神座闘争 17
やいちは夢を見ていた。
不思議な夢であった。
『ここは…何処だ?』
いや、夢の中だというのは自覚している。しかし、問題はそこに何も無かったことである。真っ白で、自分の影さえも白色となって消える不思議な空間。
(早く現実に戻りたいんだが……)
はっきりと、意識を失う前の記憶はハッキリとしていた。
魔王残党軍が神座の召喚をしようとしていた。そして、その結果、みんなのエネルギーが吸い取られ、そのまま深く眠ってしまった。みっと成功していれば、今頃現実では神座を巡って争っているのだろう。
現実ではやいちの肉体は無防備であり、敵に見つかってトドメを刺されてしまったら……と危機的状況にあるのだろうが、それでもなお、あまり焦燥感は無かった。
『はぁ、ゆっくり目覚めるのを待つか』
と思ったその時
「また会ったね、やいち君……」
目の前に、一人の女の子が現れる。
声からして、異世界に来る前によく見ていた夢に出てくる少女の声のようであった。そして、それと同時に思い出す。やいちがナナシと会った時の……栄華に来る前に自分が謎の空間に居たことを…。
しかし、それよりも驚くべきなのは、その姿であった。
『お、お前……?こ、これは…一体…!?』
やいちの心の底から、何かがあふれ出す。
嬉しい?懐かしい?一体、何の記憶だ?何の感情だ?一体、誰の記憶だ?
言葉が出なくなる。
「ごめんね。私がやいち君たちをこの世界に連れ来てしまったせいで、大変な目に会わせちゃって……」
『お前が、連れてきた?』
その言葉を聞いても、やいちの中から怒りなどの感情は一切出なかった。それよりも、やはり嬉しみの感情が湧いて出てくる。
また会えた。その事に対して、ものすごい幸福な感情が心の中で渦巻いている。
しかし、心で分かっていても、脳が理解しない。
一体、誰だ?
『す、すまない……俺はお前の事を知らない。お前は誰なんだ?名前だけでも教えてくれ!!』
やいちは叫ぶ。
それは、失った大事な物を取り戻そうとするように……。
「私自身、この世界に溶け込んで、薄くなって、色んな記憶を失いつつあるの。本名も、忘れちゃった……でも、みんなからはこう呼ばれていたよ」
女の子は小さな声で、こう言った。
「………って」
『!?まさか、お前は―!』
やいちは何かを思い出そうとする。
ここが夢の中だろうからか、周囲の景色が変化していく。
真っ白な世界から、風が吹きあられ、どんどん懐かしい情景へと移り変わっていく。
博士、格闘家、姫、それ以外の、小学校の同級生と遊んだ楽しい記憶。今のやいちを構成させている大事な記憶。
その中に、一つの影があった。
『ダメだ、ダメだ!何でだ!思い出せない……この子は一体!?お前は―!』
気が付けば、雪の中に埋もれていた。
(起きてしまったのか……?)
体が重い。しかし、それでも無理やりやいちは立ち上がる。
周囲には、誰もいない。
やいちは周囲の状況に驚く。
「こ、これは…‥!?」
大地が……浮かんでいる。
何を言っているのか、分からないと思うが、やいちが倒れていた周辺の大地が無い。と思えば、空中に浮かんでいるではないか。
いや、やいちの立っている大地も、まるで一個の小さな島のように浮かんでいる。
そして、天には、一つの光がこの世界を照らしており、その光を中心に島が浮かんでいる。まるで、ここまで登ってこいと言わんばかりに。
さらに、それとは別に大きな坂もあった。
光へと続く、透明な坂。
「これが……神座の召喚、か。俺にはさっぱりだが、ここは誰かと合流しないとな」
そう思いながらも、さきほどまで見ていた夢の事が忘れられずにいた。
(あの女の子は確かに、名乗った。あの名前は……)
考えながらも、肉体を魔力で強化しながら、島から島へと飛んで天へと向かっていく。




