酔い潰れたシルフィー
受け付けの冒険者の宿の女性から、報酬金を受け取った。今回の報酬は40マイン。あの“七色の花”を一切知らない人からすると難しい依頼かもしれないけど、真実が分かれば簡単すぎてあくびが出ちまうぜ。85マインまで残り…5マインか。
まだ、あと1回行かないと行けないのか。
とにかくシルフィーのところへ戻るか。
「お待たせ、シル…フィー?」
見るとシルフィーは机にぐったりともたれかかっている。その手にはまだ少量のお酒が入った木製のジョッキが握られていた。
「あ、おはえり〜」
「何だよ。酔っ払ってるのか。いったい何杯飲んだんだ?」
「一だよ〜ぉ」
一杯飲んだだけでこの有様かよ。5〜6杯飲んでても全然可笑しくないレベルに酔ってるのに。
これではまともに話も出来んな。
という事だから、今まで俺の後ろで棒立ちになっていた“エリー”という女性に宿泊している宿屋だけを教えておいた。
「シルフィーがこんな状況だから、明日でいいか?」
「えぇ、分かりました。では明日の朝に伺います」
冒険者の宿を後にすると、入り口ではエリーという女性がずっと頭を下げている。変に律儀なやつだな。
完全に酔い潰れたシルフィーをベッドに寝かせた。あぁ、俺も寝ようかな?
と思ったけど、少し突き出したベランダに出て空を見上げた。
魔王になろう決めたのは一年前だったはず。それなのに俺は今何をやっているんだ?カレー代を稼ぐって話だけど、実際は既に払っているんだぞ?…空想だけども。あと、5マインあれば代金と同じになる。あ、お釣りの15マインから5マイン使えば良くないか?
たしか、ポケットに入っていたはずと手を突っ込んでみるが、両方とも何も入っていなかった。何処かに落としてきたのかもしれない。何をしているんだよ、と自分に呆れた。
…もう寝よう。
◆ ◇ ◆ ◇
__翌日
快調な目覚めとともに2人とも起きた。合言葉のように「おはよう」と言い合い、ベッドから降りる。まるで兄弟かのように、ここまでまったく同じ行動をしている。ある意味凄いと俺は思った。
そんな事はさておき、シルフィーは昨日の酔いは収まっているように見える。
「まだ酔いが残ってるか?」
「昨日よりはだいぶ良くなった気がするけど…」
「ん?」
「昨日の記憶がないんだよね」
酔い潰れたせいで何も覚えていないのか?
二日酔いではなさそうだから、今日の仕事には影響なさそうで良かった。
「あと、お金どのくらい?」
「たった5マイン」
「あとそれだけなのね。じゃあ簡単な依頼で早く終わらせよ?」
部屋の扉を開けようとしたら、ノックが3回聞こえてきた。
こんな朝早い時間からルームサービスか?でも、昨日はなかったけどな。
「何でしょうか?」
シルフィーが扉を少しだけ開けてその人物に訪ねた。
「おはようございます。私はエリーです。少しお話があって伺いました」
「ルームサービスでしょうか?」
「違います。お話です」
さっきエリーって言ったよな? 俺は宿泊してる宿屋しか教えていないはずなのに、どうやって部屋まで?
まぁーいいか。
俺の方から会いに行く手間が省けた。




