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錬金術士のアトリエ

「盗賊のアジトって言うと、もっと鬱蒼とした廃墟ってイメージなんだけど…どう言う事?」


「どう言う事も何も…うーん、盗賊業は副職みたいなものだからねー」


「へー、そう言うものなんだ」


トニの後ろに付きながら、私はバケツを手に長い廊下を進んで居た。

貴族の持っている屋敷とか…きっと、そう言う感じなんだろうなと思っていると、後ろから怖い声が聞こえて来た。


「おいコラ、ちんたら歩くな蹴っ飛ばすぞ」


「ええぇー、私トニの後ろにくっ付いて歩いてるだけですけどぉー」


「間延びした声出すな!良いからさっさと歩け…いや、もう貸せっ!!」


「ああ!」


ボスはこめかみに青筋を浮かばせながら私の持っていたバケツをひったくるとそのまま廊下を真っ直ぐに進んで行った。


「……そんなに私歩くの遅かった?」


「ううん、普通だと思うよー?多分ボスってば、女の子をどう扱って良いか分からないんじゃないかな?」


「そんなものかー…あ、こっち持つね」


「ありがと」


トニから木箱を預かって歩いていると、正面から戻って来たボスが「まだそこに居たのかよ!!」と叫びながら、また私の持っている木箱をひったくろうとする。


「ボス」


「あ、あん?なんだよ…」


瞬間手が止まって、アチョーな感じで私を見る。

銀髪銀目のイケメンがそんな格好している事に本当は笑いたかったけれど、それに頑張って耐えて私は言った。


「私もそれくらい持てるし…大丈夫」


「……お、おう…そうか」


あからさまにホッとしたように肩を落とすと「荷物運び終わったらダイニングに来いよ」と呟いて立ち去った。

そして立ち去ったボスを見つつ、階段を上がり切るのを見計らって私はトニへ視線を送る。


「…ホッとしてたね」


「確実にホッとしてた」


二人で同時に呟くと、私達は笑いながら荷物を運んでダイニングへと向かおうとして、その手前でトニに手を引かれて立ち止まる。


「…ん?」


「服…着替えようか?」


ふわりとブラウンの瞳を細められ、私は拒否せずに。

言われるがまま服を着替えた。


着替えを済ますと「うん、似合う」とまた微笑んで私の手を引くと、今度こそダイニングルームへと連れて行かされた。


「おう、遅かったな……」


扉の方を凝視しながら固まるボスと、その他部屋には三人が居て…私はぺこりとお辞儀する。


「初めまして、落ちて来た黒髪ことナナミです」


「初めまして、私はボスの右腕ことリーチェと申します。

こちら右からヴォルノバ、ザインです」


「よう」


「……」


暗い灰色の髪で右手を上げたのがヴォルノバさん、大きな赤い髪の男の人がザインさん。

なるほど、覚えた。


「おやおやトニ、ボスから聞いて驚きましたよ」


「あ、もう聞いた?なら説明要らないよねー。

今度から僕の部屋でナナミは一緒に暮らすか…ら、らら、痛い、リーチェ、すっごく痛いー」


ぶにっとトニの両頬を引っ張りながら、クリーム色の髪と空色の瞳を持つリーチェさんは微笑んで言う。


「な、に、を!言ってるんでしょうかねえこの子は!!

貴方の部屋の掃除は一体誰がしていると思っているんですか!!

