第105話 酔っ払いは人形にも絡む
メリーが部下達を説教している頃マリはがむしゃらに部屋で暴れ、壮大に駄々をこねていた。
「だーかーらー! お酒が飲みたいのー! 飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい!!」
騒ぎを聞きつけたブラックが頭を抱える程だ。
「一応、元とは云え女王だったのだろう!? 何故そんなにみっともなく振る舞えるのかね?!」
「だって……飲みたいんだもん」
「もんじゃない! しかも、仮にもまだ少女だろう?! 普段、どれだけ酒を飲んでいるんだこの小娘は!」
ブラックが怒鳴るが、マリとしては知ったことではない。
明日の昼には処刑される身分なのだ。 外聞も恥も無く、メリーの迎えが来るまで暇なのを酒で誤魔化すのだ。
「お願い! お酒飲めたら静かにするから!」
「っ……本当だな? 奥の部屋ではクロモトが作業中なのだ。 あの御方を怒らせたくは無い……仕方ないか」
遂には屈したブラックが酒を取りに部屋を出る。
残されたのは満足気なマリと、ずっと無機質にマリを見つめる人形達だけとなった。
◆◇◆
「ほら、これだけあれば充分だろう? さっさと飲んで、静かにしていろ。 私は仕事があるんでな」
ブラックは台車に大量の酒瓶とグラスを運んで来た。
それらをマリに引き渡し、再度ブラックは部屋を出ていく。
「あ! ブラックさん、最後に聞いてもいい?」
「はぁ……何かね?」
うんざりした様子のブラックにマリが問う。
「キャベル女皇帝を何で裏切ったの? 宰相なんでしょ? 裏切っても、ブラックさんに得ある?」
ブラックは目を見開き硬直する。
「……私は、ゴルメディア帝国に忠誠を誓っている。 全ては帝国の良き未来の為だ。 その為なら何を犠牲にしても構わない……それだけだ」
暫し沈黙したブラックは横目で精霊人形達を見た後、マリの言葉を待たずに部屋を出て行った。
「ふ~ん、ありがとね~」
マリはそんなブラックの様子を気にする事もなく、貰った酒瓶を空けグラスに注いでいく。
「ごくごくごくごく……ぷはぁー! おー、これ初めて飲むお酒だ~はじめまして~」
マリはふざけた態度で酒を飲みながら、部屋の人形達を観察する。
(微かに感情はあるのかな……? 無機質に見えるけど、目や口に動きがある。 もう……助けれないのかな)
少しの望みに掛けて、マリは側に居る人形に近付いた。
「えっと……喋れる? 今、貴女の中にいるのは……精霊?」
恐る恐る話し掛けるが返答は無い。
「ん~……ごくごくごくごく、ぷはぁ~! ダメか~……ん? お酒……見てる?」
マリは手に持つグラスを人形が目で微かに追っている事に気付いた。
グラスを右から左に動かすと、やはり人形の目が微かに追う。
「ん~? まぁ、物は試しだよね。 よし! 飲もう!!」
少し躊躇ったが、マリは手に持つグラスの酒を人形の口に注いだ。
元が人間だからか、酒はすんなりと人形の喉を通り飲み干されていく。
「おー! 良い飲みっぷりだね! 飲もう飲もう! 辛い事がある時こそお酒だよ!」
マリも酒を飲んでいると、酒を飲んだ人形が突然崩れる様に座った。
「だ、大丈夫!? お酒弱い?!」
マリは慌てて人形の様子を見ると、人形は泣いていた。
無機質な表情の頬に涙が伝う。
「いた……くな……い。 ありがと……う」
「えっと……どういたしまして? もしかして、意識……あるの?」
マリの問に、涙を流す人形は頷き答える。
「ずっと……くる……い、ずっ……いた……い」
言葉は辿々しいが、人形は必死に訴える。
「で……も、お……さけ。 の…む…と、いた……くな……い」
「そっか……なら、お酒飲ませて良かったよ。 他の皆も……飲む?」
マリが他の人形達を見回すと、一斉に酒を飲みに近付いて来た。 直接命令されていない時は、多少自由に動けるのだろうか。
人形達はそれぞれ酒をマリに飲ませてもらい、同じ様に頬に涙を流した。
マリは残酷な現実に心を砕かれそうになるが、必死に耐える。
この娘達は気の毒だし、助けてあげたい。
それでも、助けれない命は助けれないのだ。
どう見ても人形にされた娘達は既に全身を改造されている。
アダマンタイトの部品、両手に付けられた剣。
変わらぬ無機質な顔面。
もう人間では無くなっているのだ。
美味しいお酒を大量に飲んでも酔えない夜がやってきた。




