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第5話 冒険者初心者講習

宿屋の裏庭で朝稽古をした後はがっつりと朝食を頂いた。

町の地理を覚えたらランニングもしたいな。

昨夜の料理もだけど、ここの食事はなかなか美味しい。頼めば安くお弁当を作ってくれるというのでお願いしてある。お昼が楽しみだ。


もちろんできれば米が食べたい。これだけ大きな町でいろんな種族の人もいるんだ。食べられる店がないか探してみよう。

大陸の東の方では稲作をしているそうなので、いつかは行ってみたい。

元の世界への帰還方法も探す。

そのためにもまずは冒険者業だ。

そうだ。昨日登録したから俺はもう冒険者なんだ。

頑張るぜ。

俺はカラハさんに弁当を貰ってギルドへ出かけた。


「おはようございますキノさん」

「やあ。おはよう。リョータ」

今日はルナさん……いや、ルナは休みかな。

ギルドの中にはけっこう人がいた。

「朝からたくさんの人がいるんですね」

この世界の時間は一日が12コク。

1コクが2時間くらいだ。

この町では4コク(朝8時)から夕方8コク(夜6時)まで1コクごとに鐘がなるので時間がわかる。

「朝に依頼を受けて出かける冒険者達さ。講習は2階だよ。実技講習は昼食後に修錬所だからね」

「はい。がんばります」

お金払ったんだもん、絶対有益な時間にしないとな。

俺はさっそく2階へ上がった。


「このような事例では契約違反とみなされるので注意だ。次にーー」

まずは座学。

講師が教壇でテキストを読み上げる。

この人族の男性はゾラさん。

あんまり強くは見えないけどランクBのベテランだそうだ。

一方受講生側は最前列に俺。

教室の後ろの方に10代前半の男女が4人。

「そんなのかんけーねえよ!」

「だよなー」

「うるっせえぞ男子」

「ちょーだるいわぁ」

いったいどこのヤンキーボーイズアンドガールズだよ。

先生は彼らの態度を注意するわけでもなく、淡々と授業を進めていく。

事なかれ主義なのか、よほど穏やかな人なんだろうか。

ちょっと荒れてるけど学校を思い出して懐かしい。


「あの。先生」

質問タイムに俺は挙手をする。

「なんだ?」

「ホーンラビットの攻撃に対してなんですが。この場合は距離を置くほうがいいんですか」

「……それはな。距離よりもまずは角の向きに気をつけろ。角が向いている延長線上に自分の急所をおくな」

「なるほど。ありがとうございます」

「ギャハハハ。なんだよおまえ。ホーンラビットをびびって冒険者になれるかっての!」

「あんなのラクショーだ」

少年二人から声が上がる。

「キンタマついてんのかよ。しめっぞコラ」

「ちょーうける」

女子二人からもだ。

ギルドでは新人の俺にちょっかいを出す冒険者はいなかったが、まさか講習で同じ新人に絡まれるとは。

やはり懇切丁寧に謝ってしまおうかと俺が思案顔でいると、先生は俺のテキストに書き込んでいるのを覗き込み、他にもいくつか注意点を教えてくれた。

その間、後ろの少年少女たちは騒いでいた。

うるさいなあ。

すると先生が小声で言った。

「気にするな。ほうっておけ。厳しく言えば。学ぶ機会を利用できないようなやつは早死にする」


俺は冷水を浴びせられたような気分だった。

ここはやっぱり厳しい世界だ。

ホーンラビットは角の向いているほうに飛び上がって攻撃するが、跳躍前に力を溜める動作があるのとフェイントがあるから気をつけろと先生は教えてくれた。

その動きを理解すれば安全性はぐんとあがる。

後ろの彼らは聞いていない。生徒では俺だけが知っているってことで、ちょっと得した気分になっていた。

……なんて浅ましいんだ俺は。

このままではいけない。

元の世界だったら俺はそんなことしなかったかもしれないけど。

そう。

あの時、俺は来年から心はイケメンになると決めたのだから!


「うるさいぞ君たち! 先生の有り難い話を聞くんだ」

思い切って言ってみました。

「なんだと。てめえ。ホーンラビットなんて楽勝だろが。ナニ言ってんだ」

ナニ。だと?

昨日の俺にケンカを売ったな?!

俺はつかつかと歩いていってその一番強そうな若者の前に立った。

「な、ナニする気だよてめえ、ケンカうろうってのか」

ナニするだと、またしてもおのれぇぇぇ。

俺は全力でまくし立てた。

「聞いた風な口を聞くなぁぁぁ! 真面目に授業を受けろ! ホーンラビットの一撃だって当たり所が悪ければ死ぬ事だってあるんだぞ! 死んだらどんなにすごいポーションだって意味がないんだぞ。死んだらそれまでなんだ。先生はおまえらが無駄死にしないように大事なことを教えてくれてるんだぞ!」

「で、でも。ホーンラビットなんて雑魚じゃ……」

不良A(勝手に命名)は俺の気迫に怖気づいたようだが、そう反論した。

「命を! 生き物を舐めてんじゃねえぞっ! 皆生きてるんだ。命に雑魚なんてあるもんか! そいつを殺そうってんだぞ。必死になれよ! ミミズだっておけらだってありんこだってみんなみんないきているんだごちそうさまなんだバカヤロウ!」

後半は自分でも何を言ってるかよくわからなかった。


すると不良Bが言った。

「なんか良くわからなかったけど……なあゼールト。俺らみんな一緒に冒険者になろうって決めたじゃん。そんでもしさ、雑魚だって舐めてた魔物にやられて誰かがが死んだとすんだろ。そんでよ、後からちょっと気をつけてれば避けられたってわかったら。俺、すげえ後悔すると思う。だから俺もっと勉強するわ」

そうだそうだ。俺はそれが言いたかったんだ。えらいぞ君は。

「シグム……」

ゼールトと呼ばれた不良は友人の言葉をかみ締めているようだった。

他の連中も黙っている。

「シグムの言うとおりだ。冒険者なんだからな。ゼールト。相手を雑魚だってのんでかかるくらいの方がいいが、それは油断とは違うぞ。いいか新人冒険者共、冒険者になって最初の1年で5人に1人は死んでる。理由は様々だがな」

先生が淡々と告げた。

5人に1人。

ということはこの講習生のうち誰か一人は一年以内に……

「おまえたちはその1人になりたいか、それともその1人を救う方になりたいかどっちだ?」

Bランク冒険者の言葉は重みがちがう。


「先生。俺が悪かった。ごめん。そうだよな。俺、真面目になるって決めたんだものな」

ゼールト君は意外に素直なヤツだった。

他の皆も姿勢を正している。

先生もうんうんと頷いている。

やっぱり昭和のヤンキー学園ドラマみたいだ。

不良が真面目になって大会を目指すみたいな。

ここには甲子園もラグビー場もないだろうけどな。


「ところで俺は冒険者は長いが、ホーンラビットに殺されたヤツは知らないな。まあ油断はよくないけどな」

苦笑しつつゾラさんが言う。

「はぁっ?!」

ゾラ先生~!

俺の立場は~?!

俺の役どころってナニ~?!


その後、昼食は教室で皆で食べた。

なんだかゼールト達ともけっこう仲良くなってしまった。

講習後にはゾラさんが冒険者の心得だとギルド近くの居酒屋に連れて行ってくれた。

次の日はアンファングの防具屋や道具屋巡りもしたりと、とっても楽しかった。

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