放って置けばすぐに散らかして…今回も貴方が長期出張中だと言う事で片付けておきましたけれど、本当に酷い物だったのですよ!!」


強烈なオカンが炸裂しており、私は瞬時に固まった。


「ようよう、初めまして黒髪のお姉さん。

まさか商品として売ろうとしてた奴連れて帰って来るなんて…トニも無茶するよねえ!」


「……いらっしゃい」


「あー…あっはは、どうも黒髪は目立つみたいで。

詳しく知らんのですけど、どうもよろしく」


微笑んでそう言うと、ヴォルノバさんは「うんうん」と笑顔で頷く。


「良いじゃん良いじゃん女の子!!リーチェもトニも可愛い顔してるけど男だもんなー。

この屋敷も華やかになって、俺は大歓迎!」


「……」


ううん、チャラい。

私は曖昧に微笑みながらほっぺを引っ張られているトニへと視線を向け。

未だ固まっているボスへと駆け寄る。


「ボス、ボス。ちゃんと起きてる?」


「ハッ」


ぶんぶんと手を振ると、私の服を凝視する。


「トニが出してくれた」


「ああ…確かにあいつの趣味だな」


即答で返って来た答えに、私はなるほどと一つ頷く。


ふんわりしたシフォン素材のブラウスに綿の緑チェックのパンツ。

正直この道中に着ていた真っ黒なドレスよりは動きやすくて好きだ。


「動きやすいよ、何でも出来る気がする!!」


ぐっと握り拳を作ると、ボスは視線をずらして溜め息を付いた。

それに首を傾げていると後ろからひょいとヴォルノバさんが現れて「めっずらしー」と口笛を吹く。


「へえー、今まで寄せ付けなかったのに…トニが絡むからなんか錬金術系の知識持った子だと思ってたけど」


「錬金術?」


「そう、トニ。錬金術師」


「へえ…本当に居るんだあ」


不思議な雰囲気に納得して頷くと、どうやらあっちもお説教は終わったようだ。


「ナナミさん、こちらへ」


「はあい」


しゅたっと手を上げリーチェさんの元へ駆けて行くと「貴女は本当にトニにくっ付いていて良いのですか?」と確認された。


「うん。だって私、帰りたいから」


「それは…自分の居た世界にですか?」


「もちろん!だけど私だけの力じゃダメだろうってことは説明されて分かったの。

トニは私の事心配してくれてるだけじゃなくて調べたいって事もちゃんと教えてくれたから信じようと思って。

だからトニを信じてるみんなを信じようって決めたの」


荷馬車で走る風景を見ながらたくさんの事を考えた。

私はこの盗賊さん達にすべてを賭けても良いのだろうと思えたのは、やっぱりトニの一言があったからだ。

だけどそれは、私が裏切られても許せると言う意味で、帰れないこの一時は誰かに頼るしかないからだ。


「それに盗賊って私の居た世界には居なかったから、どんな事するのか気になるもん!!」


「まあ…褒められた事では無いんですがね」


「別に良いよ。トニに言われたように薬漬けにされて意味分からないまま人形みたいに死ぬよりはいくらかマシ!」


そう言うとリーチェは微笑んで「見た目にそぐわず豪胆ですね」と褒めてくれた。


「良いでしょう、ナナミには新しく部屋を用意します」


「え?私別にトニと一緒でも良いよ?」


「住めませんよあんなところ…よく分からない薬はひっくり返ってるしそこらのリュックからは得体の知れない何かの毛が飛び出てるし、窓辺で育てられているはずのハーブも見た事無い形に仕上がってますし」


目がどんどん死んで行くリーチェを、私は可哀想に思った。

そっと後ろに視線を向けると、ヴォルノバさんとザインさん、ボスがうんうんと納得したように頷いている。


「確かに俺達の貴重な収入源ではある…んだが、俺はあの部屋に寝泊まりは出来ない」


「俺も俺も!きったないしー、ネズミとは共存してそうだしなー。

ザインはまず部屋に入れないんだけど」


「……ああ」


「そんなに汚いんだ」


私の部屋も人を呼べるものでは無かったけど…そんな物なのかなあ?


「とにかく!今から部屋を用意しますからナナミはそこを使って下さい。

これだけ大きな屋敷ですから、迷わないように常にトニと居る事。

あと、何か分からなくなったら私かトニへ聞いて下さい」


「はい!」


「それでよろしいですか?ボス」


「ああ」


こくんと頷いたボスは、そのままダイニングルームを出て行った。

その後ろにリーチェが続いて、ヴォルノバさん、ザインさんとトニはその場に残った。


「何しに行ったの?」


「ああ、今回盗んで来た情報と盗品の確認と、溜まってた書類やらなんやら片付けに。

ボス一応それなりにやんごとない立場の人間だから」


手を振って軽く答えたその答えは、私の常識からいうとかなり矛盾していたけれど「そうなんだ」と私は納得しておく。


「トニ、トニ」


「なあに?」


「トニの部屋行きたい、錬金術ってどんなの?」


「ああ、来る?リーチェが片付けてくれたからそれなりに綺麗だと思うよー」


ふんわりと微笑んで、トニは私の手を取るとダイニングルームを出る。

後ろ手にヴォルノバさんとザインさんに手を振って、私は人生初…錬金術師のアトリエへと足を踏み入れた。

ダイニングルームから真っ直ぐ、廊下の突き当りにその部屋はあった。

一般的な木製の扉に、ドアノブ…ここまでは何も不思議なところは無い。


「はい、いらっしゃいませー」


きぃ…とドアノブを捻って現れたそれに、私は声を大にして叫ぶ。


「釜!!!!!!」


「うん、釜ー。僕達錬金術師は、お鍋だったり釜だったりで煮だしたり焼いたりして成分を分解、再構築して別の物を作りだすんだよ」


そう言って進んで行くトニに付いて行きながら、私は部屋にある棚やツボを見て「わあー」と小さく声を上げた。


「僕の錬金術は一応ここの資金になるから、僕は良くアトリエに籠って色々作ってるんだ。

日用品、食べ物、鉱物なんかも作れるよ」


笑うトニの言葉を聞いて、私は棚から出ていた何かの尻尾を見て固まったのだった。



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