崖の中へ落ちないように
街を出た俺とシルフィーは、子羊を逃がしてしまったという場所にやってきた。
“シデリア山岳地帯”の麓に位置する小さな集落だ。人口はざっと50人程度ってところだ。
羊が何処へ行ったのかまったく予想できないな。…羊使いでもないし。
そもそもこんな所で羊を飼うなよな。俺のイメージではだだっ広い草原で飼うものだと思ってたのに。
「京夏?」
「何だ?シルフィー」
「あの人に『迅速に見つける』って言ったけど、何か策はあるの?」
「勿論。見つけるのは簡単だ。問題は持ち帰り方だ。魔獣なら平気なんだけど、動物は基本的に嫌いなんだよ」
困ったことに俺は羊には触りたくない。虫が嫌いな人が虫を触りたくないのと同様に俺もそうなんだ。俺的には虫の方が楽だな。踏み潰せるし。…ただ動物を踏み潰そうなんてことをしたら、動物好きが悲しんでしまうからな。
「大丈夫!私が触ってあげるから」
と自慢げに言ってくるシルフィー。滅多にない俺に勝てる点を見つけたようだが、何の役にも立たないぞ?
さっきから スタスタと歩き回るシルフィーの後ろを付いているが何か策があるのだろうか。この集落をもう3周は回っている。
「どうするの、京夏?」
「え?」
「どうやって迅速に捜すの?」
「何か策があるんじゃないのか?」
「無いよ、そんなの」
「じゃあ今まで何をしてたんだよ」
「……羊が思い掛けず戻ってこないかな〜って」
「そんな筈ないだろ」
またダメだったか。シルフィーに付いていくと、ろくな事がない。やはり俺がやらないといけないようだな。
「ここは俺に任せろって」
「うん、でもどうするの?」
「こう――」
俺は目を閉じて設定で“超音波探知”を使った。
その結果周りの羊とは明らかに離れたところに1匹羊の反応があった。
「見つけた。ここから10時の方向、500m先の崖にいる」
「なんで羊が崖にいるの?」
「それは知らないけど」
恐らくは逃げている時に足を滑らせたか何かして落ちて偶然にも崖から突き出した岩に助けられたってところだろうな。これを聞く限りだと面倒臭く感じるけど、見たらもっと感じるんだろうな。
向かうは目の前にある小さな山の反対側の崖だ。少し遠いけどそこまで高い山でもないし、あの虹の谷の時と比べたら楽だ。
「とにかくあの山を超えてみるか」
「話はそれからだね」
そういうこと!っと人差し指で指し、歩を進める。
◆ ◇ ◆ ◇
山を超えてその先を見てみれば、すぐに崖で、というか下で川が勢いよく流れているのを見れば地面が削られたのだと予想できる。
これは足を滑らせるというより、落ちたが正しいな。偶然にも足場があって助かったなんて運のいい羊だ。
「あそこにいるのって羊じゃない?」
と崖の下を覗くシルフィー。そんな事したら危ないぞ。
「そうだな」
「早く助けてあげて」
「いやだから、動物が嫌いなんだって」
「…あっ、そっか」
やっぱり忘れてたと思ったよ!
じゃあどうしようか。俺がシルフィーを持つ方法にしようか。
「よし」
「ん?」
俺は背中から翼を出し、シルフィーの腹部を片手で抱き抱えて飛び立った。
「んっっっっっっっっ!!!」
「おいっ、大人しくしてろよ。落ちたらどうするんだよ」
顔を赤らめて悶えるシルフィーを落とさないように強く抱くと、もっと暴れてきた。
「もっと他の持ち方はなかったの?」
「お姫様抱っこだと、お前が羊をどうやって持つんだ?」
「……」
返事はなかったが相変わらず顔は赤く染まっていた。
誰も見てないのに。




