じがしないんだが。
土が良くなったかどうかなんて俺には解らないし。
あれかな。まだ最初だしファイアみたいに練習すればちゃんとできるようになるのだろうか。
俺はざくざくと耕し続ける。
ちなみにパルセルの顔がどうも笑いを我慢しているように見えるのは何故だー?!




