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第1話 冒険者になろう

「アンファングにようこそ」

門衛の若い兵士さんに入町税を払って町の門をくぐる。

「こんにちは! お邪魔します!」

挨拶したら笑って手を振ってくれた。

石壁のトンネルを抜けると中はたくさんの人が溢れる町だった。

入る前から人が多かったけどね。

アンファングの人口は数万人らしい。直径数キロの環状城壁の中に町があって、壁の外にも新しい町が広がっている。


「ここが冒険者の街アンファング……すごく賑やかな町ですね!」

俺はこの町が遠くに見えて来た時から興奮しっぱなしだった。

だって城塞都市だよ。岩の壁がぐるっとだよ。

ここまでいくつかの村や町を通ってきたが、こんな巨大な町は始めてだ。

周りを石造りの壁で取り囲まれた、まさしく中世の都市って感じだ。


「王国東部で最大の町だからね」

犬獣人のグリアスさんがにこにこしながら答える。

そう。グリアスさんは獣人族の人だった。

待ち合わせの最初の村で知らなくて驚いちゃったよ。

マテウスさん。俺が獣人族を見たこと無いの忘れたのかな。

ううん。きっとびっくりさせようと思ってたんだろう。

「さあこっちです」

グリアスさんは体つきは大きいけど犬耳で愛嬌のある人だ。

見た目は人族とあまり変わらないが、カチューシャではない獣耳や尻尾が特徴だ。

リアル獣耳だもんな。

はじめて会ったときはおどろいた。

おっさんなのがなんだったけど、すごくいい人だ。


マテウスさんとランジュに別れを告げてから約2ヶ月後。

ついに俺は冒険者の町アンファングにたどり着いた。

道中は街道騎士団の移動についてきたので危険はほとんどなかった。

王国の主要街道には「移動市」と呼ばれるものがある。

街道騎士団に護られながら集団で移動するのだ。

うん。樽に入ってた時に思った「市場へ続く道」って正しかったな。

急ぎで無い旅人や商人は、この移動市で街道を行くのが一般的だ。

移動市は立ち寄った村で売買をしながら人が減ったり増えたりしたけど、常時百人くらいはいたかな。

俺が通ってきた街道は行き来する人が少ない方で、王都を通る東西街道はもっと人が多い。遠い国には数万の人々が纏まって街道を行く巨大な「移動都市」もあるらしい。ほんとかな。


道中では魔物が出たけど騎士団があっさりやっつけてしまった。

俺はびびって逃げ出したかったけど、これも修行だと思って騎士団の活躍をしっかりと観察した。

うん。戦うのはまだまだ俺では無理だった。危険すぎるぜ。

俺ができたのは魔法を覚えることだった。馬車で魔法の教科書なんて読めないのを知ったのは、すっごい乗り物酔いをした後だったが。

移動の合間に二つ覚えた。

乾燥させるドライ。

魔法の明かりを灯すライト。

これで全部で7つ覚えたことになる。


それから馬に乗れるようになった。

馬なんてテレビでしか見たことの無かった俺がである。

きっかけは俺が馬車移動がつらそうだったのを見て、せっかくなので乗馬や御車の仕方を覚えてはどうかとグリアスさんが勧めてくれたことだった。

移動市に居た乗用生物を扱う商人さんとグリアスさんが知り合いで実現したことだ。

もちろんお金はかかったけど毎日教えてくれるし、なんと走竜にも乗ることができた。

走竜はこれぞファンタジー乗物って感じの生物だった。

見た目は緑色の鱗と白い羽毛を持った鳥と竜が混じったような感じで、けっこう大きいし怖い。

短い前脚と力強い後脚があって、後脚で二足歩行をする。長い尻尾でバランスをとりながらすごいスピードで走ることができる。山や荒地にも強い。

訓練すれば速さと強さを兼ね備える優秀な騎竜ともなり、街道騎士団にも数騎いる。


始めて走竜に乗る時に俺は思った。

これってあれでしょ。俺が手を差し出すと「おお、あの気の荒い走竜がまるで猫の懐いている!」って驚かれるパターンと思ったら、腕かじられて痛くない痛くないってパターンだったって思ったら、痛くないなんて無理だった。

