第2話 アンファング冒険者ギルド
ついに俺は訪れた。
石造りで3階建ての体育館くらいある大きな建物。
ドアの開け放たれた入口の上の大きな看板には剣と杖と袋の図案が有り、こう書いてある。
「アンファング冒険者ギルド」と。
どきどきだ。
ファンタジーもののド定番、冒険者ギルドに俺は来ている。
今から冒険者として登録するんだ。
ど、どうしよう。
新人に絡んでくる柄の悪い冒険者とかでてきたりするのかなあ。
そんなときは懇切丁寧に謝ろう。
受付嬢は超美人とか。いやいやおっさんだったりして。
ああいろいろ想像してしまうぜ!
よしっ頑張るぜ!
気合を入れた俺はギルドの中に足を踏み入れた。
1階は大きなホールになっていた。
長いカウンターがあって受付らしき人が冒険者達と話をしている。
その奥には机が並んでいて、かなりたくさんの職員らしき人が居た。
なんか市役所みたいだ。
ホールにはテーブル席があって何人かの冒険者達がこちらをちらりと見てきた。
うわあ。いかにも荒くれ冒険者って感じでおっかねえ。
壁やボードにはメモのような紙がいっぱい張ってあって、それを見ている人たちもたくさんいた。あれが依頼票ってやつだろうか。
まずは空いているカウンターに近づく。
番号札はないかとと思っていると、奥の猫耳少女が立ち上がった。
NE・KO・MI・MI!
ここのギルドはいいギルドだと俺は瞬時に理解した。
だって受付にネコミミちゃんがいるからだ。
隣の上司らしき男性に笑顔で促されるとネコミミちゃんはこっちに来た!
「い、いらっしゃいませ。アンファング冒険者ギルドへようこそにゃ! 新人のルナです。よろしくお願いしますにっ。冒険者の手続きですかぁ」
そのルナさん。気合を入れすぎて声が裏返っていたし、にゃって言ってた!
猫耳少女がにゃって言ったにゃ!
「は、はじめまして。リョータです。はい、冒険者登録をお願いするので僕も新人です。よ、よろしくおねがいしますっ」
俺も声を裏返しつつ、頭を下げた。
ルナさんの上司っぽい人が苦笑している。
ホールにいた古株っぽい冒険者さんたちも笑ってる。
注目されて恥ずかしい。
「はい、ではまず。犯罪歴は無いですね?」
「はい。無いです」
ほんとは駐車違反で罰金くらったことあるけど、ここには自動車なんて無いからノーカウントでいいよね?
ルナさんは手に資料を持って一所懸命説明してくれた。
登録料は5万エルドで小さなプレートを発行してくれる。
日本円だと5万円くらいだな。
これがギルド員の証明になる。
持ち主が触って念じた時のみ記録されている名前やランクやホームギルドなどを浮かび上がらせることができるため、身元証明にもなる大事な物だ。
冒険者はSS・S・A・B・C・D・E・Fのランクに分かれる。
まずはFランクからだ。
ふっ、俺には相応しいぜ……
ランクは規定数の依頼を達成すると昇格できる。
Cランクに上がるには昇格試験がある。
報酬は基本的に達成時に支払われる。
何割かはギルドが運営費として取っていて、代わりに冒険者の身元証明や契約トラブルから護ってくれるわけだ。
それから依頼中に犯罪行為をすると厳しい処罰がある等々の説明を受けた。
「何かご質問はありますか?」
その猫耳は一体どうなっているのか知りたいけど。
「依頼って失敗したらどうなるんですか? 罰則の規程とかはどうでしょう」
リスクの確認もしておかないとね。
「にゃっ、失敗の時ですか。えっと」
にゃって言うのがかわいいいい。
いきなり依頼失敗のことを聞いたのでルナさんが資料をめくっている。
すると近くにいた青い髪の男性が言った。
「登録前に用心深いな。いいことだよ。私はキノ。よろしく新人君」
「リョータです。よろしくおねがいします」
キノさんはルナさんに資料の部分を指し示した。
ルナさんが読み上げる。
「えっと。常時依頼の素材採集や魔物討伐は成功報酬なので報酬がもらえませんし、失敗や成果評価がマイナスばかりだとランク降格もあります。特定依頼、例えば護衛依頼は保証金をギルドに預けてもらいます。万が一、護衛対象が冒険者のミスや違反で大きな不利益を蒙った場合は保証金で賠償を行います。また冒険者に罰則や罰金がかかることもあります」
なるほど。冒険者が保証金を預けるんだ。
護衛と偽って商人を殺してしまうのを防止するためだろうか。
