第111話 走馬灯
「ピレン!? 貴様、さては偽物だな!」
「そうですよ~? 昨日の夜にこっそり入れ替わりました~。 勿論、本物は既に死んでますよ~?」
ピレンの顔と声でサードの独特的な喋り方にブラックは驚き、手元が狂う。
「サードなの?! ありがとー! めちゃくちゃピンチだったよー!」
「ちっ! おいクロモト! いい加減起きろ!」
ブラックが懸命にサードと戦闘している間にも、クロモトは熟睡しておりこの騒ぎでも全く目覚める様子は無い。
「無駄だよ~? そこの糞ゴミさんはセカンドの毒で眠るように死んでる筈だからね~」
「なにっ?! くそっ! ルミニス様、どうかご助力お願い致します!」
既にクロモトは暗殺されていたと知ったブラックは空に向かって懇願した。
「遅い! 陛下に行った蛮行の数々、死んで詫びなさい!」
到着したメリーがブラックの首を手刀で落とそうとしたその時、突然サードとメリーの身体が宙に浮いた。
「がっ?!」
「ぐっ!?」
2人は見えない何かに首を締められ空中に持ち上げられているのだ。
「ルミニス!? 止めて! 2人を離して!」
マリだけはルミニスの姿が見えている。
突然現れたルミニスは両手をかざし見えない手で2人の首を締め続ける。
『え~? ダメよぉ~だってコイツ等は魔族だもん。 私から愛しい人を奪ったゴミクズを殺さない訳ないじゃぁぁぁぁぁん!』
声は聞こえるのか、2人は見えない手を必死に殴るが効果は無い。
「隊長! サード!」
ファーストとセカンドも2人の状況には気付いているが、精霊人形の相手で必死だ。
30人の近衛師団の兵士達は既に全員セカンドの手により殺されており、ファーストの応援に向かったが4体の精霊人形を相手に苦戦を強いられていた。
『ほらブラック、何してるのぉぉ~? 早くマリを殺してあげないと~! お昼過ぎてるよぉ~? 早く早く早く早く早く早く早く早く早く殺せぇぇぇぇ!』
真っ黒な目を細め、頬まで裂けた満面の笑みを浮かべたルミニスがブラックに命令する。
「た、直ちに!」
ブラックが剣を振り、遂にギロチンのロープは切られ重い音を立てて巨大な刃がマリの首目掛けて落ちてきた。
メリーとサードは血を吐きながら必死に暴れ、ファーストとセカンドも身体を斬られるのも構わずマリの下へと走り出す。
フォースはアバン皇帝を片手で振り回し、フィフスは知らない内に接近されていた精霊人形達との戦闘に入っていた。
全ての動きがスローモーションになったその瞬間、マリの瞳が金色に光り知らない記憶の走馬灯へと意識が遠くなる。
◆◇◆
綺麗な庭園で可愛らしい少女と若い執事が立っているのが見えた。 真理の意識はぼんやりとしており、ただ見える景色を黙って見ているばかりだった。
「ねぇ、ジャック。 こんな私に平然と叱りつけるのは貴方だけよ?」
「全てはマリ様の為でございます」
どうやら昔のマリとジャックの記憶のようだ。
「ふ、ふんっ! そんなの……知ってるし」
幼いマリは頬を赤らめ、若いジャックにそっぽを向いた。
「……? マリ様、そろそろ女王教育のお時間です。 参りましょう」
「えー? 母上、女王教育の時だけ厳しいもん。 やだ! 行かない!」
若いジャックは溜息を吐きながら幼いマリを抱え、お姫様抱っこのまま連れて行く。
「ちょっとジャック!? もー! 私を誰だと思ってるの! このエントン王国の時期女王なのよ?!」
「だから、お連れするのです」
黙々と歩く若いジャックの後ろを真理は付いて行く。
「ねぇ、ジャック」
「はい、マリ様」
幼いマリは顔を真っ赤にしながら呟いた。
「私の事……好き?」
若いジャックも顔は真っ赤だが、その表情は固かった。
「私は……マリ様の執事です。 それ以上でもなければそれ以下でもありません」
「……意気地なし」
真理はぼんやりとしながらも、甘い砂糖を口から吐き出しそうな程に幼いマリと若いジャックは両想いに見えた。
「じゃあ、1つ約束しなさいよ」
「なんなりと」
「言ったわね? よし、じゃあ約束! 将来、私が女王となった時もずっとずっと私に仕えなさい! 勿論、私が誰かと結婚したりしてもよ?」
暫し沈黙した若いジャックは答える。
「……勿論です。 お約束します」
幼いマリは頬を膨らませながら、ジャックの首に手をやり抱きしめた。
「マリ様!?」
唐突な幼いマリの行動に思わず若いジャックはたじろぐ。
しかし、幼いマリの顔見て若いジャックは歩みを止めた。
「あと……私が危ない時には必ず助けに来てくれるわよね?」
頬を膨らませながら、少し涙目の幼いマリに若いジャックは様々な感情を無理矢理押さえ付け笑顔で応える。
「約束です。 マリ様が危ない時、必ずこのジャックがお助けします」
「うふふ、約束だからね。 ずっと、一緒に居なさいよ」
「はい」
◆◇◆
笑い合う2人の姿は幻の様に消え、次の瞬間には目の前にマリが立っていた。
周囲はまだ時が止まったままだ。
しかし、目の前のマリは止まっておらずギロチンで動けなくなっている真理を同じ顔をしたマリが見つめる。
「ふんっ……なんて顔してるのよ」
「あ、貴女は……マリ?」
真理は声を絞り出す。
「当たり前でしょ? でも、今はそんな話をしてる場合じゃない。 さっさと名を叫びなさい」
「名……? 誰を?」
「……分かってるでしょ? いい? アンタが誰と恋仲になろうと知ったこっちゃないの。 でも、アンタの中にあるこの想いだけは絶対に忘れないで……もう時間よ」
マリは煙のように姿を消し、残されたのは処刑台で身動取れないマリだけになった。
怖い程にマリの心は落ち着いており、誰の名を呼べばいいか自然と湧き出る。
(分かった、分かってるよ。私がマリになった時からずっと貴女は此処にいたんだね。 うん、大丈夫……貴女の想い受け入れるよ)
そして時は動き出す。
「ーーーージャック、助けてっ!!」
刃がマリの首に当たる直前、空から風切り音が響き渡り直後にギロチンが吹き飛んだ。
マリは思わず目を閉じていたが、誰かに抱きしめられている事に気付き目を開ける。
「お待たせしました、マリ陛下」
どんな無茶をしたのか全身傷だらけのジャックがマリを抱きしめていた。
「さぁ、陛下。 エントン王国に帰りましょう」
優しく微笑むジャックにマリの鼓動は早くなる。
「来てくれたんだね。 ありがとう」
「約束しましたから。 必ずお助けすると」