めっちゃかじられた。

そりゃ知らないやつが手を伸ばしてきたら噛まれるか。

それから走竜師さんの指導のもとで乗らせてもらったけど、当然ちゃんと動いてなんてくれない。乗り方が下手ってのもあるけど、走竜は乗る人が怖がっていると嫌なんだそうだ。

落下の衝撃を和らげる魔法のかかった馬具のおかげで大怪我をすることは滅多にないが、やっぱり落馬は痛い。それに走竜のスピードは馬の倍と恐ろしい速度を出す。それでも怖がっていてはだめだった。


臆病だともったいないぜ、と走竜師さんが教えてくれた。

臆病さは時に不利益になるのだと。

彼はかつて走竜レースの騎手だったそうで、華麗なテクニックと闘争心溢れるライディングで大きな大会を何度も優勝した名騎手だそうだ。

走竜レースでは魔法の馬具を使用していても稀に死者が出るという。

それでも彼は言った。

「一緒に走るって気持ちになると走竜ほど素晴らしい生物はないんだぜ」と。

よし、勇気を出すんだ俺。

俺の受身はマテウスさん譲り。

馬から転げ落ちること数回。

走竜から転げ落ちること数十回。

俺は元名騎手さんの素晴らしい指導を毎日受け続け。

「転げ落ちることにかけては異世界級なんだぜ俺は!」の開き直り精神で頑張ったかいもあってか、なんとか乗れるようになった。

ヒャッハー。地平線の果てまでぶっとばすぜの心意気で走ったら、走竜も爆走してくれた。

あのスピード感とスリルは凄い。

草原を走竜と一緒に駆けるのは最高だ。

ぜひまた乗りたいものだ。

ちなみにグリアスさんも走竜に乗れる。特急で届け物をする商売もあるそうだ。

走竜の宅急便というわけか。

御者の真似事も少しだけできるようなったし、移動市はとても勉強になった。


「お世話になりましたグリアスさん。ありがとうございました」

グリアスさんは昔、少しだけ冒険者をしていたそうで登録のことを教えてもらったり、移動市では走竜師さん以外にも旅鍛冶や商人に紹介してもらって道具を揃えるのを手伝ってくれたりと、大変お世話になった。

商人になって15年くらいだそうだ。多くのから信用されているのがよくわかる。行商をしながらあちこちを行き来して人脈を広げて、資金を貯めているという。


「こちらこそ、道中楽しかったですよ。ぜひまたお会いしましょう。何か私に出来ることがあればお手伝いしますよ。商人ギルド経由で言付けてください。時間はかかりますが連絡は届きますから。では幸運を」

グリアスさんはすぐに別の町に行くのでここでお別れだ。

「はい。ありがとうございます。グリアスさんにも旅と商いの幸運を!」

どんなもんだい。こういう別れの文句。

なんか俺も旅慣れた感じするぜ。

グリアスさんと別れて俺は一人になる。

今からが本当の冒険生活が始まるのだ。

ああ不安だ。


教えられた場所を目指して歩く。

ここアンファングは二つの街道が交わる交易都市だが、周囲に森林や荒地に湿地、遺跡や洞窟などが有り、魔物も出るため昔から冒険者達が多く集まった。そのため冒険者の街ともいわれている。

通りには人以外に獣人や亜人も多い。


あ、あれは?!

ホットパンツ猫耳女性きたぁぁぁぁ。

グリアスさんは犬耳だったし、男だったからすまんが俺的にはノーカウントだ。移動市には獣人女性も何人かいたけど、すげええ、めちゃくちゃかわぇぇ。尻尾がしっぽがぁぁぁっ。


いかん。興奮しすぎて通報されるレベルだ。

俺は深呼吸してから歩いた。

おぉぉっぉ、あれはエルフ、エルフじゃぁぁ。

すげえ美形だ!

これで外人さんのコスプレじゃないとかすごすぎるよおおお。


落ち着け俺。

あれはドワーフだ。髭だな。

ドワーフ族の旅鍛冶師が移動市にいたので既に見ているから興奮しなくて済むな。

あの小柄な人はニンブル族っていう小人族だ。移動市にもいた。

あの人は狼獣人かな?

うわわー。なんであの女の人あんなボインなんだろう。乳牛族なの?

蜥蜴人の戦士とかも歩いてる。めっちゃ強そう。

この町は異世界感が半端ないぜ。

俺は興奮したり、すごくきょろきょろしながら雑多な人ごみを抜けた。

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