「他にありますか?」
「んー。わからなかったらまた聞いてもいいですか?」
「はい。いつでもどうぞ」
今すぐその耳がどうなってるのか質問したいけどぐっと堪える。
「ありがとう。では登録おねがいします」
「文字はかけますか? 代筆も可能ですよ」
文字の勉強はしたもん。大丈夫だもん。
俺は名前と年齢と何が出来るかなどを書いた。
書きたくないことは書かなくていいそうだ。
うん。出身地なんか書けないし。
自動車免許とかパソコン検定とか書いてもなんじゃそりゃだし。
冒険者は依頼票を見て自分で仕事を請けるが、ギルドが冒険者の登録内容から絞り込んで依頼をすることもあるそうだ。
まあ、俺は書けることが少ないので関係ないし、変なことを書いて注目されて俺が異世界人だとばれるとまずい。
そんなわけで俺は簡単に冒険者登録書に記入していった。
名前 リョータ
年齢 28才
種族 人族
性別 男
戦闘方法 盾と剣
魔法 生活魔法
言語 コモン語(読み書き会話)
話せる言語はコモンと呼ばれる共通語。
名前と年齢と使用武器。
それから使える魔法だけど、生活魔法と書いておいた。
この世界では新年に皆が歳を取る。
マテウスさんとランジュと誕生祝いをしたっけ。
なので俺はもう28才……
魔法使いにまた一つ近づいた……
あっ。もう生活魔法使いになってるんだった。
その他の出生国や剣の流派などは、ギルドが個人に依頼を斡旋する場合があって、その時に登録内容で依頼に合った人材を選ぶためだそうだけど、書かなくてもいいらしいから書かないでおく。
もちろんステータスウィンドウのことは伏せておく。
ちなみにステータスウィンドウは今はこうなってる。
28才
体力 72/72
魔力 30/30
状態:異常無し
筋力 13
器用度 14
敏捷度 12
生命力 13
魔力 5
<ウィンドウカスタム>
魔力以外が上がったのは嬉しかった。
このペースで行けば俺はやはり最強剣士に!
と思ったけど。これはあくまで身体状況の数値化だ。
どこまででも上がるものではないというのが俺とマテウスさんの見解だ。
マテウスさんが俺の筋肉や動作と、自分やかつて教えた剣士などを比較した結果で、恐らく正しいのだろう。
マテウスさんとあれこれ考察した結果。
人族の平均値は12前後で最高値は20くらいみたい。
持って生まれた身体的素質と鍛錬で変動するが、今まで不健康と鍛錬をしなかった俺が、ポーションと修行の結果で普通に数値が上がっただけで、人類を越えてゆくわけではないのは残念だ。
さらば人外の強さを持った最強の剣士よ……
他人のステータスが表示できたら便利だけど、当然俺にはそんな素敵な能力は無かったよ。
このステータスウィンドウを出すのは俺専用の固有魔法なんだぜ。すごいだろ。表示対象も俺だけだけどな! なんて固有過ぎなんだ……
使える魔法や持物や技なんかも表示されないし。
ウィンドウの表示形式を変える項目は<ウィンドウカスタム>のところに纏めた。触って念じると拡大されて各項目が現れる。
ウィンドウの大きさと色、文字の色が変更できる。
ウィンドウの明るさを変えたり透明化したりもできる。
実体化と非実体化ができる。
例えば他人からは不可視にしたり、実体を持たないようにして人に表示を見せたりなどが可能だ。
ちなみに体力をHPにするとか、筋力をSTRにするとかも出来る。
今ある項目を変えることは可能なわけだ。かっこいいけど、わかりにくいから日本語に戻したけど。
そもそもこの能力値の数値化ってあんまり意味がない。
だって、筋力っていっても素早い動きに対応できる即筋と持久力のある遅筋とかがあるけど、そこまで表示されないし。あくまで俺の力はこれくらいって目安みたいだ。
「どうしました。やっぱり文字が?」
ぼけっとしてたらルナさんに言われてしまった。
「いえいえ。書けます! けど書くことがあんまり無くて。これでいいですか?」
「はい。えーと」
「汚い字だなあ。代筆しようか?」
横から覗き込んでいるキノさんに言われたよ、またか……
「すいません」
「冗談だ。文字をかけない人もいるからね、君はまだましさ。ルナ、書類に不備はないね?」
「にゃっ。驚きです。リョータさんこれ本当ですか?」
驚いてもにゃって言うのかな。なんてかわいいんだ。
って俺、何か驚かせるようなこと書いてた?
まさか生活魔法って実はすごいとか――
「28才なんですか。私よりもずっと年上なんですね。10代なのかと思ってましたにゃ!」
ああ、そっちかーい。
「すいません。28なんですがまったく経験がないので、どうぞご指導ご鞭撻のほどよろしくおねがいします」
「うーん。礼儀正しいなあ。冒険者には珍しいタイプだ。俺のことはキノでいいよ」
「あ、ありがとうございます。キノ……さん。やっぱり年上には呼び捨てなんて出来ないです」
「ははは。まあ慣れたらでいいさ」
「わたしは年下なんですからルナで。リョータさん」
リョータさん、リョータさん、なんか俺の心の中ではエコーがかかっているように聞こえた。
リョータさんなんて女性から呼ばれる日が来るなんて。
「あ、はい。ルナさん……ルナ」
年下の女の子を呼び捨てにするのは経験済みだぜ!
人生で2人目だけどな。ぜんぜん緊張するけどな!
冒険者証が出来上がるまで、依頼票の見方と依頼の受け方を教わった。
「こっちがDEFランクの依頼です。常時依頼は薬草採取とか低ランクの魔物退治ですね。町の方からの作業依頼などもあります。ここから取ってカウンターに持って来てください。自分のランクより上の依頼も受けられますけれど、危険ですからあんまり無茶はしないでくださいね。Cランクの依頼はあちらのボードに張られています」
依頼はランクで厳しく制限されているかと思えばそうでもなかった。
「昇格試験もあるし冒険者だと認められるのはCランクからですか?」
「その通りだよ。冒険者だって威張れる。女性にもてるぞ」
「絶対頑張ります」
よし、目指せCランクだ。
俺が即答するとルナが苦笑していた。
「この薬草採取なんですけど、植物見本とか採取方法の解説本とかないですか?」
マニュアルは大事だぜ。
「はい。ギルドの2階に資料室がありますよ」
「よかった。見に行ってみます」
まずは知識からだ。
「あと。初心者講習はどうしますかにゃ」
「初心者講習?」
マテウスさんもグリアスさんからも聞いてないな。
アンファング支部だけのサービスだろうか。
訊ねると説明してくれた。
冒険者業には生死の危険がある。
そこで新人に基礎的な講習を行っているそうだ。
「ああ。昔はなかったんだけどね。効率よく依頼を達成して欲しいし、成り立ての冒険者の死亡率を減らすために出来た仕組みでね。依頼失敗が多いとギルドの収入が減るってのもあるけど、やっぱり冒険者の命が大事だから」
依頼達成率が低いと依頼主の不満も大きくなるし、ギルドの収入も減ってしまう。報酬の何割かはギルドが斡旋と運営の為に取っているけど、なるべく冒険者に還元しているし、何より無駄に冒険者が死んでしまうことを避けるために教育を行うという。
なるほどよく考えられているシステムだ。
「ぜひ受けた方がいいと思います、にー」
にっこり笑うルナがかわいい。
「じゃあお願いしようかな」
俺は金額も聞かずに講習に申し込んだ。
「ありがとうごさいます。では登録料とあわせて8万エルドですにゃ!」
「えっ」
「もうキャンセルはできないよ!」
「えっ」
にっこり笑うルナとキノさん。
さ、さすが異世界。厳しいぜっ。
俺はカウンターに8万エルド分の硬貨を置く。
次回の講習はちょうど明日から2週間だそうだ。
「他に何か聞きたことはありますか?」
「はい、大事なことが」
俺はどうしても聞いておかなければいけないことがある。
「なんですか」
ルナは緊張の面持ちで俺の言葉を待つ。
「安くて個室がある良い宿屋を教えてくださいっ」
二人ともずっこけそうになっていたが、ちゃんと教えてくれた。




